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唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~  作者: 専攻有理
第1章 異世界での目覚め

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12/23

12 ギルティ?

「……」


 ……うん、やっぱり普通に日本語で話してるよな俺。


 会話の最中に自分の名前として使うことにした独語(ドイツ語)に意識を向けたとき、ツヴァイは異世界で自分が日本語で会話をしていることに気がついた。


「……なあ、アストライアにリア。今、俺たちが話してる言語って、日本語だよな……?」


 そして、その事実をすぐに異世界の住人である2人の少女に尋ねてみると。


「……? 言葉は言葉。それだけ」

「にほん語、ですか……? すみません。リアはちょっと聞いたことのない言葉です」


 少女2人は日本語そのものを知らないと首を横に振った。


「……そうか」


 ……2人が嘘を言う理由はないよな。となると考えられるのはここが特に理由もなく平気で日本語が使われてるフリーダムな異世界であるか、もしくはお互いの言語が女神の力とかそういう不思議パワーで自動翻訳されて会話が成立してるパターンか……?


 そして異世界の住人である2人がわからないのなら自分が考えるしかないとツヴァイは過去に読んだ異世界物のネット小説を思い返し、異世界で言葉が通じる理由を究明しようとしたが。


 ……って、違う、違う。


 今、自分が考えるべき事は他にあるとツヴァイはその思考を中断した。

 ツヴァイが今、何よりも優先したいのは状況の把握である。


『車に撥ねられ死んだはずの自分が何故、若返った上に異世界にいるのか』

『この異世界はどういった場所なのか』

『自分に魔王を倒すなどの何らかの役割があったりするのか』

『何か条件を満たせば元の世界に戻ることも可能なのか』


 等々、何のヒントもなくこの異世界で目覚めたツヴァイは未だに自分が求めている情報を何一つ得られていないのだ。

 日本語で会話ができることについては落ち着いてから考えれば良い。言葉が通じず意思疎通ができないなんて状況に比べれば百倍マシなんだし。という結論に至ったツヴァイは日本語でコミュニケーションが取れていることについては後で考えることにし。


「ちょっと話を変えるけど、2人は学生さん、だよな?」


 ツヴァイは現在の状況を把握するためにまず2人の身元を尋ねてみることにした。


 女神などの超常の存在が相手なら世界の謎でも何でも質問攻めにすればいいが、アストライアとリアがそういった存在には見えなかったため、ツヴァイはまず最初にある程度彼女たちのことを知ってから質問の内容を決めようと考えたのだ。


「はい。リアとアストライアは学生です。森を出てすぐのところにある都市、カームのカームロバスト学園に通っていてモンスターの退治、討伐を専攻しています」


 すると、リアが自分たちの通う学園の名前などをアッサリと教えてくれた。


「モンスター退治……」


 ……この異世界、学校にモンスター退治専門学科みたいなのがあるのか。結構モンスターの被害が凄い世界だったりするんだろうか。


 けど、そういう専門学科があるならちょっと納得できるな。と、2人、特にアストライアがそういう場所で学び、訓練しているのなら、あの凄まじい強さの理由もわかるとツヴァイがアストライアとゴブリンの戦闘を思い出しながら視線をアストライアの方に向けると。


「……そういうあなたは? わたし達より少し年上っぽいけど、学生でもおかしくない年齢だと思う」


 視線が合ったアストライアから逆に質問が飛んできた。


「へ?」


 そのアストライアの問いに、いや、31歳のおっさんが学生に見えるわけないだろ。と、反射的にツッコミを入れそうになったツヴァイだったが。


 ……そういえば、俺、10代の体に戻ってるんだったな。


 自分が高校生の時ぐらいの肉体に戻っていることを思い出したツヴァイはそのアストライアの指摘は間違っていないと考え直し、質問に答えることにした。


 ……前の世界では会社勤めの事務員だったけど、今は……。


「今はまあ、無職だな」

「……無職。健康な肉体と有り余る時間を人のために役立ててないのは、ちょっと引く」


 森の中を少し冷たい風が吹き抜けた。

 正当な理由のない無職には、どんな世界であっても風当たりが厳しいのである。


「ツ、ツヴァイさんは今はとおっしゃいました……! ツヴァイさんは凄い方ですから前はとても大変なお仕事をされていて今はちょっとお休みされてるだけで……。た、たとえそうでなくても自由な時間の中で剣の訓練や色々なことを考えてこられたツヴァイさんはきっとこれから多くの人を救う仕事をされるはずです……!」


