第二十九節 滞在の許可
「すごいな……」
思わずつぶやいてしまっていた。緑を基調とした外装の家や、同色の服を着たシルフ族の人々が歩いている。
しかも、歩く人々達の顔には活気があふれていた。人間と比べれば、あまり豊かではないようだが、その活気にあふれている顔を見ると、そこには何の不自由もないことが解る。
「人間がシルフ族の村に来るのは歴史上初めてですからね」
シルフィアの声も少し自慢げだった。自分の村が褒められたのが嬉しいのだろう。
だが、少し気になることが……。
「……なんか、見られてないか?」
人々の視線が痛い。指揮官を務めたとはいえ、注目されることになれていないため、かなり緊張する。
「それは当たり前ですよ。シルフ族の村に人間が来ることが初めてだと言うことは、交易の時に以外では人間を見ることが出来ないと言うことです。人間を見たことがない人がほとんどなんですから」
そんなものかと思い、それとなく周りを見渡してみると向けられているのは好意の視線だけではないことを悟った。好意や興味の視線の中にひっそりと悪意の視線が混じっている。
警戒をしながらもシルフィアに問いかける。
「それで、族長の所まで後どれくらいで着くのかわかるか?」
「ああ、もうすぐですよ。ほら、あそこに座っているのが族長です」
指で示された先を見てみると、浅黒くやけた老人が座っていた。シルフィアが族長の前に立つ。
「族長、客人をお連れしました」
彼女の声は少し緊張がしているのかわずかにふるえている。
「おお、そうかそうか。ご苦労だった」
朗らかに返事をしている族長からは、森で出会った人狼以上の威圧感を感じた。
近くで族長を見てみると、威圧感が違った。老人とは思えないほどの体つきが良く、猛獣すらおびえさせるほどの獰猛な光を放つ双眸が俺を見据える。また、その瞳からは凄まじい知力を感じた。
「わしが族長のダルカスじゃ。いちおう、名を聞いておこうかの?」
「ソルトと言います。このたびは危険なところを助けていただきありがとうございました」
「いやいや、礼には及ばんよ。それに、助けたのはシルフィアだからな」
この返答にはかなり驚かされた。気弱そうなこの少女が『魔窟の森』を無事に抜けたというのか?
「まぁ、それは些細な事じゃ。それよりも、大事なことがあるじゃろう?」
海のような双眸が俺を見つめる。その目には俺の外見だけではなく、精神の状態、思考などがすべて見通されているようなきがした。
「なぜおぬしは危険な『魔窟の森』をさまよっておった。人族が来ることはほとんど無いはずじゃ」
おそらく、ここが瀬戸際だ。ここで選択肢を間違えれば二度ともといた街には戻ることが出来ないだろう。
「俺には、止めなくてはならない奴がいます。仲間を守るため、俺は、力を欲してここに来ました」
これが、すべてだった。俺は自分の意思のすべてを込めた視線で、ダルカスを見つめ返す
数秒間が千年もの時間に思えた。そして、ダルカスの表情が崩れる。
「よし、おぬしをこの村におくことを許そう」
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