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9、宿屋ノーム

「次のミッションも手伝ってくれるんですか?」


 私は、そう尋ねながら、携帯機のミッションの画面を開く。彼は頷いてくれたけど、さっきまでの余裕のありすぎる表情ではない。やっぱり照れたんだよね。



【ミッション4】未達成

 宿屋にチェックインしよう!

(残り3日7時間06分)


【ミッション1】友達を作ろう!

【ミッション2】コンセプトカフェに行こう!

【ミッション3】看板通りに行こう!



「次のミッションは、宿屋にチェックインしよう、が出ています。宿屋に行くだけじゃなくて、宿泊手続きが必要ってことですよね?」


「チェックインってことは、始まりの宿屋は除くという意味だ。しかし、4つ目で宿か。次は酒場じゃねぇか? 悪意を感じる流れだな」


 あれ? 宿屋と言うとまた誘ってるのかと言われるかと思っていたら、セルさんの反応は真逆だった。険しい表情をしている。


「悪意ですか?」


「あぁ、やはりアース星から来た魔力のない主人公は、帰したくないらしい。確実に永住者になるからな。最初のミッションで友達を作ることは共通だが、その先はランダムなはずだ。しかし、コンセプトカフェ、看板通り、そして宿屋だろ?」


「友達ができたら、一緒にコンセプトカフェに行って、看板通りで推しの話をして盛り上がる、という流れじゃないですか?」


「俺には、大量の友達に追われて、コンセプトカフェに逃げ込んで、看板通りで悪い男に捕まって、宿屋に連れ込まれるように見えるけどな。この次が酒場なら、悪意が確定だ」


 なんだか、性善説と性悪説って感じ。彼の役割は、悪役各種だから、ネガティブな発想になるのかも。


「次が酒場なら、なぜ悪意が確定なんですか?」


「宿屋にチェックインした次のミッションが酒場なら、普通は、その日の晩飯を酒場で食べないか? 何も知らない主人公は、そのままダラダラ過ごして、ミッション失敗だ。まぁ、とりあえず宿屋だな」


 彼は芝生から立ち上がると、看板の向こう側へと戻っていく。


 あれ? 私も立ち上がらされるような強制力を感じた。そして、看板の向こう側へと押し出された。そうか、芝生のある場所は、一人では居られないのね。




 ◇◇◇



「宿屋は、ここなら地下はない。自分でチェックインしてみな。俺は、ここで待っていてやる」


「えっ? 私ひとりで?」


 あっ、失言だよね。そもそも私のミッションだ。彼はまた、意外そうな顔をしている。


「オモチの中身は、ガキか?」


「いえ、成人しています。行ってきます!」


 ちょっとカチンときた私は、クルリと背を向けた。彼のケラケラと笑う声が聞こえたけど、振り返らない。




「あの、宿泊したいんですが」


 宿屋のロビーは、上品な調度品が並び、近寄りがたいほどの高級感が漂っている。私は少しビビりながらも、フロントのお姉さんに話しかけた。彼にカチンときた勢いがなければ、声をかけることは難しかったかもしれない。


「新たな転生者様ですね。お一人様でしょうか」


「はい、ひとりです」


 なぜ新たな転生者だとわかるのか、少し疑問に感じつつ、お姉さんがタブレットを操作するのをぼんやりと眺めていた。居心地が悪い。帰りたい。


 私は普通の服を着ているのに、この宿屋の宿泊客は、みんな裕福そうに見える。女性は着飾っているし、男性もオシャレなスーツだ。セルさんが外で待つと言ったのは、これが理由かも。



「携帯機をこちらへお願いします。画面は何も開かないで大丈夫ですよ」


 差し出されたトレイに携帯機を置くと、何かの道具を近づけられた。ピロンと音がすると、お姉さんはやわらかな笑みを浮かべた。



「オモチ様、チェックインが完了しました。宿屋のアイコンが追加されております。開けてみてください」


 名前がバレてる!


「は、はい」


 携帯機を持つと、ホーム画面に宿屋のアイコンが増えていた。それに触れると、画面いっぱいに鍵のマークが表示された。上には宿屋ノームと書かれていて、右下には122という数字も見える。


「オモチ様のお部屋は、1階の22号室になります。その画面を開いて歩いていただくと、お部屋への地図が表示されます」


「へぇ、携帯機に鍵も入っているのですね」


「はい。チェックアウト時刻は、明日の昼12時までとなっております。ごゆっくりお過ごしくださいませ」


「ありがとうございます。宿代の支払いは、チェックアウト時ですか?」


「いえ、室料はいただいております。宿屋の名前に触れていただくと、履歴が表示されます」


 宿屋ノームという名前に触れてみると、領収書のような物が表示された。35,000ゴールド? 高くない? まぁ、安全には代えられないか。


「あっ、このまま部屋には行かずに、外出しても大丈夫ですか?」


「はい、何の問題もございません。ですがオモチ様、必ず本日中にお戻りくださいませ。0時を過ぎますと、街は物騒になりますので。お気をつけて、いってらっしゃいませ」


 お姉さんは、深々と頭を下げて見送ってくれた。この宿屋は、ちゃんと忠告もしてくれるのね。




 宿の外に出ると、セルさんは、女性と立ち話をしていた。だけど私に気付くと、その女性を追い払う仕草をしている。


「お待たせしました。あの……」


 私は、彼が追い払った女性に睨まれている気がして、少し恐怖を感じた。


「あぁ、気にするな。今の俺は、おまえの恋人だからな」


 セルさんが大きな声でそう言うと、その女性は、スタスタと離れて行った。


「お知り合いなんですよね?」


「まぁな。それより、次のミッションは何だった?」


「あっ、まだ確認してなくて……」


 携帯機に触れようとした私の手を、セルさんが握った。手を繋いでる!?



「あっちで一緒に見ようぜ」


 彼は、石畳の通りを指差した。


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