 そして、今度は森の中に暖かな日差しが降り注いだ。

 正当な理由のない無職にも、優しく接し応援してくれる人はどんな世界であっても決してゼロでは無いのだ。だから、どんな無職でも諦めることなく生きていて良いのだ。


「……リア、君はいい子だな」

「え……!? き、急になんでしょう……!?」


 無職男を励ましてくれるリアの優しさに感動したツヴァイが心の底からの賛辞を送ると、リアは自分が褒められた理由がわからずに顔を赤くし、混乱したが。


「わかる」


 その賛辞の言葉に理解を示したアストライアが真顔のまま手を差し出してきたので。


「わかるか」


 ツヴァイはアストライアと固い握手を交わし、共通の見解を得た2人の心の距離はだいぶ縮まったのであった。


「──とまあ、本気話はこれぐらいにして」

「冗談話じゃないんですか……!?」


 本気の話。本気さ。と、アストライアと共にリアに向かって語った後、ツヴァイは握手をしていた手を離して別の重要な話を2人にすることにした。


「それで今言ったとおり俺は無職なんだが……、その、無職以前に俺はこの世界のことを何も知らないんだ」


「……だいぶ重大な話」


「……記憶喪失ということでしょうか?」


「いや、記憶喪失とは違うんだ。別の世界からやってきたというか……えっと、2人は異世界転生という言葉を知ってたりしないか? 後、俺みたいにある日、急に現れてこの世界の常識はないんだけど変な知識はあってそれを活用しまくってるようなやつの話を聞いたことはないか?」


「い世界転生……? ……すみません、そういう話は今まで聞いたことがないです。……アストライアはどう?」


「わたしも知らない」


「……そうか、ありがとう」 


 ……2人の反応から考えるとここは異世界転生、転移の概念がないか、一般的ではない世界っぽいな。少なくとも異世界転生者が大量にいるような世界では無さそうだ。


 他に転生、転移者がいるようならその人達を探し出すのが一番効率が良いと思っていたが難しそうだな。と、ツヴァイが今までに得た情報を頭の中でまとめていると。


「あの……」


 リアが心配そうに自分を見つめていたので、その思考を中断し、ツヴァイはリアと向き合った。


「あの、ツヴァイさん。もしかして最近、大きな怪我をされたりしませんでしたか……?」

「……大怪我?」


 そう言われツヴァイの頭に真っ先浮かんできたのは元の世界で車に撥ねられたという出来事だ。

 ただ、それは怪我どころではなく即死コースの大事故であったため、あれを大怪我と言っていいのかツヴァイは少し迷ったが。


「ああ、つい最近確実に死んだな、と思えるぐらいの怪我を負った記憶はあるな」


 まあ、今生きてるし、あれは死亡事故じゃなく大怪我としてカウントしていいよな。とツヴァイが車にぶつかったことを思い出しながら頷くと、リアは得心(とくしん)がいったというような表情を浮かべながら。


「もしかすると、今、ツヴァイさんの記憶が曖昧なのはカイカの森の加護を受けた影響かもしれません」


 リアはこの世界の常識に当てはめた考えで、ツヴァイの現状を推測してくれた。


「カイカの森……というのは、この森の名前なのか?」

「はい。シロキツネ様の加護に包まれ、クロオオカミが守る神聖な場所、それがこのカイカの森です」


 ……シロキツネ様?


 狐という言葉と自分が目覚めた神社のような建造物に日本的な繋がりを感じたツヴァイはその事についてリアに質問をしたくなったが、まずはリアが推測してくれたことを最後まで聞こうと考え、リアの言葉の続きを待った。


「ある日、モンスターとの戦いで致命傷を負った女性が最期はシロキツネ様の下で迎えたいと、このカイカの森に1人で入っていったんです。その女性を見ることはもうないだろうと誰もが思っていたのですが、それから一週間後、その女性が傷一つない元気な状態で森から出てきたそうなんです。ただ、それからしばらくの間、その女性はよくわからないことを口走ったり、記憶が曖昧になっていて、森の中で何が起きたのかは結局わからなかったそうです」


「……」


 そして、リアの話を聞き終えたツヴァイは想像以上に参考になったその話と自分の状況を重ねて考え始めた。


 ……これは、超常の存在の尻尾を掴んだか? 車に撥ねられた後、何者かにこの世界に連れて来られてシロキツネ様の能力で回復したとなれば話は繋がる。シロキツネ様の目的は一切不明だが、もしそうなら俺は転生ではなく転移してこの世界に来たということになるな。……あ、けど、それだけだと説明がつかないことがあるか。 


