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孤高の魔術士  作者: 雪の里
第一章 『少年の決意』
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第十節 油断と決断

 静けさが辺りを包んでいた。


 聞こえるのは、スコルピオンの死体が、火の粉のようになって散っていく音のみ。


 もう、化物スコルピオンは起き上がってこない。それが分かっているのに、途轍もない疲労で体が鉄のかたまりになってしまったように動かない。


 誰もが、生き残ったと言う事実を噛みしめているようだった。


 いつの間にか近づいてきていたユリナが言う。


「ソルト君、もし、あの爆炎から逃れられなかったら、どうするつもりだったの?」


 彼女の目からは、一筋の雫がこぼれ落ちていた。


 その顔に、何も言えなくなる。


 だが、分からない。


 なぜ、彼女は自分のことをここまで心配してくれるのだろうか?


 ソルトは、笑ってごまかそうとして、失敗した。


 笑うことが出来ない。


 自分には、その資格が無いから。


 彼女たちの隣に立つ資格がないから。


「死んじゃうんだよ? 死んじゃったら、意味がないんだよ?」


 眩しかった。


 他人の為に、涙を流すことが出来る彼女が。


 かすれた声で、答える。


「でも、生きてる。確かに死んだら終わりだ。だけど、俺は生きてる」


 死んだ方がマシだ。そう思ったことは何回もあった。


 そう、生まれたあの村で村人達が……。


「……ッ!!」


 昔の記憶が蘇ってきた。あの、忌々しい記憶が。


 どうにかその痛みを打ち消し、続きを言う。


「これからも、俺に生きて欲しいと思ってくれる人がいる限り、俺は死なない。絶対に生き残ってみせる」


 そう言いきると、ユリナは涙をぬぐった。


「そうよね、君は生きてる。それだけが、変えようのない事実」


 声に、いつもの明るさが戻っていた。


 そこで、少し体力が戻ったのか、他のメンバーも会話に入ってきた。


「その火傷、酷いみたいだけど、どうすんの~?」


「私が治癒しましょう」


 そう言うと、空間に魔法陣を描き始める。

 


 ここでひとつ、説明をしておこう。


 魔法は、詠唱、魔法陣、古代文字、刻印などによって発動するが、それぞれには長所と短所がある。


 詠唱魔法の場合は、戦闘中にも詠唱でき、呪文スペルワードの組み合わせによって、多種多様な魔法を発動できるが、詠唱に時間がかかり、発音を間違えたり詰まったりすると、魔法が失敗ロスト

てしまうなどのリスクもある。


 魔法陣は、空間に描くのに時間がかかるが、強力な魔法を放つことが出来、遠距離での戦いや待ち伏せなどに向いている。


 古代文字は、呪符などに文字を書き込み、魔法を発動する。簡易な魔法しか発動できないが、一瞬で発動できるため、以外と人気である。


 刻印魔法は、複雑な記号の組み合わせや模様などで発動する。


 武器や、鎧などに刻んだりすることが多いが、魔術士本人に刻む事もある。


 強力な魔法を一文節の発動呪文キースペルで発動できるが、刻印時に強力な魔法であればあるほど、大きな代償を求められる。


 他にも、違う発動方法を同時に使うことで、発動時間を短くする複合魔法ユニゾンスペルなどもある。



 その間に、オーレリアの魔法が完成した。


「願うは癒し、求めるは治癒、哀れな我らに救いの光を」


 魔法陣の中央に淡い光が生まれる。


 それが、ソルトの腕を包み込むと、激痛が引いていく。


「あと、10分もすれば、完全に治るでしょう。


 決して軽い火傷では無かったというのに、治るという。


 これが、『原始の魔女』、オーレリアの実力だ。


「そんなことは良いからさっさと砥石取って帰ろうぜ?オレマジ腹減ったンだよ」


 アーニスの空気をまったく読んでいない発言に、自然と笑いが起こる。


 さっき死にかけたばかりだというのに、それでも笑っている。


 スコルピオンの死体が消えた後に、何かが残っていた。


「なんだこれ?」


 拾ってみると、それは辞書くらいの大きさの、結晶だった。


「まさか、コレが砥石なの?」


 ユリナが呆然とつぶやく。


 あれだけ頑張ったのに、これだけしか手に入らないとは、あまりにも悲しすぎる。


 そこで、アテナがつぶやく。


「鑑定魔法を使って調べて見たけど、やっぱしコレが砥石みたいだよ~」


 アテナが間延びした声がそう告げる。


「じゃあ、後ろにあるアレは偽物だってンのか?」


「まあ、取れたんだから良いんじゃないんですか?」


 オーレリアが励ますように言った。


「まあ、確かにそうかもね」


「それじゃ、帰ろう」


 そう言って歩き出した。


 だが、ソルトがあることを思いつき、提案する。


「さっきの化物が出てきた魔法陣だけど、少し調べていかない?」


「ん。良いんじゃないかな。またあったときのために、弱点とか知りたいし」


「私も手伝お~か~?」


「どうでも良いから早くしてくれ」


 そう言う答えを受け、アテナとソルトは魔法陣の解析を始める。



 そして分かったことは、最悪だった。


 アテナの声が、珍しく動揺している。


「これはヤバイかもね~」


「どうしたのですか?」


「いや、これね、あの化物が倒されたら、30分後に、後三体くらい召喚されるようになってるんだよ」


「でも、魔法陣からは出られないんじゃないの?」


 ユリナの問いには、アテナではなく、ソルトが答えた。


「だが、次に出てくるのはこの階層フロアなら、どこでも行けるみたいなんだ」


「なら、さっさと逃げれば良いだろうが!」


 いらついたようにアーニスが言うと、オーレリアがいう。


「ですが、この階層にはかなりの数のPTがいますし、こんな化物が暴れ出したら犠牲者は相当な数になります」


「じゃあ、どうすんだよ!? 俺らだって万全の状態で一体相手に死にかけたんだ!この状態で三体と戦っ

たら死亡確定じゃねえか!」


 アーニスが叫ぶ。


 覚悟を決める。


「俺が……残る」


 ソルトが名乗り出た。


 仲間を守るために。

プロローグを抜かすと、コレで10話目です!!


いやぁ、飽きっぽい僕がまだ書いてるのが不思議です!


あと、1500PVこの前突破してました。


本当に感謝です!!

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