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唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~  作者: 専攻有理
第1章 異世界での目覚め

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5 異世界でまず最初にすべきこと


「……はは。あー、なるほどなー。俺、車に()ねられたのか」


 信号無視の車に撥ねられた。それが目が覚める前の最後の記憶だったことを思い出した椿(つば)()は、乾いた笑いを零しながら右手で両目を覆った。


「……あの車、時速100㎞は出してたな。一瞬しか見てないから断言はできないけど、だいぶ古い車種だった気がする。オートやセーフティ無しで、そのままの速度で俺にぶつかった可能性が高いな。……車という鉄の塊が時速100㎞で真横からぶつかってきて、吹っ飛んだ後はアスファルトの地面に叩き付けられる。普通の人間なら間違いなく即死だ」


 そして、俺は普通の人間だ。と、椿井は小さな声で呟いた後、しばらく黙っていたが。


「だけど、何故か俺は生きている」


 目を覆っていた右手を拍動する心臓に当てて、椿井は強い意志の籠もった瞳を自分が映る鏡へ向けた。


「心臓が動いていて、しっかり思考もできている。これだけなら車に撥ねられたけど奇跡的に助かったという可能性もゼロじゃなかった」


 けれども、と椿井は31歳の自分に似つかわしくない若々しい体に目を向け、なんとも言えない表情を浮かべた。


「俺の肉体が高校生の頃に戻っているという意味不明な要素がその可能性をゼロにしている。若返りやクローンなんてSFの世界の話だ。現代の科学技術じゃ到底不可能なはず」


 なら、この状況はなんなんだと椿井は思考を続ける。


「事故に遭って死の間際に見てる夢ということもあり得るけど、そんなギリギリの状況でこんなにクオリティの高い(めい)(せき)()なんて見られるものなんだろうか……?」


 そして、考え続けた椿井は。


「……これ、マジで異世界転生、転移の線も考えるべきか」 


 良くいえば柔軟な、悪くいえば現実離れした思考を始めた。


「まあ、死んだ人間の体験談を聞いた人間は誰もいないわけだしな。……よし! ここが異世界だと仮定して、仮定してだ。俺が一番に考えるべきこと、すべきことはなんだ」


 車にぶつかった後、何らかの理由で異世界に来てしまったと仮定した椿井は今自分が一番にすべきことは何かと自問し。


「まずは転生であれ、転移であれ、()()()()()()()()()に理由があるかどうかをハッキリさせたいな」


 今、自分が異世界にいることについて、その理由があるのか無いのかを把握すべきだと考えた。

 もし理由があるのなら────


 

『魔王を倒すための勇者として、現実世界から異世界に()ばれた』



 そんなネット小説が生まれる遙か前からあるお約束(テンプレ)のように何らかのきつい役割(ロール)を求められる可能性が高いため、早めに理由の有無を把握したいと椿井は思ったのだ。


「異世界に来た理由があるのならきついことになるかもしれないけど、特に理由がないのなら、あんまりしんどいことにはならないはずだ。料理を作ったり、スローライフ系でのんびり過ごすみたいな。あ、宝くじに当たったから、その金で何かするみたいなパターンもあるけど……、当たったの俺じゃなくて母さんだしな」


 そこまで呟き、一応部屋の中を軽く確認してみたが母親が当てた10億という大金がどこかに置いてあるようには見えなかったため、椿井はその可能性は排除した。


「……さて、どっちだろうな。誰もいないところで目覚めるってことは貴族で成り上がるとか悪役令嬢の男版、悪役令息みたいな役割(ロール)が与えられるタイプじゃないよな。VRMMOとか読んでた本の世界やゲームの中に、というパターンでもなさそうだ。こんな始まり方のゲームや話、俺知らないし。となると、割と昔ながらの自由度の高いオーソドックスな転生、転移が可能性としては高いか……」


 そして、椿井は今まで読んできたネット小説の内容も参考にして色々と考えてみたが。


「あー……ダメだ。情報が少なすぎる」 


 異世界で目覚めた31歳のおじさんが、なぜか10代後半に若返っていた! というネット小説のタイトルにするにしてもパンチの弱い情報しか持っていない今の椿井では、自分が異世界にいる理由の発見には至らなかった。


「……そもそも、俺の知ってるネット小説の主人公達はこんな風に悩まないよな」


 そして、持っている情報が少なすぎる椿井は再び自分が読んできたネット小説に思いを馳せ。 


「────そうか。ヒントをくれる存在がいないんだ」


 彼らと自分の違いに気がついた。


 椿井が今まで読んできた異世界転生、転移のネット小説では最序盤に人なら貴族や冒険者、超常の存在なら女神とかが現れて主人公と話すことで読者にさりげなくこの主人公はこういうことをするのが目的なんですよー、と説明してくれることが多かった。それを椿井は王道というか読んでくれる読者に対しての最低限のマナーだと感じでいた。


 だというのにこの世界ではそういった存在が現れていなかったため、椿井は、教科書(ネット小説)と違う。と呟いた。


「目覚める前に誰かと不思議空間で何かしゃべったり……もしてないよな。変な夢は見たような気がするけど……」


 それから椿井は隠しカメラを探すように部屋中をキョロキョロと見渡した後、部屋の外に顔を出し。


「えーと、神様、女神様、謎の存在、後は親切なナビロボとか誰かいませんかー。ちょっとだけで良いんで説明をお願いしたいんですがー」


 と、辺りに聞こえるように割と大声で言ってみたが。


「……」


 部屋の外からは森の木々が風で揺れる音しか聞こえず、椿井が望むような存在が現れる気配はなかった。

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