3、始まりのカフェ
朝食を食べた後、案内人のチビタさんと一緒に、外へ出た。外の景色を見た瞬間、私は驚きで固まってしまった。
「オモチさん、大丈夫ですか? 人の多さに驚かれたのでしょうか。この街ジュエンは大きな街ですので、他の街からも多くの人が訪れるのですよ」
「やっぱり、花の街ジュエン? 見たことのある景色だと思いました。二次元と三次元では、少し印象が違うけど」
そう。この街は、前作の乙女ゲーム『青に染まるキミの春』のメイン舞台の街にそっくりだった。しかも、行き交う人達は美形ばかりで、なんだか気後れしてしまう。
「この景色はゲームにも登場するのですね。街のあちこちに、乙女ゲームのポスターを貼った看板通りがありますよ」
チビタさんは優しい笑みを浮かべて、私を先導するように歩き始めた。すれ違う人は皆、私に笑顔を向けてくれる。
「そうなんですね! 写真を……あー、スマホはないんだった。そうか、秘密漏洩を防ぐために荷物を預けたのかも」
「皆さんは同じことをおっしゃいます。でも、すぐに見慣れると思いますよ。そろそろ携帯機に地図が増えているはずですが」
あっ、携帯機! 朝食のときにテーブルに置いていたけど、そのまま忘れて来たよ。マズイ。常に持ち歩くようにと言われたのに。
「宿の食堂に置き忘れてしまいました!」
「大丈夫ですよ。ポケットに入っていませんか?」
チビタさんに指摘された通り、なぜか携帯機はポケットに入っている。不気味すぎるんだけど。
「どうして……」
「この世界には魔法がありますからね。携帯機は、オモチさんを記録する魔道具ですので、紛失することはありません。地図のアイコンは増えていますか?」
携帯機に触れると、確かに地図のアイコンが増えていた。開いてみると、街の地図が表示された。行ったことのある場所はカラーになるみたい。始まりの宿の場所もわかる。
「オモチさん、右の店に入りますよ」
「あ、はい」
チビタさんについて行くと、地図には店の名前が表示された。始まりのカフェ?
「皆さん、新たな主人公さんです。お友達を作りに来られました。後は、よろしくお願いします」
えっ? 何? チビタさんはそう言うと、私を置いて出て行こうとしている。
「チビタさん、あの……」
「私の役割は、この店までなのです。宿にお困りのときは、いつでもお越しくださいね。オモチさん、良き出会いを」
優しい笑みを浮かべると、チビタさんは店から出て行ってしまった。ど、どうしよう。
「新しい転生者か。名前は?」
「えっ? えーっと……」
私の本名を名乗るべきか、乙女ゲームでの名前を言うべきかわからない。一気に人が集まってきた。みんなニコニコしているけど、なんだか逆に怖い。
「そんなに一斉に詰め寄ると、ビビるんじゃねぇの?」
「そうね。皆さん、ちょっと離れなさい。お友達になりましょう。私はシャルルよ。貴女は?」
金髪で巻き髪の20歳前後に見える女性が、声をかけてくれた。きらびやかな服を着ていて、まるで貴族の令嬢みたい。
「オモチです」
「へぇ、珍しい名前ね。フレンド登録をしましょう。魔道具を出して」
「あ、はい」
ポケットから携帯機を取り出した。ホーム画面にはフレンドというアイコンが増えている。たくさんの視線を感じつつ、そのアイコンに触れた。
「私が一番最初の友達ね。主人公にはミッションを手伝ってもらわないといけないのよ。よろしくお願いしますね」
彼女の手から光が放たれた。するとフレンドリストに、シャルルという名前が表示された。
「わっ、よろしくお願いします。私はどうすれば、シャルルさんの携帯機に……」
「あら、何も知らないのね。乙女ゲームをしていたのでしょう? フレンド申請をして承認されたら友達になるじゃない。あぁ、その画面を開いていると、自動承認になるわよ?」
「えっ? あっ……」
フレンドリストには、すごい勢いで名前が増えていく。なんだか怖い。
「でも、私は貴女と直接おしゃべりしたから、友好値がついているわよね? ミッションの手伝いは、友好値の高い友達を優先するものよ。理解したかしら?」
何? この人、まるで悪役令嬢じゃない。
「わかりました。今、お手伝いできるミッションはありますか?」
「私には無いわね。だけど、あら? 画面を開いたままでいいの? どんどん友達が増えるわよ。友達の居場所は地図に表示されるのに、あまりにも無防備だわ。私は、自動承認になるって、教えてあげたわよね?」
「えっ? すごい人数! どうすれば」
「あはは、店にいる全員が友達になったんじゃない? あぁ、近くを歩く人もかしら?」
シャルルさんは、ケラケラと笑っている。フレンドリストは、もう100人を越えてるよ。私は100人以上から監視されるの?
「画面を閉じろよ。バカか、あんた」
あっ、そうか。私は、フレンド画面を閉じた。すると、未読の表示が増え始めた。
「アイコン横に数字が……」
画面を閉じろと言ってくれた声の主を探したけど、どの人かわからない。
「オモチさん、たくさん友達ができてよかったわね。主人公は、どこに行ってもモテるわよ」
「あの、シャルルさん、なんだか一気にフレンドが増えて、少し怖いです」
「それは、貴女がぼんやりしてたからじゃない。でも、ひと月経ったら、友達はほとんど消えるわよ。主人公の期限は、始まりのカフェに来た日から30日だもの」
「主人公の期限?」
「これだけ教えてあげたんだから、私を優先しなさいよ? あっ、私が離れたらすぐに逃げる方がいいかもね。逃げられるならだけど。じゃあね〜」
シャルルさんは、スッと姿を消した。魔法?
すごい形相で、こちらに向かってくる人が何人もいる。私は怖くなって店を飛び出した。




