表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤高の魔術士  作者: 雪の里
第一章 『少年の決意』
20/42

第十九節 『武装解放』

 ソルトは背筋に冷たい物が走るのを感じていた。


 先ほど悪魔が見せたあの動き、油断していたとはいえ、ソルトには見えなかった。


 だが、躊躇している暇はない。


 部隊員全員の命を背負っているのだから。


 こちらを向いていた悪魔の姿が霞む。


 ソルトの目の前にいきなり現れ、剣を振った。


 斬撃がソルトの体に食い込む。


 否、すり抜けたのだ。


 ソルトの体が溶けるように消え、背後に現れる。


 簡単な幻惑魔法だ。


 高速の斬撃が確実にダメージを与えていく。


 攻撃をくわえると、すぐに敵の死角に移動する。


 いつの間にか彼は、残像を残す程の速さで悪魔の周りを移動していた。


 しかし、悪魔もずっとやられているほど甘くはない。


「グギャァァァァァァ!!」


 奇妙な叫びとともに剣を振るってくる。


 ソルトは今まで通りにステップでよけようとしたが、予期せぬ事とが起きた。


 剣が分裂し、全方位から迫ってくる。


 とっさに高速の四連斬りで弾くが、衝撃で体勢が崩れた。


 後方に倒れる力に逆らわず、跳躍で距離を取る。


 だが、悪魔はぴったりと追従してくる。


「クソッ!!」


 思わず悪態をつく。


 分裂する剣に、防戦一方に追い込まれてしまった。


 防御に集中しても、攻撃の余波まで防ぐことは出来ず、全身に小さいキズが増え始める。


 その傷一つ一つは大したことはないが、増えれば増えるほどそのダメージが積み重なり、ソルトの体をさいなんでいく。


 そして、均衡が崩れた。


 剣の力を流すことが出来ず、体勢が崩れてしまう。


「しまっ――――!!」


 無情にも、分裂した剣の内の一本がソルトの体をとらえた。


「………………ぐぁっ!?」


 剣がソルトの左肩を鋭くえぐる。


 その衝撃で数m飛ばされる。


 起き上がりながら、ソルトは傷を確認する。


 致命傷ではないが、決して浅くはない。


「……絶望的だな」


 自嘲気味につぶやく。


 完全に起き上がる前に、悪魔が目の前に立ちふさがる。


 口を大きく開かれ、衝撃波ブレスが打ち出される。


「『貫通破砕ピアーシング・スパイク!!」


 とっさに必殺の突きを放つ。


 だが、十分に魔力がこもっていない突きは、衝撃波を相殺しきれなかった。


 また、数m吹っ飛ばされる。


 意識に靄がかかり、視界が霞む。


 次第に暗くなっていく視界に、飛び込んでくる影を見た。


「ソルト君!!」


 誰だ?


 聞いたことがあるような気がするが、思い出せない。


 意識が暗転した。



*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*



「ソルト君!!」


 ユリナはそう叫ぶが、ソルトは答えない。


 傷を見たところ、致命傷ではない。


 それを確認して、ユリナはほっと息をつく。


 悪魔は、アーニスやアテナ、オーレリアが足止めしている。


「……すこし、待っててね」


 ユリナはそうつぶやくと、加勢するべく悪魔に向き直る。


 

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*



 悪魔と戦い初めてから、どれくらい時間が経ったかも解らない。


 戦意を取り戻した部隊員達が戦闘に参加し、激闘は続いていた。


 ソルトはすでにオーレリアが応急処置を済ませているため、1人回復魔術師をつけて、安全な場所に預けてある。


「いつまで続くの……?」


 意識していないのに、声が漏れる。


 魔法が雨のように降り注ぎ、斬撃が嵐のように舞い、金属と悪魔の甲殻がぶつかる音が辺りを満たしていた。


 すでに悪魔の甲殻は至る所が剥げ、ヒビが入り、砕けていた。


 全身に致命傷に近い傷を負いながらも、全く衰えることのない攻撃性に、自分たちの攻撃が効いているのか疑いたくなる。


 犠牲者は、10を超えた辺りから数えるのを止めている。


 自分も、覚悟を決めなければならないようだ。


 そう考えたユリナは、全体に指示を出す。


「みんな、10秒時間を稼いで!!」


 部隊員達は訝しげな顔をしていたが、一斉に呪文を唱え始める。


 一斉に放たれた魔法が地を揺るがすと同時に『天神の盾』を掲げ声を上げる。


「『武装解放フルブースト』!!」


 盾が莫大な光とともに弾け、その中心に一つの影が現れる。


 それは、白銀の光を放つ流麗な細剣レイピアだった。


 ユリナがそれを手に取ると、彼女を純白の光が包む。


 その光が消えると、彼女は露出の多い鎧ではなく、純白の衣を着ていた。


 ユリナは、絶句している仲間に向かって叫ぶ。


「総攻撃!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