第二十二節 始まりの手紙
ソルトは自宅に帰っていた。
道具入れや、装備を収納する収納箱、そしてベッド以外特に何もない部屋だった。
服はいつもの戦闘服ではなく、黒を基調として白で装飾されたロングコートに着替えていた。
そして、道具入れから、一つの小さな箱を取り出した。
開けると、黒曜石のような輝きを帯びた一つの指輪が入っていた。
それを手に取り、指に付ける。
そして……
「収納」
そう言いながら指を弾く。
すると、周りにあった食料や道具、武具が光となって指輪に吸い込まれていく。
「収納完了っと。……やっぱり便利だな『冥府の指輪』」
『冥府の指輪』とは旅の時に使う収納用アイテムである。
大抵のアイテムは収納することが出来るが、とても高価だから持っている者はほとんどいない。
ソルトがあわてたように旅支度を調えているのには訳がある。
*-*-*
退院し、帰宅している途中に伝書鳩が来た。
「なんだ?」
近くに来ると、便箋へと変わる。
開いてみると、映像型の手紙だった。
名前は書いていなかったが、代わりに起動呪文が書いてあった。
呪文をつぶやくと、映像が再生された
出てきたのは見覚えのない少年だった。
自分とほとんど同い年に見える。
「久しぶり、兄さん」
「――――!?」
反応しても、記録されたメッセージを再生するだけの手紙から返事があるわけがない。
言葉は続く。
「何年ぶりか解らないけど、取りあえず用だけ伝えるよ」
「今回は忠告というか、宣告をするために手紙を送ったんだ」
「どういうことだ?」
反射的に問いただす。
だから、自然と答えた形になる。
「兄さんと、一対一の決闘をしたいんだ」
「なっ……!?」
「イヤとは言わせない。断ったら兄さんの大切な人を殺す」
あまりにも簡潔に言われたので、理解がおくれる。
大切な人を……殺す?
訳が分からない。
だが、そんなことを待ってはくれない。
「兄さんが……兄さんが師匠を殺したんだ!!」
弟が押さえきれない何かをはらんだ声で叫ぶ。
「だから……僕があなたを殺す。師匠の敵を取る」
そう言うと、映像が終わった。
「シオンが……俺を殺す?」
まだ、状況を理解できなかった。
*-*-*
だからこそ、旅の準備が必要だ。
逃げるわけではない。
さらに、強くなる。そのために修行と言うほど大げさではないが、旅に出るのである。
もう、連合長には伝えてある。
連合長は、「帰ってくるのだな?」とだけ確認し、許可を出してくれた。
最後にユリナへの手紙を書く。
「頼んだよ」
意味はないのだが、そうつぶやくと手紙を投げる。
それは、空中で鳩のような姿に形を変えた。
彼は、人生の大半を過ごしてきた街を旅立つ。




