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11、寂しい朝

 芝生から出ると、セルさんは屋台で、私の晩ごはんを買ってくれた。そして宿屋の前まで送ってくれた後、すぐにスッと姿を消した。魔法だよね。


 私は、寂しい気持ちを必死に抑え、宿屋の自分の部屋へと向かった。


 一人で宿に泊まったことなんてないから、部屋に着くまでは、ビクビクしていたと思う。でも、すれ違った宿の人は、とても親切だった。さすが高級な宿屋ね。


 部屋に入ると、その広さに驚いた。私が住んでいたアパートの部屋よりも圧倒的に広くて、掃除も行き届いていてピカピカだ。


 セルさんが買ってくれた晩ごはんを食べ、シャワーを浴びて、早めに寝ることにした。長い一日だったな。




 ◇◆◇◆◇




 翌朝、私は、着替えの服がないことに気づいた。昨夜のシャワーの後は、宿屋のバスローブのまま寝てしまったから、下着も身につけてない。


 どうしよう……。今から洗っても、チェックアウト時間までに乾かないよね? ドライヤーで下着だけなら何とかなるかな。


 何かないかと、すがる思いで携帯機を見てみると、新たなアイコンが増えていた。タンス? そのアイコンには、未読マークも付いている。


 タンスに触れてみると、案内が表示された。



『オモチ様、おはようございます。ログイン2日目の特別ボーナスとして、タンス機能が開放されました。主人公の標準的な衣装が入っております。買い物された服がありましたら、こちらに収納してください。洗濯機能もありますので、汚れ物もそのまま携帯機に収納していただければ、6時間後にはクリーニングが完了します』


 携帯機に収納? その方法が図解されている。携帯機を服に向けて、ピッとするだけみたい。


 タンスには、下着もちゃんと入っている。なぜ私のサイズがわかるのかと疑問に思ったけど、当たり前のことか。この身体は、この世界の人が作ったアバターだ。


 私は、適当に選んだ服に着替えた。昨日、宿屋のお姉さんが、私を新たな転生者だと言い当てたのは、服のせいかも。主人公の標準的な衣装を着ているから、かな?


 街で服を買う方がいいか。宿屋に服屋はないかな? 大きなホテルなら店を併設していることもあるし、乙女ゲームでも、宿屋でお土産を買うイベントがあった。



 部屋の中を見回すと、飲み物の冷蔵庫を見つけた。その上の棚には、小さなスタンド式の案内が置かれている。


『こちらは冷蔵庫です。中の飲み物は、ご自由にお飲みください』


 飲み物のサービスがあったんだ。昨夜は、セルさんが飲み物も買ってくれたから、気づかなかった。さすが、高級な宿屋ね。


 部屋の中をちゃんと見てなかったことに気づいた私は、今更だけど、あちこち見て回ることにした。館内の地図も見つけた。服屋は無いみたい。でも、食堂がある。


 あっ、食堂のメニュー表のような物が置いてある。ペラペラとめくってみると、この宿屋には、2つの食堂があることがわかった。どちらも営業時間は、朝6時から昼12時まで。朝食と喫茶のみらしい。朝食も無料なのね。


 ここは異世界なのに、地球と同じような時計がある。人工星だからか。でも、セルさんは、他の星から来た人だ。地球のことはアース星って言ってたけど、それ以外に違和感はなかった。猫も知っているみたいだし。あっ、猫は、乙女ゲームにも登場したからかな。



 セルさんのことを考えると、昨夜よりも寂しさが大きくなってきた。今、どこにいるのだろう。地図を見ればわかるかな?


 携帯機の地図を開いてみる。街の中のあちこちに多くの点が散らばっている。点に触れると名前が表示されるけど、全部触れて探すのは大変だな。フレンドリストから探せないかな。


 私は地図を閉じ、フレンドを開いた。未承認の数は、4桁になっているけど、これは無視でいいよね。自動承認不可にしてあることを再確認し、恋人リストを開く。セルさんの名前が出てくると、ドキッとした。残り時間は、3時間48分。


 名前に触れて、プロフィールを表示した。あっ! 地図と連動できるかも。プロフ画面の下に地図アイコンがあるのを見つけた。私はすぐに地図に触れる。


 あっ……圏外だ。


 彼は、ジュエンを出ると言っていたっけ。私の地図では表示できない場所にいるのね。


 昨日聞いていたことなのに、私は自分が落ち込んでいることに気づいた。彼は私が地球に帰れるようにと、たくさんのアドバイスをくれた。だからこんなに寂しいのかな。


 恋人リストに表示した名前が圏外だと、何だか捨てられたような気になる。私は、セルさんの恋人でもないのにね。



 とりあえず、朝食を食べよう。もう一度、食堂の場所を確認して、私は部屋を出た。




 ◇◇◇



「おはようございます、オモチ様。お好きな席にどうぞ」


「ありがとうございます」


 食堂の入り口で、私は何も言ってないのに、名前を呼ばれて驚いた。あっ、手に持っていた携帯機に宿泊者情報が入っているためか。


 うーん、いい匂い!


 二つある食堂のうち、和食屋さんっぽい方に来た。味噌汁の出汁と、魚を焼く香ばしい香りが鼻をくすぐる。匂いでお腹が空いてきたよ。



 一人用の席はないから、私は二人掛けのテーブル席に座った。やはり上品そうなお客さんが多い。朝から、メイクもバッチリね。私はメイク道具もないけど、見た目年齢は16〜17歳くらいだから、すっぴんでも大丈夫かな。



「お待たせいたしました。本日は、アース星の和定食です」


 私の席には、まるで高級旅館の朝食のような立派な料理が運ばれてきた。トレイは大きくて品数も多いけど、一口で食べられそうなおかずが多い。


「わぁっ! 綺麗!」


「ありがとうございます。ごゆっくりどうぞ」


 食堂の店員さんも、素敵な笑顔ね。



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