12、悪役令嬢シャルル
「あら? アナタ、おひとりなの? 恋人はどうしたのかしら。まだ2時間以上も残っているわよね?」
豪華な朝食を堪能し、温かい緑茶を飲んでほっこりしていると、聞き覚えのある女性の声が聞こえた。
「シャルルさん? おはようございます。恋人の残り時間がわかるのですか?」
「私の名前を覚えていたのね。ええ、シャルルよ。お友達の情報はわかるのよ。アナタにはわからないでしょうけどね。恋人は、まだ部屋で寝ているのかしら?」
フレンドには、恋人の残り時間がバレているのか。でも、恋人の名前は言われてない。
「いえ、昨日ここに送ってもらった後は、彼はどこかに行きました」
「どこに行ったの?」
「わかりません。圏外になってるから」
「まぁっ! あははは、アナタはミッションのために利用されただけなのね。アナタみたいなお嬢ちゃんは、主人公じゃなければ、誰も相手になんかしないもの」
えっ? ひどい。シャルルさんは、私の横で、腕を組んで仁王立ちしている。やはり彼女は悪役令嬢なのかも。
「ちょっと、アナタ、何とか言いなさいよ! そんな顔をされたら、まるで私がアナタをいじめているようじゃないの!」
「シャルルさんは、主人公に立ちはだかる悪役令嬢ですか。あっ、悪役各種なのかな?」
私がそう返すと、彼女はフンと鼻を鳴らした。
「恋人に捨てられて、みじめね。こんな所で一人で朝食だなんて」
あれ? 彼女が言っている言葉と、彼女の表情にはズレがあるような気がした。
「じゃあ、シャルルさん、座ります?」
「なっ? アナタ、何も理解してないのね。恋人がいる間は、友達でも接触できないのよ」
「今、話しているのは、接触じゃないんですか?」
「悪役令嬢には、ヤジを飛ばす権限があるの! だけど、同席なんかできないわ。11時58分以降に言いなさい。この店は12時閉店だけどね」
「へぇ、知らなかったです。教えてくれてありがとうございます」
「はぁ? 私がアナタに、有益な情報を与えてしまったということ? それならアナタも、お返しをしなさいよ! 12時にロビーで待っているわ。逃げても無駄よ? 私は転移魔法が使えるもの。あははは」
彼女はそう言うと、私から離れていった。どうやら、彼女も一人で、この宿屋に宿泊しているみたい。彼女の席にも大きなトレイが運ばれた。でも、日本人じゃないのね。店員さんに料理の説明をしてもらっている。
まだ2時間以上の自由時間があるのか。でも、それが過ぎると、昨日のようにフレンドが詰め寄ってくるのよね。
地図を開いてみた。気のせいかもしれないけど、宿屋の前には、点が増えている。あっ、宿屋の中にも二つの点がある。一つは私で、もう一つはシャルルさんかな。
地図を拡大してみると、私がいる場所は正解に表示されているけど、同じ食堂にいるシャルルさんは、ロビーにいる表示になっている。
ロビーにいる点に触れると、複数の名前が出てきた。これが、この宿屋に泊まっているフレンドかな?
シャルルさんがこの食堂に来たのは、偶然なの? 地図の表示についても、わからないことが多すぎる。
緑茶のお代わりが届いた。食事が終わった人の多くは、携帯機を見ている。あっ、財布のログインボーナスをもらわなきゃね。
今日もログインボーナスは3万G。これは毎日同じみたい。ミッション達成報酬が、3万Gが3つ。これも、ひとつが3万Gなのかな?
履歴には、昨日払った宿代3万5千Gが引かれていることも表示されていた。残金は、114万5千Gか。昨日より増えてる。初回の特別ボーナスは、安全な宿代に使うためのものかな。
私には、乙女ゲームの経験から、もらえる報酬には理由があるという持論がある。何かで大金を手にした後には、それを使う必要のあるイベントが起こるのが、スープラ社の乙女ゲームの特徴だもの。それを見抜いたから、私は無課金で、新作の完全攻略ができた。
特別ボーナスで100万Gをもらったけど、これは宿代以外に使ってはいけないお金だ。服を買って散財すると、きっと地球に帰れなくなる。
財布を閉じ、ミッションを開いてみた。
【ミッション5】未達成
酒場に行こう!
(残り3日14時間16分)
【ミッション2】コンセプトカフェに行こう!
【ミッション3】看板通りに行こう!
【ミッション4】宿屋にチェックインしよう!
あれ? ミッション1の友達を作ろうが消えてる。ずっと履歴が残るかと思ったら、そうじゃないのね。ミッションの制限時間が過ぎたものは、消える仕様みたい。
クリア済みのミッションが時間経過で消えるのは、プレッシャーを与える仕様だな。残り時間を見ない人への注意喚起かもしれないけど。
難しいミッションが出た時には、クリア済みリストが消えていく仕様は、焦りを生む。この世界が、主人公を帰らせたくないなら、セルさんの影響かもしれないけど、性善説ではなく性悪説で捉えておく方がいい。
私は、一旦、部屋に戻り、ゴミを1ヶ所にまとめておいた。洗面所には、歯磨きセットもある。見慣れない不思議な備品がたくさんあるのは、様々な星から来るためかな。
歯磨きを済ませると、スッキリした。やっぱり、この宿屋はすごい。始まりの宿屋には、歯磨きセットはなかったもんね。
少し早めにチェックアウトをしようと、ロビーに行くと、すごい行列だった。だけど、列の進みは速い。
何人か前の人が、再び今夜の予約をする声が聞こえた。連泊の予約はできないみたい。昼12時からは、魔法を使った清掃をするらしいから、人がいると困るのかも。
私も、今夜の宿泊予約をした。希望を聞かれたので、同じ部屋にしてもらった。その方が迷わなくていいもんね。




