第二十八節 シルフ族の村にて
全身をほのかな暖かさ包んでいた。まるで、春の日差しを浴びているようだ。
俺は半停止状態にある脳をどうにか動かしてそこまで考えた。なにか大事なことを忘れている気がする。
だが、それが何だったのか思い出すことができ……。
昨晩の事を思い出してみる。確か俺は『魔窟の森』で………………。
「――――――――――――!?」
身の危険を感じ、はねるように飛び起きる。昨夜の出来事が夢でないのなら今俺は危険な状態にあると判断した方がいいだろう。
「…………っ!?」
だが、左肩から右腹にかけて激痛が走る。ノイズに乱された頭を必死に動かし、致命傷を受けたはずの俺が生きている理由を一瞬で考えようとしたが、横からかけられた声で思考が中断された。
俺はバカか!? 自分の状況に気を取られ、周りへの警戒を一瞬とはいえ解いてしまった自分の甘さを今更ながら後悔する。
「まだ動いちゃダメです。あなたは重傷なんですから」
どうやら敵意のある人物ではないようだ。そう判断し警戒を解く。見てみると、同年代ほどの少女だった。
金髪碧眼、全身を薄緑を貴重としたローブに身を包んだすこし気弱げな雰囲気のある少女だった。だが、決定的に違う部分がある。
それは、切れ長な耳だった。人間のように丸みを帯びておらず、剣の切っ先のように尖っている。
すかし、俺の困惑など気にもとめていない――気づいていない可能性の方が大きいが――ように言葉を続ける。
「取りあえず、自己紹介からしときます。私の名前はシルフィア。そしてここはエルフ二大種族の片割れ、シルフ族の村なんですよ」
張り巡らしていたすべての思考が吹き飛んだ。自分の状況が、想定していた物とあまりにもかけ離れすぎている。
シルフ族と人間の仲は悪い方ではない。年に数回貿易を行っているくらいだ。だが、エルフは異常なほど警戒心が強く、貿易のために来た大商団すらも決して村の中に入れないという。
多分、人間で初めてエルフの村を見たのではないだろうか? 思わずそう思ってしまう程の衝撃だった。
「重傷だったから族長もあなたを村に入れることを許してくれたけど、起きたらすぐに信用できるか確かめろって言われてるんですよ」
「それを言ったら、意味無いんじゃないか?」
「そうですね、でも、一応あなたのの素性は知っとかないといけないし……」
シルフィアという少女は本気で考え込んでしまった。すこし、いやかなり天然が混じってるのではないだろうか?
仕方がないので俺も自己紹介を視することにした。
「俺の名前はソルト。見て解るだろうけど人間だ。君が俺を助けてくれたんだろ? 礼を言うよ。ありがとう」
俺の自己紹介とお礼を聞いたシルフィアが微笑む。だが、すぐに不思議そうに首をかしげた。
「ソルトさんは商人でもないのに、どうして『魔窟の森』を越えようとしていたんですか?」
「別に越えようとしていた訳じゃないよ。ただ、力試しに森に入っただけなんだ」
「それにしては必死すぎた気もしますが……」
痛いところを突かれた。だが、本当のことを言うわけにも行かないので、事実を少々変えて説明する。
「俺には超えたい奴がいるんだ。だがから、必死だったんだよ」
シルフィアはまだぶつぶつつぶやいていたが、納得してくれたようだ。
「まぁ、それは置いておくとして、まずは族長に挨拶に行きましょう」
席を立ったシルフィアに付いていく。シルフ族の村を見れるため、少し舞い上がっているのが自分でも解る。
扉を開けると、光が目に飛び込んできた。




