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20、サフスさんの気遣い

 ラムネさんが離れると、近くにいた人達が一気に近寄ってきた。怖い。彼女は何も配慮してくれないんだ。シャルルさんもセルさんも、宿屋の前まで送ってくれたのに。


「ウチは、前金制だよ? 主人公の席に近寄るなら、2000Gを払ってもらいますよ」


 別のお客さんに対応していたサフスさんが、屋台で調理をしながら、大声で怒鳴ってくれた。すると、みんな離れていく。助かった。



「オモチさん、フレッシュジュースが出来ました。これは、ゲームでも登場したはずですよ。どうぞ」


 サフスさんが、淡いピンク色のジュースを持ってきてくれた。『月の世界の王子様』で、ウィルが好んで飲んでいたジュースかも。私がウィル推しだと言ったから、作ってくれたのかな。


「ありがとうございます。これは、見覚えがあります。何のジュースだろう? って思ってました」


「俺がいたメイロ星では、フレッシュジュースは高価だったから、カフェでは、よく注文されるんですよ。これはアース星で言えば、チェリーのジュースです」


「チェリー? さくらんぼ?」


「はい。ココナッツミルクとソーダ水で割ってあるので、こんな色になるんです。この街では、お酒を入れたカクテルとして飲まれることが多いです。あっ、酒場でカクテルは飲まない方がいいですよ」


「カクテルってオシャレですけど、飲まない方がいいのですか?」


 そう聞き返すと、サフスさんは迷うような困った顔をしている。ちょっと待ってと合図をして、離れていった。主人公に話しちゃいけないことなのかも。



 私は、淡いピンク色のジュースを飲んでみた。ココナッツミルクの香りが強いけど、チェリーっぽい感じも少しある。言われなければ、わからないけど。炭酸はあまり感じない。飲みやすくしているのがソーダ水なのかな。


 これは私の感覚では、フレッシュジュースではない。サフスさんは、フレッシュジュースが高価だと言ってたから、メイロ星では、これがフレッシュジュースなのかも。


 ウィルが飲んでいたジュースを飲めて、テンションが上がる自分と、『月の世界の王子様』の攻略対象の人達を批判する人が多いことが気になる自分がいる。


 彼らが今やっている競争が、その理由っぽい。主人公に関係のある競争なのかな。サフスさんは、彼らと一緒にされたくないからと、この街に移住するほど嫌っているみたいだけど。



「オモチさん、酒場に行きたいときは、俺に声をかけてください。女性同士の方が安心だと思っているなら、逆です。特にマンスリーミッションをしているフレンドに誘われて一緒に行くのは、オススメできません」


 空いた皿を取りにきたサフスさんは、私にギリギリ聞こえるくらいの小声で、そう話した。内緒話かも。


「わかりました。お気遣いありがとうございます」


 私が立ち上がると、サフスさんは、ちょっと待ってと制した。もうお腹いっぱいなんだけどな。


 しばらく待っていると、エプロンを外した彼が戻ってきた。次の料理じゃなかったみたい。



「オモチさん、暗くなったから、宿屋まで送りますよ」


「えっ? でもお店は?」


「もう一人いるから大丈夫です。宿屋ノームですよね? 近いから平気です」


 なぜ、知ってるの? ちょっと怖い。私が変な顔をしたためか、サフスさんは慌てて口を開く。


「オモチさん、警戒しないでください。宿屋ノームは、宿泊者以外は入れないから、連れ込みには使えませんよ」


「あっ、いえ。なぜ、私が宿泊する宿屋がわかるのかなって思って」


 そう話すと、サフスさんはホッとした笑顔を見せた。彼もイケメンね。この街にいる全員が美形なんだけど。


「布財布ですよ。オモチさんが持っているこげ茶色の布財布には、宿屋の印が付いてますからね」


「えっ? どこに?」


 私の目には、無地にしか見えない。


「あっ、主人公には見えないのかな? 宿屋ノームの印は、精霊ノームの加護を付与するんです。だから、盗難防止になりますよ。置き忘れると加護が消えるから、盗まれますけどね」


「へぇ、知らなかったです。精霊ノーム? 妖精じゃなくて精霊?」


「ふふっ、なんだかオモチさんは、通常の主人公よりも魅力的ですね。かわいいです。精霊ノームは、土の精霊ですよ。精霊達が登場するゲームもあるはずですけど」


 あっ、これが魅了魔法か。サフスさんが私に惹かれていくのがわかる。悪役以外の人には、耐性がないんだっけ。


「そのゲームは、私はやったことないです。無課金で遊んでたから、有料版は知らないし」


「そうでしたか。あっ! すみません。アース星の配信は、『月の世界の王子様』が最新作でしたね。まだ配信されてないです」


 サフスさんは、ズーンと落ち込んだ表情を見せた。やはり、誠実な人なのかも。



「気にしないでください。他の星への配信はされているんですね。ということは、ポスターもあるのかな」


「看板通りに、あるはずですよ。すぐ近くには無いかな。よかったら、これからご案内しますよ!」


 やはり、魅了魔法の影響を受けてる。


「お気遣いありがとうございます。でもサフスさんには、屋台があるじゃないですか。それに、私は今日は早く寝たくて」


「ハッ! そうでしたね。すみません。オモチさんには、難しいウィークリーミッションを助けてもらったのに、俺、浮かれてますよね」


 宿屋ノームが見えてきた。



「新規顧客の獲得は、難しいのですか?」


「はい、酒場なら旅行客も立ち寄るけど、屋台は、馴染みのお客さんばかりなんですよ。固定客のおかげで、商売はできてるんですけどね。あっ、着きましたよ」


 サフスさんは、宿屋の前で立ち止まった。すっごく名残惜しそうにしてるけど、これは魅了魔法の影響だよね。


「送ってくれて、ありがとうございます。では、また」



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