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17/20

17、こげ茶色の布財布

 宿屋の部屋に入ると、同じ部屋なのに、昨夜とは違って見えた。カーテンが開いているためか。


 私の部屋は1階だから、窓を開けるのは危険かな。窓に近寄って外を見てみた。通りは見えないけど、狭い中庭を挟んで、向こう側にも建物が見える。朝食を食べた食堂みたい。


 しまった! 夕食を買って来なかった。食堂は、朝しかやってないんだっけ。



 私は部屋の中の棚を開けて回った。でも、どの棚も空っぽだった。


 今朝無料の飲み物を見つけた冷蔵庫を開けると、中身が今朝とは変わっていた。私の好みに合わないと思って、入れ替えてくれたのかな。セルさんが買ってくれたのと同じペットボトルも入っている。


 さすが高級な宿屋ね。掃除は魔法ですると聞いたけど、補充は人の手だろうな。昨夜と同じ宿泊客だとわかっているのね。



 私は、セルさんが買ってくれたのと同じ物を、冷蔵庫から取り出した。昨日はよく見てなかったけど、乙女ゲーム『月の世界の王子様』で登場するレモンティだ。


 偶然なのかな? でもあのとき『月の世界の王子様』の話をしたから、セルさんが選んでくれた気がする。紙袋に入っていたから、渡されたときは気付かなかったけど、私が喜ぶと思ってくれてたのかな。


 あれ? 涙が出てきた。


 そっか、今まで落ち着く暇がなかったから、やっと静かに、ひとりぼっちになったことで、泣けるようになったのか。



 今日、シャルルさんから聞いた話は、衝撃的だった。セルさんが、本当の恋人を殺したって……。もう15年以上前のことらしいけど、シャルルさんの親友のことだし、詳しい話は聞けなかった。


 セルさんはその恋人のことを、今も忘れてないんだよね? だから私が帰れるように、いろいろと教えてくれた。私が似ているから? シャルルさんはそう言ったけど、顔が似てないなら、セルさんがどう思ったかはわからない。


 明日は、シャルルさんはいない。早ければセルさんが、この街に戻ってくるのかな? 



 私は、レモンティを飲みながら、携帯機を開いた。クゥゥッと、お腹が鳴る。昼のハンバーガーは、塩辛くて残したし、たくさん歩いたもんね。


 近くの屋台に行けば、夕食を買うことができる。でもまた、会計をごまかされるかな。財布の履歴を見ないと、いくら取られたかわからない仕様がポンコツすぎる。この世界には、現金はないの?



 財布のアイコンに未読マークが付いている。フリーミッションの報酬だと思ったけど、一応、開いてみた。履歴には、ミッション報酬の1万Gが、ずらっと並んでいる。下までスクロールして閉じたけど、未読マークは消えない。


 あれ?


 もう一度、財布を開くと、履歴や残高だけじゃなく、入出金という項目が増えていたので、それを開いてみる。



『オモチ様、5つのミッション達成おめでとうございます。フリーミッションが開放されましたので、入出金の機能を追加しました。宿屋やコンセプトカフェで、ゴールドの入出金ができます。現金を使うフリーミッションもありますので、お試しください。なお、現金を持ち歩くときには、盗難にお気をつけください』



 あるじゃない、現金! 


 そういえば、昼食を食べているときに、財布のアイコンに未読が付いていたっけ。酒場に入ったことで、この機能が追加されたお知らせだったんだ。


 シャルルさんも、こんなことは教えてくれないのね。というより、彼女が15年以上も街にいるなら、覚えてない機能かもしれない。


 よし! フロントに聞いて、お金を引き出そう。現金で払えば、桁間違いを装って、ぼったくられる心配はない。




 ◇◇◇




 フロントに戻ると、入り口付近の混雑は解消されていた。さっきはピーク時だったのかも。


 さっきの男性は、私に気づくと、にこやかに一礼してくれた。早くこの街に慣れて、と言われたっけ。それに、待ち構えていた人達が悪い人ばかりでもないとか。


 確かにそうだ。皆にはミッションがあって、主人公と関わる必要があるから、フレンド登録をしたんだろうし、私がいつ戻るかもわからないのに、待っていたんだもの。あっ、転移魔法で来たばかりかもしれないけど。



「あの、新しい機能を試したいのですが……」


 私は、さっきの男性に声をかけた。


「はい、オモチ様。新しい機能とおっしゃいますと、銀行機能でしょうか?」


 銀行?


「入出金ができる機能が開放されたみたいで……」


「かしこまりました。フリーミッションが開放されたのですね。現金を持ち歩くことは危険です。お差し支えなければ、何に使う予定か教えていただけますか? 出金しますと、同じ日に同じ場所での入金はできない決まりがございます」


「屋台に、夕食を買いに行きたいのですが」


「それでしたら、少額の出金がよろしいかと思います。出金は、1万Gから可能となっております」


 そんなに、いらないんだけどな。


「では、1万Gの出金をお願いします」


「かしこまりました。携帯機を、そのままで結構ですので、こちらに置いていただけますか?」


 財布のアイコンを開かなくていいってことね。トレイの上に携帯機を置いた。パッと光った後、携帯機の横に、金色のお金が現れた。このトレイも魔道具か。



「こちらが、1万Gコインになります。屋台で使われると、お釣りがない場合もあります。当宿屋の布財布をご購入いただけると、小さなお金に崩すことが可能ですが」


 商売上手ね。でも布財布はある方がいい。


「じゃあ、布財布をください」


「ありがとうございます! お釣りは、9000Gになります。1000Gコイン9枚を入れておりますので、ご確認ください」


 私は、こげ茶色の少し膨らんだ小さな巾着きんちゃく袋を受け取った。結構かわいい。


「いってらっしゃいませ」


 彼は、美しい所作で一礼してくれた。


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