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孤高の魔術士  作者: 雪の里
第一章 『少年の決意』
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第二十一節 それぞれの思い

「くそ……」


 街に帰ってきたアーニスは、思わずそうつぶやいていた。


 自分の力が、自分の弱さがいやだ。


 そう感じていた。


 砥石を取りに行ったときは、ソルトがいつの間にか三体ものスコルピオンを倒してしまってた。


 そして、今回の転移陣守護獣討伐戦では、ユリナが圧倒的な神器の力で敵を倒した。


 オーレリアは負傷者の回復に精を出し、アテナは得意の大規模破壊魔法で活躍していた。


 だがオレは……。


 何一つ出来なかった。


 大剣による斬撃はすべて弾かれ、魔法もダメージすら与えることが出来なかった。


「オレは……どうすりゃいいんだ…………」


 アーニスは自分の無力を噛みしめていた。


 だが、そこで一つの可能性を思いつく。


 自分の部屋においてある、あの武器を扱うことが出来れば……。


「……やってやる!」


 アーニスは自分の宿屋に向けて走り始めた。



 *-*-*



 街で一番大きな病院の一室。


 そこにソルトの姿はあった。


 その隣には、ユリナの姿がある。


 彼女の表情は優れなかった。


 なぜなら、3日経つのにソルトが目を覚まさないからだ。


 彼は上半身の服は脱がされ、肩から胸にかけて包帯が巻かれている。


 それを見ると、つらくなってくる。


「ソルト君ゴメンね


 もう、この病室に来てから半日が経っている。


「……そろそろ帰ろうかな」


 つぶやいて、椅子から立とうとしたその時だった。


 突然ソルトがはねるように起き上がった。


「守護獣はどうし――――!?」


 だがすぐに肩の辺りを押さえてうずくまってしまう。


「まだ起きたら駄目だよ」


 注意した後、思わず微笑む。


「おはよう、ソルト君」


「どちらかというと、こんにちはだろ」


 ソルトが外見てそう言った。


 すでに、事情は飲み込んだようだ。真面目な表情になり、続ける。


「あれから何日経った?」


「3日だよ」


「倒せたのか?」


 その質問に、答えるかどうか少し迷う。もし神器を解放して倒したと言えば、彼は自分を責めるだろう。彼は、優しすぎるからだ。


 それでも、本当のことを伝えるべきだろう。


「わたしが神器を解放したからちゃんと倒せたよ」


「代償はなんだ!? 何を差し出した!?」


「大丈夫だよ。最初に神器解放に限って代償は決定されてるんだよ」


「……どういうことだ?」


「代償は、『天神の盾』の異常な防御力を代償に発動できる。しかも、盾の代わりに『天剣ヘヴンリィソード』に変化するし、代償なんて有ってないようなものだよ」


「そんなの……」


 だが、ソルトはそれ以上は何も言わなかった。


「じゃあ、そろそろ帰るね」


「ああ、わかった」


 その答えを聞くと、立ち上がり病室を出た。


 その足取りは、とても弾んでいた。



 *-*-*



 ユリナが出て行った後の病室。


 ソルトは1人起きていた。


 握った拳を壁にたたきつけた。


「クソッ!!」


「俺のせいで……」


 師匠を死なせてしまってから、力を貪欲に求め続けていた。


「まだ、足りない」


 さらなる力が欲しい。


 そう思った。


 なぜなら、守りたい物が出来たから。


 いままで持っていなかった物が手に入ったから。


「俺は……最強になる」


 何かに耐えるようにつぶやいた。


 物語は、歪み始めていた。

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