18、ラムネさんとサフスさん
宿屋ノームを出ると、綺麗な夕焼けが見えた。
空を見上げたことで、気持ちも少し上向きになったかな。私を見つけた何人かが、ジワジワと近寄ってくる。また逃げると思っているのか、近づきすぎないように配慮している。
私は、宿屋の通りを右側に進んでいく。携帯機の地図を見てみると、やはりフレンドみたい。私が宿屋から出るかもわからないのに、ずっと待っていたのかな。
私が振り返ると、10代後半に見えるかわいい女性と目が合った。彼女は、笑顔で駆け寄ってくる。男性に追われるより女性の方が怖くない。
「オモチさん、こんばんは! どこに行くの? 私が案内しましょうか?」
そういうミッションなのかな。携帯機の地図に表示された点に触れると、彼女の名前が表示された。日本人?
「こんばんは。えっと、お友達の……」
「私は、ラムネだよ。オモチさんと同じ出身だと思う。アース星の日本でしょ?」
「あ、はい。アース星って言うんですね」
「あはっ、地球だったね。この世界に来て、もうすぐ2年になるから、忘れかけてたよ」
やっぱり日本人だったんだ。ミッションに失敗して、永住することになったのかな。帰りたいとは言わない方がいいと、直感した。
「2年間ずっと街にいるんですか?」
「うん、そうだよ。私はプレイヤーだから、マンスリーミッションをやっていれば、ずっと遊んでいられるからね」
滞在者なのね。街を構成する住人との区別がつかないけど、住人はウィークリーミッションだと、セルさんが教えてくれた。
「私を待っていたのは、マンスリーミッションのためですか?」
「あー、そっか。オモチさんは、ちょっと疑心暗鬼になってるよね? 初日にいきなり恋人ができたでしょ。今日は悪役の女性と歩いていたし、いろいろと怖いことを言われたのかな?」
彼女は、私の問いには答えない。
「いろいろ驚きましたけど、怖くなったのは、知らない人に追いかけられたからで……」
「あちゃー。まぁ、期限ギリギリで焦ってる人もいたもんね。5人くらいフレンドリストから消えたんじゃない? 期限切れで、私のフレンドリストからも、今朝消えていたよ」
「えっ……悪いことしちゃったのかな」
「主人公は、何も気にしなくていいよ。マンスリーミッションなのに、ギリギリまで出来てない方が悪いでしょ。他の施設に送られても、1年働けば、街に戻れるみたいだよ」
あっ、セルさんが買ってくれた屋台を通り過ぎてしまった。私が振り返ると……ゾロゾロと大勢の人がついて来ていることに気づいた。携帯機の地図によると、フレンドがこの近くに集まって来てることがわかる。
「ん? 屋台? 夕食を食べるの?」
「あ、はい。ご飯を買って宿屋に戻ろうと思ってます」
「ええっ? そんなの寂しいじゃない。屋台じゃなくて、酒場に行かない? この世界は見た目年齢に関係なく、お酒が飲めるよ」
酒場に誘いたいんだ。
「酒場は、昼に行ったばかりだから、屋台で現金を使いたいから……」
「あー、現金を使うミッションなのね。フリーミッションが開放されたのかぁ。屋台で現金を使えば、2つのフリーミッションが達成かな? じゃあ、屋台で食べようよ」
「えっ? ラムネさんと?」
「うん、お友達でしょ。どの屋台がいいかなぁ? 今の店は、ちょっと高いけど美味しいよ。香ばしい匂いに釣られちゃった?」
確かに、美味しかったよね。
「屋台を探してるなら、ウチに寄って行ってよ! オモチさん、俺もフレンドだからさ」
二つ隣の屋台から、お兄さんが駆け寄ってきた。勧誘にも来るのか。
「住人まで、主人公を追いかけてるの?」
「ウィークリーミッションが、ちょっとヤバイのが出たんだよ。新規顧客を獲得しようって。あと6日なんだ。サービスするから、ウチに寄ってください、マジで!」
地図を見ると、確かにこのお兄さんもフレンドだ。始まりのカフェに来たってことよね。友達サフスと表示された。あれ? この名前には見覚えがある。表示したことがあるかも。
「オモチさん、どうする? あと6日あるなら、放っておいていいと思うよ」
ラムネさんは乗り気じゃないみたい。
「でも、せっかくだから、フレンドさんの店にしようかな。見たことのない料理だし」
「仕方ないなー。じゃあ、私も付き合うよ」
主人公との食事もミッション? こんなことばかり考えてると疲れそうだな。あまり気にしないようにしよう。
屋台の店の前には、テーブル席が並んでいる。私達は、フレンドさんに案内された席に座った。
「えっと、サフスさん?」
「おお! もう地図の見方を習得してるんですね! 俺は、サフスですよ。無理を言ってすみません。ほんと、助かります。ウチは、定額の前金制なんです。2000Gだけど、半額にしますよ!」
「あ、私、現金を使いたくて」
「クッ、マズイな。お釣りがない」
1万Gコインだと思われているみたい。
「1000Gコインを持ってるので……」
「良かった! 助かります! では、1000Gで」
ラムネさんは、私の方をジッと見てる。これは、奢ってくれってことなのかな。
「ラムネさん、あの、半額にしてもらったから、二人分を払いましょうか?」
「ほんと? いいの? ありがとう! 助かるよ! 友達に奢るフリーミッションもあるはずだよ」
私は、苦笑いを浮かべていたと思うけど、サフスさんに、2000Gを支払った。
料理は、甘くて辛い物が多かった。タイ料理みたいな感じだけど、香草は使われてない。
「珍しいですね。この街の料理ですか?」
「屋台は、自分の生まれた星の料理を出す店が多いよ。サフスさんは、メイロ星だったかな? 今のアース星の新作の攻略対象って、メイロ星の人ばかりなんでしょ?」




