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孤高の魔術士  作者: 雪の里
第一章 『少年の決意』
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第九節 決着……

 ソルト、アーニス、ユリナの三人は離れては意味がないので速度を合わせながら巨大サソリ(今はスコルピオンとでも命名しておこう)に向かって疾走する。


 その途中であいてもこちらに気づく。


「グオォォォォォ!!」


 ソルト達に向かって威嚇をして、効果がないと見るとすぐに攻撃を仕掛けてくる。


 尾の先端に付いた剣を三人に向かって突くが、それをソルトとアーニスはステップで左右に回避し、ユリナは盾に魔力を送る。


 盾に刻まれた刻印魔法が発動し、半球状の見えない盾となってユリナを守る。この防御術式と身体強化術式こそが、彼女が『月読みの塔』の幹部『四大騎士アークナイト』まで押し上げた力である。


 盾によってはじかれた尾を引き戻すよりも早くソルトとアーニスが同時に動く。


 左右からの回転斬りを同時に尾の先端にたたき込む。


 小気味良い音とともに、尾についている剣の先端の数センチほどが欠ける。


 ファーストアタックとしてはなかなかの成果だ。


 しかし、スコルピオンはそれに動じるわけでもなく、ただ淡々と目標をたたきのめすために行動する。


 竜のアギトのようなハサミが開き、前衛三人を喰らわんと突き出されるが、突如スコルピオンの頭上に展開された魔法陣から、莫大な光が放出され、地面に叩き伏せられる。


 今の魔法は、アテナが放った物だ。


 彼女は、見た目によらず大規模破壊魔法を得意としており、その攻撃力はこの世界で、五本指には入るだろうと言われているほどだ。


 だが、それほどの攻撃を受けても、スコルピオンの甲殻には、目立ったキズが見られない。


 そこで、前衛の三人の体を、魔導障壁が包み込む。


 今度はオーレリアだ。


 見ての通り、ココには世界中の魔術士の中で、トップクラスの実力者が集ってる。


 その後は、スコルピオンに抵抗を許さず、一方的な攻撃が続いた。


 ユリナが攻撃をしのぎ、出来たスキにソルトとアーニスが切り込む。


 その前衛の連携がとぎれた瞬間を狙っていたかのようにアテナの大規模破壊魔法がスコルピオンをおそ

う。


 そしてその間にオーレリアが前衛を回復するという、見事な連携の前に、スコルピオンは為す術無く崩

れ落ちるかと思われたが、突然動きが変わった。


 今までは単調な物理攻撃しか仕掛けてこなかったスコルピオンが、魔法を使い始めたのである。


 前衛が張り付くと、範囲攻撃で撃退し、アテナの大規模破壊魔法には魔法による攻撃をほぼ完全にはじく魔法特化型防御壁を展開することで対応してくる。


 さらに、腕から遠距離魔法を発射し、後方にいるアテナ達にさえ攻撃を仕掛けている。


 いつの間にかソルト達は防戦一方に追い込まれていた。


「くそ、このままじゃヤバイッ!!」


 ソルトのつぶやきが、全員の気持ちを代弁していた。


 それは焦り。


 自分たちの魔力は、そう長くは持たない。


 もう少しで決着を付けなければ、いずれ死んでしまうだろう。


 誰もがそう思っていた。


 が、防戦一方で逃走すらままならないこの状況では、どうすることも出来ない。


 そこで、さらなる悲劇が彼らを襲った。


 スコルピオンが放った遠距離攻撃が、出口付近の天井に当たり、出口のほとんどをふさいでしまった。


 コレでは、もう逃げることが出来ない。


 彼らの焦りが、明確な絶望へと変わった。


 が、その状況を打開することが出来る無謀な案をソルトが出す。


 光学系の魔法を使い、スコルピオンの眼を潰すと一瞬で相手が防御態勢にはいる。


 この状態になると、攻撃がほとんど通じないのだが、みんなに提案を伝えたいこの状況では、かえって有難い。


