取り調べ
石造りの通路は、ひんやりしていた。
「歩け」
「歩いてますって!引っ張らなくても!」
ガチャガチャと音を鳴らしながら、俺は両手を拘束されたまま連行されていた。完全に犯罪者の扱いである。
いや、まあ――やったことだけ見れば犯罪なんだろうけど。
(魔法撃っただけで逮捕って、世知辛すぎない?)
前を歩く鎧の男が、ちらりとこちらを振り返る。
「黙っていろ。貴様の処遇はこれから決まる」
「処遇って何!?いきなり処刑とかないよね!?」
「……場合によってはな」
「あるんだ!?」
軽いノリで言うなよ!!
心臓に悪すぎるだろ!!
やがて、重たい木の扉の前で止まる。衛兵のひとりがノックすると、中から低い声が返ってきた。
「入れ」
ギィ、と扉が開く。
中は簡素な部屋だった。机と椅子、それから書類の山。いかにも“取り調べ室”って感じだ。
そして、その机の向こうに座っていたのは――
「……ほう」
黒髪を後ろでまとめた、やけに目つきの鋭い女だった。
制服っぽい服に、長い外套。胸元にはさっきの連中と同じ紋章。
どう見ても偉い人だ。
「こいつが例の“無許可魔術師”か」
「はっ。現行犯で拘束しました」
「ご苦労」
淡々としたやり取り。いや怖い怖い怖い。
完全に“やばい奴扱い”されてるじゃん俺。
女は俺をじっと見つめる。
上から下まで、値踏みするみたいに。
「……見たところ、ただの一般人にしか見えんな」
「それ!!それなんです!!俺ほんと一般人なんです
よ!!」
「ならばなぜ魔術を使った?」
「使えそうだったから……」
「理由が最悪だな」
即答された。ぐうの音も出ない。
女はため息をつき、こめかみを押さえた。
「いいか。この国では魔術は登録制だ。適性検査、教育、認可――すべてを経て、初めて使用が許可される」
「免許制かよ……」
「当然だ。街中で爆発を起こされたら困るだろう」
「さっきまさにそれやりました……」
「自覚はあるようだな」
ありますとも!!
めちゃくちゃありますとも!!
女は書類を一枚めくる。
「通常であれば、無許可魔術は最低でも罰金、悪質なら禁錮刑だ」
「禁錮!?」
異世界きて早々、前科持ち確定じゃん。
人生ハードモードすぎない?
だが、女はそこで言葉を切った。
「……だが」
「だが?」
「お前の魔術、報告では“詠唱なし・魔導具なし・属性不明”とある」
「え、そうなんですか?」
「自覚もないのか……?」
呆れたような目を向けられる。
いや知らんがな。初めて使ったんだぞ。
女は椅子にもたれ、腕を組んだ。
「通常、魔術は詠唱か魔導具を介して発動する。完全無詠唱は、熟練の魔術師でも困難だ」
「へえ……」
「それを、いきなり街中でぶっ放した」
「言い方ぁ!!」
事実だけど!!
女の目が、わずかに細められる。
「結論から言う」
ゴクリ、と喉が鳴る。
これ、処刑宣告くる流れじゃないよな……?
「お前は危険だ」
「やっぱり!?」
「だが同時に――」
そこで、女は少しだけ口元を歪めた。
「使い道がある」
「……はい?」
なんか急に不穏な単語出てきたんだが?
「選べ」
そう言って、机を指でトン、と叩く。
「このまま罪人として裁かれるか」
一拍置いて、
「我々に協力するかだ」
……あれ?
これ、もしかして――
(テンプレイベント来た?)
牢屋エンドかと思ったら、まさかのスカウト展開。
いやでもこれ、絶対ろくでもないやつだろ。
でも断ったら多分アウトだよな?
俺の異世界人生、いきなり重要な分岐点に立たされていた。




