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6、置いて行かれたくない気持ち

 彼は芝生から立ち上がり、立て看板の向こう側へと出ていく。私もついて行ったけど……。


「ついてくんなよ。じゃあなって言っただろ?」


 彼は、私を放置して立ち去るつもりなの?


「待ってください。私はどうすれば良いか、全然わからないんですけど」


「邪魔の入らないうちに、次のデイリーミッションをやればいいんじゃないか? じゃあな」


 また、スタスタと歩いていく。彼は私を、本気で置き去りにする気みたい。それに気づいたら急に不安になってきた。



「あっ、あの! コンセプトカフェってどこですか」


 私は、こんな失礼な人に、置いて行かれたくないって思ってる。去る者を追ってしまう癖なんて、なかったんだけどな。


 セルさんは意外そうな表情で、振り返った。


「あんた、俺を誘ってるのか? 中身は成人してるって言ってたよな」


「へ? いや、そういう変な意味じゃなくて……」


「俺のプロフィールを見ただろ? 街での役割は、悪役だぜ。主人公は、あまり関わるべきじゃない」


「あ、悪役各種って、何なんですか!?」


 私は、じゃあなと言われる前にと焦って、変な質問をした。聞かなくても、いろいろな悪役の役割だってことがわかるのに。


 彼は、また意外そうな表情をしている。


「あんた、マジで俺を誘ってるのか? 役割として、悪役を複数担当してきたから、悪役各種なんだよ。つまり俺は、ミッションに失敗して、ゲーム舞台と研究室を何度も行き来してるってことだ」


 この人は、ちゃんと真面目に答えてくれるんだ。最初の印象が最悪だったからか、彼に対する信頼度が、私の中で上がっていく。



「そういう変な誘いじゃなくて、純粋にもう少し話したいと思って……」


「は? まさかキスしたくらいで、俺に惚れたとか言わねぇよな? あんた、中身は大人なんだろ?」


「あれは、印象悪かったですけど」


「それならいい。主人公はモテるぜ。乙女ゲームのキャラで推しがいるなら、会いに行けばいい。せっかくあと23時間以上の自由時間があるんだからな」


 やっぱり彼は、役割では悪役みたいだけど、悪い人じゃない。


「推しはいますけど、何も知らない状態で会うと、失敗してしまいそうだから……」


 つい本音がこぼれてしまった。ウィルには会ってみたいし、他にも会いたいキャラはたくさんいる。だけど、変な子だと思われたくない。



「はぁ、仕方ねぇな。まぁ、俺も、期限ギリギリのミッションに協力してもらったからな。コンセプトカフェは、何がいいんだ?」


 彼は、何かを諦めたような顔をしてる。用事があったのかもしれないけど、私の不安な気持ちを理解してくれたのかな。


「ミッションには、コンセプトカフェに行こう、としか書いてないです」


「デイリーミッションは、基本的にほとんどが簡単だからな。じゃあ、近くの店に行くか」


「はい!」


 勢いよく返事をしてしまった私。彼は、また意外そうな顔をしている。私が他の人とは違う変な反応をしてるのかと、ちょっと不安になる。




 ◇◇◇




「ここでいいか? あんたは知らないゲームかもしれないが、新しいゲームのコンセプトカフェは混んでる。軽く昼飯でも食うか」


「はい! あっ、タイトルはわからないけど、このポスターには、見覚えがありますよ」


 店の前には、大きなポスターが貼ってあった。かなり前に流行った乙女ゲームかな? スープラ社のゲームリストで見たことがある。18禁の大人の恋のゲームだっけ? 途中から有料だから、無課金勢の私はやってない。


「アース星での配信は、10年以上前だと思うぜ。この人工星スープラで、一番最初に制作されたゲームだ。他の星なら、15年くらい前かもな」


 地球以外でも、乙女ゲームを配信してるの!?



 店に入ると、ゲームの世界観を意識したような服を着た店員さんが、席に案内してくれた。コスプレというほどではないけど、街を歩く人とは雰囲気が違う。


 やり込んだゲームのコンセプトカフェに行ったら、私はテンションが上がって、大騒ぎしてしまうかもしれない。


 私がキョロキョロしている間に、彼が注文を済ませていた。何だか、本当の恋人みたい。



「とりあえず、Aランチにした。やはり、古いゲームのコンセプトカフェは、人が少なくていい」


 落ち着いた雰囲気の内装だからか、カップルばかりだな。私も、セルさんと来ているから、同じように見えるのかもしれないけど。


「あっ! カタログがある!」


「あぁ、それは、どのコンセプトカフェも共通だ。乙女ゲームのどこで登場した店かが、わかるようになっている」


「へぇ、ファン心理を完璧につかんでますね」



 やっぱり、セルさんは悪い人じゃない。ちゃんと恋人を演じてくれているみたい。彼の役割は悪役なのに、まるで攻略対象のような面もあるのね。


 カタログをパラパラとめくった。やはり、花の街ジュエンは、前作のメイン舞台だから、街の中には、『青に染まるキミの春』のコンセプトカフェが多いみたい。



 あれ? これって……。


 この店のコンセプトになっている乙女ゲームの名場面集で、私は気になる名前を見つけた。攻略対象の一人に、セルシードという黒魔導士がいる。乙女ゲームは二次元だから別人に見えるけど、さっきの彼のプロフ写真と、雰囲気が似ている気がする。


「これって、もしかして……」


「なっ? 何を見つけてんだよ。さっさと食え」


 彼は、慌ててカタログを閉じた。この店がコンセプトにしている乙女ゲームに、彼は登場していたってこと?



 聞いてみたい気持ちは湧いてくるけど、なんだか触れてはいけない気がした。今の彼は、悪役各種だもんね。


「わっ! このスープ美味しい!」


 私は、丁寧に作られたランチを、しっかり味わいながら、美味しくいただいた。


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