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孤高の魔術士  作者: 雪の里
第一章 『少年の決意』
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第一節 動き出した歯車

 ソルトはゆっくりと目を開ける。あの日、カゲムネに連れて行かれた場所で師匠の帰りを待っていた、いや、恐怖で動けずにうずくまっていたが、帰ってきたのは血まみれのカゲムネ一人だった。


全身に刻まれた深い傷の痛みに耐え、師匠がはめていたイヤリングを差し出しながらたった一言「すまない」と言ったときの彼の顔を忘れることは一生できないだろう。


 ソルトはカゲムネを恨んだこともあった。


しかし、誰よりもそばにいながら助けることが出来ず、自分だけ生き残ってしまった。


彼が誰よりも自分を責めているはずだ。


その所為か、カゲムネはそのあと山に一人こもり隠居生活を送っている。


もう数年、彼と会っていなかった。


「…………元気にしてるかな」


 久々に、カゲムネと会いたいと思った。だがまずは街に帰ろう、そう思って立ち上がろうとした時、展開していた索敵魔法が反応する。


 しかし、あわてて飛び起きるような無様なまねはしない。


 冷静に状況を判断し、対処するのが、生き延びるための鉄則だ。


 足音が近づいてくる。


 規則的で小さな足音からして、魔物である可能性は低いと感じていたが、それでもソルトは油断はしない。


 剣を抜いて下段の構えを取り、迎撃の準備をする。


 曲がり角から、出てきた人物は彼を見ると、まず驚愕し、そして呆れたような表情を作った。


「ソルト君、なにしてんの?」


「なんだユリナか、驚かせるなよ」


 戦闘態勢と解き、その反動でさらなる疲れを感じながらソルトは脱力したように行った。


 彼女の名前はユリナ。ソルトと同じギルド『聖十字連合』に属している、と言っても彼女は『四大騎士アークナイト』と呼ばれるギルド幹部の一人であるため、ヒラのソルトとは大きな差があるが、色々あったことで知り合いになった。


「なんでこんな所にいるんだ? いつもお前は第4層から6層あたりで狩りをしているんじゃなかったのか?」


ソルトは、何故第七層にいるんだ? と言う疑問を抱いていた。


「ああ、ちょっと素材っていうか砥石? を探してるんだけど、どうせなら手伝ってくれない? ちゃんと報酬は払うから」


 ユリナの言葉を聞くと、ソルトは露骨にいやそうな顔をした。


「なんで俺がそんなことしないといけないんだよ」


「まぁまぁそう言わずに、どうせ暇なんでしょ?」


「暇じゃないよ…………」


 どう断ろうかとソルトが考えていると、ユリナがさらに条件を付け加えてくる。


「もちろんタダで手伝ってくれって言ってる訳じゃない。君のその剣、かなりの大業物でしょ?」


「それはそうだけど……」


 ソルトには彼女が何が言いたいのか全く理解できない。


「わたしが探しているのはそれの切れ味を完全に取り戻すことが出来るほどの最高級の砥石なんだけどなぁ~」


「ホントか!?」


 思わず聞き返してしまった。


 師匠の残したこの剣は一度鍛冶屋に持って行って研いでもらおうとしたことがことがあるのだが、砥石だけが削れて肝心の切れ味が全く持ってよくならなかったのだ。


まぁ、研がなくてもそこいらの業物なんかよりよっぽど切れるのだが、ソルトはこの剣の本当の性能を知りたくてかなり前から腕のいい鍛冶屋や、高級な砥石を探していた。


 だが、それでもソルトは躊躇してしまう。


 彼は弟と別れてから、常に一人で行動してきた。


一時行動を共にした者がいなかったわけではないのだが、どうしても他人に合わせなくてはならない他人と一緒に行動するということに馴染むことが出来ない。


 まぁ、躊躇している理由はそれだけではないが……。


「じゃあ、鍛冶屋も一緒に紹介するって」


「………………」


「お互いに利益がある言い取引でしょ?」


「う~ん、だけどなぁ……」


 ソルトは腕を組み、考え込んでいた。確かに言い提案だが、なにぶん精神的なハードルが高い。


その時、薄暗い空間を新たな光源が照らす。今のは武器復元の光……っと思ったときには、すでに首筋に剣が添えられていた。


「で、手伝ってくれる?」


「よ、よろこんで」


 どうやらソルトには、Noという選択肢は与えられていなかったようだ。


「あ、それと君の今の実力を知りたいから明日広場に来てよ、模擬戦をするから」


「はいはい、解ったよ」


 ソルトの答えを聞いたユリナは、にっこりと笑うと「じゃあね」とだけ言ってもと来た道を戻っていった。


「……あ~、何でこんな事に…………」


 彼のつぶやきは、むなしく反響するだけだった。

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