20 おとぎ話の夕餉
自分がこの異世界に来たことと何らかの関係があると思われる超常の存在、シロキツネ様に会うためにツヴァイが真っ暗な森の中を歩いていると、いくつもの火の玉が現れ、ツヴァイはその火の玉の誘導にしたがって歩き続けた。
そして、それから約10分後。
「……」
ツヴァイはカイカの森の中にある社に辿り着いた。
「……っ」
ツヴァイが社に到着するとすぐに火の玉が消えたため、また辺りが真っ暗になってしまうとツヴァイは少し身構えたが。
……明かりがついている。
ツヴァイが目覚めた建物ではなかったが、ツヴァイが昼間調べたときには開かなかった建築物の1つに明かりが灯っていたため、何も見えなくなるということはなかった。
……これは、ここにいるぞ。って言ってるのと同義だよな。
そしてツヴァイはその建物に何かがいるのは確実だと考え、日本刀を持ち直してから、その建物へ近づき。
「……開けるぞ」
ツヴァイがその建物の引き戸に手をやると、昼間はいくら力を込めても開かなかった引き戸がスッと開き、ツヴァイはその建物の中に入った。
「……」
……ほんと、街の建物とは全然違うな。和の感じがする。
というか神社の斎館そっくりの作りだ。と、昔、神社でアルバイトをした時の事を思い出しながら靴を脱ぎ、ツヴァイは廊下に立った。
「……」
廊下は蝋燭の火だけで照らされていたため薄暗く、ぼんやりとしか見えなかったが。
……誰かいるな。
奥の方でカタカタと音がしており、何者かがいる気配があったため、ツヴァイはそこを目指して歩き始めた。
「……」
……知ってる匂いがする。
そして、ツヴァイが廊下を歩いていると何処かで嗅いだことがある匂いがしてきた。その匂いは神社に漂う木やお香のような特別な感じの匂いではなく。
……こう、もっと身近な。
いい匂いだ。と、そんなことを考えているうちにツヴァイは物音がする部屋の前に辿り着き、足を止めた。
「……」
……だいぶ明るいな。
その部屋からは廊下の蝋燭の灯りとは全く別の、それこそLEDのシーリングライトを彷彿させるような光が漏れてきており、物音と合わせて考えれば、この部屋の中に何者かがいるのは、ほぼ確実だった。
……少し、中の様子を見てみるか。
そのまま襖を勢いよく開けて入ってもよかったのだが、この中にいる相手が自分に対してどういう感情を抱いているかが全くわからなかったため、ツヴァイは襖を少しだけ開けて中の様子を窺うことにした。
「……」
そして、ツヴァイが目にしたモノは。
「────」
綺麗な器の上に並べられた豪華な料理の数々だった。
先付けに八寸、マグロと甘エビの刺身、ノドグロの焼き物、小さないろり鍋の隣に置かれた牛肉と野菜、新鮮なフルーツ。
もう完全に旅館の夕食である。それらが脚付きのお膳の上に置かれていたのだ。
「……」
この世界に来てから既に半日近く経つが、コーヒーとクッキー、それにコロッケ1つしか口にしていないツヴァイは空腹を思い出し、暫くの間、お膳の上の料理をじっと見つめてしまったが。
……って、違う……!
料理にばかり目が行ってしまったが、自分が見なければいけないのはもっと別のモノだとツヴァイは今度こそ部屋の中を見渡し。
「────」
その存在を見つけた。
白い狐がそこにいた。
新雪のような白い毛と薄桃色の毛がグラデーションのようになっており、その細められた水色の瞳は比喩表現ではなく本物の宝石そのものにしか見えなかった。
それは本当にとても美しく可愛らしい狐だった。
ただ……。
……思ってたより小さいな。
その狐の大きさがポメラニアンやチワワぐらいの小型犬サイズしかなく、その上、リアルな狐というより若干デフォルメされたマスコット的な造形をしており、しかも。
「よいしょっと」
と、狐が少女の声で人語を喋るのは驚きだが、こう、何というか実に俗っぽい感じの喋り方で、更に前脚を器用に使って温かいおしぼりを用意したり、瓶のオレンジジュースの蓋を栓抜きで開けたりと、その狐はツヴァイが想像していたシロキツネ様とは大きくかけ離れた姿と行動をしていた。
「……」
……シロキツネ様なんて言われてるんだから人間の何倍もの大きさで、尻尾も九尾の狐のように何本もあって威厳に満ちた感じなのかなって思ってたんだが……あ、でも。
もしかしたら、この子はシロキツネ様の使い魔とか眷属みたいなポジションの子なんだろうか。それなら納得できる。と、ツヴァイは部屋の中にいる狐はシロキツネ様ではなく、その小間使いのような子なのではないかという推測を立ててから。
「えっと……入って、いいかな?」
ツヴァイは襖をゆっくりと開けて、その小さな白い狐に話しかけた。
「あ、いらっしゃい」
その狐はすぐにツヴァイに反応し、入ってそこに座ってー。と、お膳の手前にある座布団に座るように言ってきたので、ツヴァイはその指示に従ってそこに座った。
すると少し離れた場所にいた白い狐がトコトコとツヴァイの近くまで歩いてきて、可愛らしい声でツヴァイに話しかけた。
「まあ、積もる話もあるだろうけど、まずは食べて食べて。あ、一気に料理出しちゃってごめんね。うちしかいないものだから、順番に出すのはちょっと難しくてね」
そして、白い狐が料理を食べるように勧めてきたため、空腹のツヴァイは唾を飲み込んだ。
「これ、いただいていいのか……?」
「そりゃあね。食べて貰うために作ったんだから、うちの手料理が食べられるなんてキミは幸せ者よ? 後、お腹ペコペコなら、ごはんとお味噌汁は最初からあった方が良いかな?」
「……あるとありがたいな」
ツヴァイがお膳の料理の他にご飯なども欲しいと言うと白い狐はわかったー。と言ってトコトコと足音を立てながら廊下を走っていった。
「……」
その狐の後ろ姿を見送った後、ツヴァイは料理に視線を落とし、箸を手に取った。
……毒入りの可能性もないわけじゃないが……シロキツネ様が俺みたいな一般人相手にそんな面倒なことをする必要はないよな。
「────いただきます」
そして、僅かな逡巡の後、ツヴァイは料理に箸をのばした。




