表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/16

13、シャルルさんと昼食

「あら、逃げずに待っていたのね」


 宿屋の時計が12時になる少し前、シャルルさんがロビーに姿を見せた。


「シャルルさん、こんにちは。外に出ると戻れなくなるかと思ったので、ここで待っていました。まだ12時になってないですよ?」


「恋人に逃げられたアナタが宿屋から動かないから、早めに来てあげたわ。感謝しなさいよ?」


 彼女は、言葉遣いは悪役令嬢だけど、その表情は私を心配してくれていると感じた。そういえば、昨日、始まりのカフェでも、キツイ言い方だけど、アドバイスをしてくれたっけ。


「ありがとうございます。それで、私は何をお手伝いすればいいのですか?」


 私の返答に、彼女は怪訝な表情を浮かべた。ちょっと強い口調だったから、嫌味に聞こえたのかな。


「それは、2分後に言うわ」


 携帯機を見ながら、彼女は私のすぐ近くに立った。恋人の残り時間か。彼女が几帳面なのか、従わせる強制力があるのか……。



 恋人の残り時間がゼロになると、セルさんの表示が消えた。その瞬間、胸がズキッと痛んだ。恋人履歴に移ったのだとわかっているのに、複雑な気持ちになる。


「オモチさん、友好値が高い私を優先するわね?」


「あ、はい? ひゃっ!」


 ロビーにいた人達が、一斉に私に向かってきた。フレンドの顔は全然覚えてないけど、たぶんフレンド登録した人達よね? 


「彼女は、私と待ち合わせていたのよ。アナタ達は、他の主人公を探しなさい! オモチさん、行くわよ」


「あ、はい」


 シャルルさんは私の腕をつかんで、何か小声で喋った。聞き返そうとした瞬間、私達の足元に魔法陣が現れた。これは、乙女ゲームでも見たことがある。転移魔法陣だ! 次の瞬間、真っ白な光に包まれた。




 ◇◇◇



「はぁ、ったく。私から横取りできるとでも思っているのかしら。しかし、変な人も居たわね」


 移動した先は、混雑した看板通りだった。これだけ人が多いと、流れに合わせて歩くことしかできない。追われたときには、人混みの中に逃げ込むのも、有効かも。


「転移魔法が使えるなんて、すごいですね!」


「は? 何を当たり前なことを言っているの? 昨日は、転移魔法が使えない恋人と一緒だったのかしら」


「魔法は、初めて体験しました。昨日一緒だった人とは、徒歩で移動しました」


「そう。アナタは理解してないみたいだけど、主人公の期間が終わると、準備不足だと大変なことになるわ。変な男に、初日を潰されたわね。いきなりキスされたんでしょ?」


「えっ? あ、はい。でも、私のミッションに付き合ってくれたから、悪い人ではないと思っています」


 私がそう言うと、彼女の気に障ったのか、無言で携帯機を見ている。悪役令嬢には反論しない方がいいのかな。



「オモチさん、この先にある店に付き合ってくれるかしら? 前から行きたいと思っていたのよ」


「はい、大丈夫ですよ」


「人混みでの魔法は禁止なの。面倒だけど歩くわ。この看板通りには来たことはあるかしら?」


 こんなに混む看板通り? でも、時間帯によって異なるかもしれない。私は、携帯機の地図を開いた。歩いたことのない道みたい。


「他の看板通りは行きましたが、ここは初めてみたいです」


「やはりアナタは、真面目なのね。ただの世間話なのに、正確に答えようとする労力は無駄ではなくて?」


 また、彼女の口調と表情がズレている。


「わからないことばかりなので、わかることは正確に答えようと思いました。そのうち、要領良く立ち回れるようになるかもしれませんけど」


「ふぅん。アナタには推しはいるのかしら? この看板通りは、アース星の新作でしょ?」


「ここは、『月の世界の王子様』のポスターだけなんですね。『月の世界の王子様』なら、全ルートをクリアしたけど、ウィル推しです」


「ウィル推し……なるほどね。他人の推しに何かを言うつもりはないけど、良い趣味だとは言えないわね」


 シャルルさんも、セルさんと同じだ。ウィルが危険だと言っているのかも。でも、石畳を歩いているからか、セルさんみたいにストレートな表現はしなかった。




 ◇◇◇



「いらっしゃいませ」


 えっ? ここは……。


「個室は空いているかしら?」


「はい、ご案内します」


 シャルルさんに連れて行かれたのは、ガヤガヤと賑やかな店だった。赤い顔をした酔っ払いが大勢いる。20歳前後の綺麗な女性を囲んでいるみたい。酒場っぽいのに、昼から営業してるのね。



「こちらでよろしいでしょうか」


「ええ、昼定食をお願いね。この子はアース星、私はロッコロッコ星よ」


「かしこまりました。昼定食2人前ですね。混み合う時間ですので、少し遅くなります。ご了承ください」


 店員さんは、手に持っていた機械に注文を打ち込んだみたい。なぜ、星の名前を言うんだろう? ロッコロッコ星ってことは、彼女はセルさんと同じ星の生まれだ。



 個室の扉が閉まると、シャルルさんはフーッと息を吐いた。その仕草は、悪役令嬢らしくない。


「オモチさん、ここの個室には防音結界があるよ」


 喋り方も違う。


「シャルルさん、何だか雰囲気が変わりましたね。防音結界があるから、声が漏れないためですか?」


「ええ、ここなら役割を気にせず話せるのよ。オモチさん、宿屋ノームを選んだ理由を教えてくれる?」


 彼女の表情は、やはり私を気遣ってくれていると感じた。でも、信用できる人かは、まだわからない。



「あの近くの看板通りに行った後に、一緒にいた人が連れて行ってくれたんです。だから、私が選んだわけじゃないです」


「そう、やっぱりね。恋人だった人は誰なの?」


「ご存知じゃないんですか?」


「恋人がいることはわかるけど、誰かはわからないの。変な男だったら困るもの」


 なぜ、シャルルさんが困るの?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