能力測定
朝、目が覚めた。
「……あれ、どこだっけ」
見慣れない天井。ふかふかのベッド。やたら広い部屋。
数秒考えて、思い出す。
(あー、異世界か)
順応が早いのか、現実逃避なのか、自分でもよく分からない。
とりあえず起き上がって、軽く身体を動かす。
「……やっぱ調子いいな」
昨日と同じく、やたらコンディションがいい。
疲れもないし、身体も軽い。
(これも転生特典ってやつか?)
そんなことを考えていると――
コンコン。
「起きているか」
「あ、はい」
扉が開いて、リシェルが入ってくる。
今日は昨日のドレスではなく、きっちりとした制服姿。
あの“仕事モード”のリシェルだ。
(切り替え早いな……)
「準備ができたら来い。検査を行う」
「検査?」
「お前の魔術の規模と性質を把握する」
あー、昨日言ってたやつか。
「了解です」
「三分で来い」
「早くない!?」
バタバタと準備を済ませ、俺はリシェルの後を追った。
---
案内されたのは、屋敷の裏手にある広い空間だった。
「……訓練場?」
石で囲まれた、ちょっとした広場。
ところどころに的っぽいものや、壊れてもよさそうな設備が並んでいる。
(完全に“ぶっ壊していい場所”だな)
すでに数人の兵士が待機していた。
昨日の鎧組だが、今日はどこか緊張しているように見える。
「対象を連れてきた」
リシェルが言うと、全員の視線が一斉に俺に集まる。
やめろ、そんな“爆弾を見る目”で見るな。
「では始める」
リシェルは淡々と指示を出す。
「まずは基本だ。ユウト、昨日と同じように魔術を発動しろ」
「えーっと……」
昨日はノリと勢いだったけど、今回はちゃんとやる感じか。
(どうやって出したんだっけ)
手を前に出して、集中する。
「……出ろ」
――ボッ。
今度は小さな火が、ぽっと灯った。
「おお」
昨日みたいな爆発じゃない。
ライターくらいの、控えめな火だ。
「……ふむ」
リシェルが腕を組む。
「出力調整はできるらしいな」
「いや、たまたまなんだけど」
「たまたまでやるな」
正論。
「では次。出力を上げろ」
「了解」
さっきより強くイメージする。
(昨日くらい……いや、ちょい弱めで)
――ドンッ!!
「強い強い強い!!」
自分でツッコんだ。
的が粉々に吹き飛び、後ろの壁にまでヒビが入る。
兵士たちが一斉に身構えた。
「落ち着け!制御できている!」
リシェルの一声で、なんとか場が収まる。
いやこれ、収まってるのか?
「……今の、ちょい弱めだったんだけど」
「基準がおかしい」
ですよね!!
リシェルはこめかみを押さえながら、指示を続ける。
「次、属性の確認だ」
「属性?」
「火、水、風、土など、通常はどれかに偏る」
なるほど、ゲームでよくあるやつだ。
「順番に試せ」
「OK」
まずは水っぽいイメージ。
「出ろ」
――ザァッ!
今度は水が勢いよく噴き出した。
「うおっ、消火できる!」
「そういう問題じゃない」
続いて風。
――ゴォッ!!
突風が吹き荒れ、砂埃が舞う。
「目ぇ!目ぇ!」
「……次」
土。
――ゴゴゴッ!!
地面が盛り上がる。
「なんでもありかよ!?」
「……最後」
リシェルが、じっとこちらを見る。
「今までと違う“何か”をイメージしてみろ」
「違う何か?」
「属性に当てはまらないものだ」
うーん、難しいな。
でも、なんとなく思い浮かぶ。
(昨日の、あの青白い光……)
あれを再現するように、手をかざす。
「――出ろ」
一瞬、空気が静まった。
そして、
――バチッ。
青白い光が、手のひらで弾ける。
火でも、水でも、風でもない。
ただ“何かが歪む”ような感覚。
次の瞬間――
ズンッ。
離れた場所にあった石柱が、音もなく崩れ落ちた。
「……は?」
自分でも意味が分からない。
今、何した?
周囲が静まり返る。
兵士たちも、完全に固まっている。
リシェルだけが、ゆっくりと口を開いた。
「……やはりか」
「いや、何が?」
リシェルは一歩、こちらに近づく。
その目は、昨日よりもずっと真剣だった。
「ユウト」
「はい」
「お前の魔術は――」
一拍置いて、
「既存の体系に属していない」
「つまり?」
「分類不能だ」
「出たよチート枠!!」
思わず叫んだ。
いやもう分かってたけど!!
リシェルはため息をつく。
「笑い事ではない」
「すみません」
「その力は、扱いを誤れば――」
そこで言葉を切り、周囲を見渡す。
壊れた的、抉れた地面、崩れた石柱。
「この程度では済まない」
「……」
急に現実を突きつけられる。
確かに、ちょっと怖い。
リシェルは俺を見た。
「結論を言う」
ゴクリ、と唾を飲む。
「お前は――」
嫌な予感しかしない。
「即戦力だ」
「そっち!?」
処刑宣告じゃなかった!!
「本日より任務に参加してもらう」
「いや展開早くない!?」
「時間がない」
リシェルは真顔で言い切る。
「ちょうどいい案件がある」
絶対よくないやつだこれ。
「対象は――」
リシェルの目が鋭くなる。
「無許可魔術師だ」
「さっそく!?」
「この無許可魔術師は」
ほんのわずかに、声のトーンが落ちる。
「人を殺している」
――空気が変わった。
さっきまでの軽いノリが、一瞬で消える。
「……マジか」
「ああ」
リシェルは頷いた。
「遊びではない。実戦だ」
俺は、壊れた訓練場を見渡す。
そして、自分の手を見る。
(……いきなりハードすぎない?)
異世界転生、チート魔法、同居生活。
そこまではテンプレだった。
でも――
(いきなり“人殺し相手”は聞いてないんだけど)
こうして俺は、
異世界生活二日目にして、
ガチの事件に投入されることになった。