 振動系魔法を使い、全員に伝える。


「みんな、聞いてくれ。逃げることすら出来ないこの状況では、奴を倒すしかない。

でも、長期戦は無理だ。

だから、一つ策を考えた。

まずは、奴の範囲攻撃を、ユリナが一度だけで良いから完全に防いでくれ。

防いだ後、俺とアーニスがユリナの影から飛び出し、奴の顔面に最大級の攻撃をぶつける。

それで奴がひるんだスキに、アテナが貫通系の魔法を頼む。

オーレリアは、全力でユリナを援護してくれ。

そのあと、光学系の魔法で奴の眼を潰し、防御態勢が解かれた瞬間に、全力の一撃をおみまいする。

コレで駄目ならその時だ」


 早口で語り終えると、全く迷いもせず異口同音な答えが返ってくる。


「面白そうじゃねえか」


「ソルトさんの案は面白いですね」


「まぁ、楽しそうだから良いんじゃないの~?」


「分かった。君の案にかけるよ」


 その会話を終えた瞬間、スコルピオンが防御態勢から復帰する。


 もう、会話をする必要はない。


 必要なことは、すべて話したのだから。


 前衛がつっこむと、範囲攻撃が襲ってくる。


 両腕から爆炎が吹き出し、前衛に殺到する。


 それをユリナの魔導障壁と、オーレリアの援護魔法が完全に防ぐ。


 爆炎がはれた瞬間、ユリナの影から二人が飛び出し、隙だらけなスコルピオンに迫る。


「「おおぉぉぉぉぉぉ!!」」


 二人は重なりあった怒号とともに、剣を振るう。


 ソルトの横凪の一撃と、アーニスの大上段からの一撃。


「グアァァァァ!?」


 最大級の攻撃を受けたスコルピオンはのけぞる。


 突如、頭上に重なり合った魔法陣が展開される。


「固有名称を与えられた攻撃魔法、味わってみなよ」


 いつもとは違う口調でアテナがそう告げる。


殲滅サテライト閃光エーテリオン!!」


 異変に気づいたスコルピオンが横に動くが、もう遅い。


 魔法陣の中心から打ち下ろされた光の柱がスコルピオンの右腕と足を二本消し飛ばす。


 スコルピオンはあまりのダメージに崩れ落ちており、光学系魔法を使う必要はなかった。


 全員の必殺技と言っても良いほどの、切り札的術式が発動する。


『おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』


 光と、誰の物か分からない怒号が辺りを満たした。


 その光が消えたときスコルピオンは健在だった。


「うそっ……?」


 ソルトはユリナの言葉がやけに大きく感じた。


 こちらに向けて残った左腕を向け、大きく開いたそのアギトからは今にも魔法が爆炎が発射されそうだった。


 諦めが全身を満たしそうになったとき、声が聞こえた。



『君なら、できるはずだ』



 ずっと昔に失ったはずの、師匠の声だった。


 けだるさが吹き飛び、全身に魔力が満ちあふれた。


 姿が霞むほどの速さで距離を詰め、右手に持った剣を切り上げる。


 1秒にも満たない時間が、永遠のように感じた。


 アギトの中から、紅蓮の輝きが見え、それに向かって、自分の手の剣がゆっくりと迫っていく。


「届けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 剣の切っ先が、スコルピオンの右腕を切り裂き、あふれ出た爆炎が彼の焼いた。


 身を焼かれながらも、剣をスコルピオンの頭上に向かって投げ、全力で跳躍した。


 空中で剣を捕まえ、全力を込めた一撃を叩き降ろす。


 純白の剣が、スコルピオンを正中線に沿って切り裂いた。


 スコルピオンは今度こそ完全に倒れ伏し、二度と起き上がってこなかった。


 だが、歓声を上げる者は、いなかった。


 まるで声を上げた途端、この化物スコルピオンが起き上がるのではないかと恐れているように。

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