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16、闇堕ちと主人公のこと

 シャルルさんと一緒に人の少ない看板通りを歩いた後、彼女の指示で簡単なことをこなしていくと、フリーミッションが次々と達成されていった。


 報酬は、1つあたり1万Gずつ入ってくるけど、これも特別ボーナスと一緒で、使わない方がいい。スープラ社の乙女ゲームの特徴を熟知している無課金勢の私の勘が、そう警告している。


 それにセルさんが、主人公ならログボで生活できるだろうと言っていた。無駄な出費は控えるべきだという忠告なのだと思う。



「オモチさん、食後の運動になったかしら?」


 シャルルさんは、外では役割に徹している。ずーっとツーンとしていたし、今のセリフも悪役令嬢みたい。


「はい、そろそろ、夕食の時間ですね」


「昼食が遅かったから、私はまだお腹は空いてないわ。アナタは、あの宿屋の宿泊予約があるのよね?」


「はい、チェックアウトのときに、宿泊予約をしましたよ」


「じゃあ、送って行ってあげるのから、感謝しなさい。私は、次の主人公が現れる街に移動するわ。会えるのは翌朝だけどね」


 次の主人公?



「主人公って、頻繁に来るんですか?」


「私の行動範囲に来るのは、2日に一人のペースね。ひとつの街には、4〜5日に一度かしら。今、この街ジュエンで一番新しい主人公はオモチさんだけど、昼に酒場にいた派手な女が、オモチさんの一つ前に来た主人公よ」


「男性に囲まれていた人?」


「ええ、あの女は、もう闇堕ちしたわね。最速じゃないかしら。主人公の期間が終わると、きっとあの女は厄介な魔女になるわね」


 シャルルさんは、冷ややかな表情をしていた。自分の星に帰りたい彼女は、すべての主人公と友達になっていると言っていたっけ。きっと私にしてくれたように、何もわからない時に、彼女の世話をしたんだろうな。


 あれ? でも闇堕ちってことは、ミッションの失敗だよね? 制限時間を厳守しないと、主人公でも強制転移をかけられるって、セルさんが言ってたはず。なぜ、彼女は酒場に居たの?



「闇堕ちって……」


「あぁ、永住が決定することを闇堕ちと呼んでいるわ。主人公には、デイリーミッションがあるでしょ? 期限内に達成できなければミッション失敗よ。街から排除されて、別の施設に強制的に転移させられるわ。ビンゴの失敗では強制転移はないけど、永住が決定する罠があるのよ」


「じゃあ、酒場にいた女性は……」


「彼女は、フリーミッションが解放されてすぐに、私の忠告を無視して、ビンゴを始めたのよ。ビンゴカードを使えば、デイリーミッションの期限も延ばせる。それで、ビンゴの制限時間に失敗したのね。酒場で男達にハメられたんじゃない? 彼女も、最初は帰りたいと言っていたんだけどね」


 シャルルさんは、自分が許可するまではビンゴをやるなと言っていたっけ。セルさんも、罠に使われるから手を出すなと言っていた。



「ビンゴには、フリーミッションが並ぶのに、制限時間があるんですか?」


「ええ、そうよ。しかも、騙し打ちのように3枚目か4枚目、いや5枚目までのランダムだったかしら? 私はフリーミッションが進んでいる。ビンゴのリセット後は、5〜6枚を即日コンプリートするから、正確には覚えてないけどね」


「制限時間が、突然出てくるんですね」


「ええ、しかも、ビンゴを始めてから何日という仕様になっているのよ。つまり、フリーミッションが進んでない状態でビンゴを開始すると、制限時間のあるカードにたどり着いたときには、期限切れだったりするのよ。ビンゴの失敗なら街からは追い出されないけど、永住が決定するわ」


「それって、ひどい」


「でしょ? アース星に帰りたいなら、ビンゴには、私が許可するまでは手を出さないこと。わかったかしら?」


「はい、わかりました。シャルルさん、ありがとうございます」


「ふん、わかればいいのよ! じゃあ、送ってあげるわ。お腹が空いても、夜の酒場には行かないようにね。基本的に、主人公に話しかけてくる人には狙いがあるわ。女友達は特に危険よ。油断しないように」


 私が頷くと、シャルルさんは、転移魔法を唱えた。




 ◇◇◇




 私を宿屋ノームの前に送り届けると、シャルルさんは、スッと姿を消した。


 宿屋の前の通りには、私を待ち構えていたらしき人達の姿があった。何人もが、作り笑顔で近寄ってくる。私は怖くなって、宿屋に駆け込んだ。



「あの、宿泊予約をしていた者ですが」


 入り口付近は混んでいたため、奥のフロントの前に立つ黒いスーツの男性に話しかけた。彼は、やわらかな笑顔で頷いてくれた。


「ご安心ください。宿屋ノームでは、宿泊予約をしていただいているお客様は、このエントランスに入っていただいた時点で、チェックインが完了いたします」


「そう、なんですね。じゃあ、このまま部屋に行きますね」


 彼は微笑んだが、私が怯えていることに気づいたのか、入り口の方に視線を向けた。私は怖くて見られない。



「オモチ様、主人公は何かと怖い思いをされることもあるかと存じます。これは、この街がゲーム舞台であるための仕様です。ですが、ご安心ください。当宿屋では、チェックイン時刻以降は翌朝6時まで、宿泊者以外の方の入館をお断りしております」


「えっ? あっ、入ってこないですね」


「はい。黒いじゅうたん以外の場所は、宿泊者と従業員しか、立つことができません」


 床を見てみると、混雑している入り口付近には、黒いじゅうたんが敷かれている。それ以外の場所には、赤いじゅうたんが敷き詰められていた。朝は、木の床だったのにな。


「それを聞いて安心しました」


「オモチ様、少しずつで構いませんから、この街に慣れてくださいね。貴女を待ち構えていた人達は、悪い人ばかりではないと思いますよ」



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