「リア、その女性って体の傷が治った以外に若返ったりしてなかったか? 大人が子供に戻るレベルの若返りで」

「え? 若返りですか? そういうお話ではなかったと思います」

「そうか。……ん? ()()……?」


 自分の若返りにまでシロキツネ様が関与しているかどうかを確認するためにリアに質問をしたツヴァイはそのリアの返答に嫌な予感を覚え。 


「はい。これは小さな頃、おばあちゃんが夜寝る前に話してくれた物語の一つで、リアが直接見たわけでは……」


 その予感が的中してしまった。


「……」


 ……今の話は、おとぎ話ってことか。


 この世界での伝説やおとぎ話にどの程度の信憑性があるかは不明だったが、少なくとも最近の出来事ではないことは確かであったため、ツヴァイは少し残念に思った。


 けれど、この世界の人達に超常の存在として(うやま)われているシロキツネ様という存在を知ることができたのはかなりの収穫であり、ツヴァイは自分が目覚めた神社のような建物とそのシロキツネ様の関係性についてリアに尋ねようとしたが。


  

「────これ以上、話をする必要はない」


 

 ツヴァイのその質問は全てを拒絶するような冷たい声によって遮られた。


「……アストライア?」


 その声を発したのは、リアと会話をしている間ずっと黙っていた銀髪紫眼の少女、アストライアだった。

 ツヴァイがアストライアの方を向くと、アストライアはその宝石のような紫の瞳でツヴァイをじっと見つめていた。

 そのアストライアの様子を見て何か問題が起きたのだろうかと心配したツヴァイはどうかしたのか? と、声を掛けようとしたが、その直前にアストライアが右手で操作しているモノが視界に入り。


「……それ、空中ウィンドウか……?」


 ツヴァイは思わずその名前を口にしてしまった。

 異世界物やVRMMOなどのネット小説でステータスなどを確認するために使われるおなじみのアレ。空中に浮くウィンドウがそこにあったのだ。


 ツヴァイのいた世界でもARゴーグルを掛けたり専用の機械で映像を投影すれば擬似的に空中ウィンドウを作ることは可能だったが、何の機材も無しに空中に操作可能なウィンドウを発生させることは不可能だった。


 そんな理想的な空中ウィンドウを見て感動したツヴァイがそちらに意識を向けている間に、アストライアが再び口を開いた。


「あなたが何者かなんてあなたのステータスを見ればわかること。登録の仕方で表示されるものは変わるけど、生まれたばかりの赤ちゃんでも何も書かれていないわけじゃないから。そう考えてあなたのことを勝手にスキャンさせてもらった。……そうしたら予想外のことが起きてしまった」


「予想外のこと……?」


 一体何が起きたんだ? とツヴァイが首を捻るとアストライアはウィンドウの向きを変え、そこに表示されているモノをツヴァイに見せた。


「……」


 アストライアがツヴァイに見せた画像には、本来ならその中にデータが表示されるのであろう枠組みだけがあり、文字やグラフは何も書かれていなかった。


「……それが俺のスキャン結果なのか? ……何も書かれてないな」

「そう、何も書かれていない。何も表記されていないのが問題」

「……? どういうことだ?」


 アストライアの言っている意味がわからずツヴァイが眉を顰めるとアストライアは左手に持つ槍を持ち直してから、その答えを紡ぎ始めた。


「ステータスが隠されていたりわからない部分は不明と表記される。けれどここにはそれさえも書かれていない。……これは人間のステータスを表示するモノ。スキャンしてもこれが反応しないということは……」


 そして、パチリと。



「その存在は────()()()()()()()()()()()()


 

 雷が跳ねる音が聞こえた。



「────」 


 それは本当に一瞬の出来事だった。


「っ……!? ディーちゃ──アストライア……!?」


 リアの悲鳴が響き渡る中、アストライアがツヴァイを組み伏せていた。

 ツヴァイの背後を取り、槍で足を払い、腕を押さえ、アストライアは一瞬でツヴァイを拘束した。


「っ……!」


 そして、いきなり押さえ付けられたことで身体の至る所に痛みが走り、反射的にツヴァイが身体を動かそうとすると。


「ぐ……!」


 アストライアは拘束の力を強め、ツヴァイの口から苦悶の声が漏れた。


「……っ」


 そんなツヴァイの苦痛にゆがむ表情を見たアストライアは拘束を緩めることはしなかったものの、自らの唇を強く噛み締めた。


「……これからこういうことに詳しい人のところへあなたを連れて行く。可能なら抵抗はしないで欲しい。恩人、かもしれない人を傷つけたくはない」


 そして、アストライアに危険な存在の可能性があると判断されたツヴァイは、彼女たちが住む街へと連れて行かれることになった。

 

 助けて貰った少女に拘束され、連行される。そんな誰も想像していなかった状況になってしまったツヴァイの無事を祈るように。

 

「────」

 

 森のどこかで鈴の音が優しく響いた。

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