1 少し未来のお話
曇天の中、轟音が響く。まるで世界の終わりを告げる角笛の音のように。
「はぁっ……! はぁっ……!」
廃墟の中、1人の少年が力の限り走っていた。
頭から血を流し、その血に濡れた片目が開くことはなく、けれども、もう一つの目で前を見つめて真っ直ぐに。
彼はこの先に行きたかった、行かなければならなかった。
「……っ!」
だが、彼の行動を妨害する存在がそこにいた。
「くそっ……! 時間が無いってのに……!」
少年の目の前に音もなく2体の巨大な生物が顕れた。
それは体躯の至る所が赤く発光する巨大生物。
否、それらは生物と言い切ることが難しい存在であった。どのような生態系にも属していないであろう異形であり、無機物のような特性も備えていたからだ。
けれども、それらが少年に向ける殺意は本物で。
だから、それらは生物というよりも怪物と語るのが相応しい存在であった。
そんな怪物達は彼が前に進む事を阻止しようとしていた。
その命を奪うことで。
「……!」
怪物の1体から放たれた数多の黒い杭が少年に降り注ぐ。
そこに一切の容赦は無く、少年がいた場所には爆煙のような土煙が舞った。
逃げ場のない攻撃。普通の人間であれば、飛んできた杭の幾つかに身体を貫かれ、即死しているであろう。
「……!」
だが、少年は傷を負うことなく、土煙の中から勢いよく飛び出してきた。
開いている片目を青く輝かせながら。
「……っ!」
そして、そのまま再び前へ進もうとした少年だったが、少年が無事であることを認識した怪物達が口のような部分を大きく開き、そこから赤い光線が放たれた。
凄まじい熱量を持ったその赤い光線は少年を一瞬で呑み込み、そこには何も残らない筈だった。
少なくとも怪物達はそう認識してた。
だが。
「……はぁっ……! はぁっ……!」
そこには白く輝く刀を構えた少年が塵になることなく残っていた。
「……っ」
しかし今度は無傷とはいかず少年の体がグラリと揺れ、体勢を崩しそうになると。
「ツヴァイ……!」
「ツヴァイさん……! 大丈夫ですか……!?」
何処からか声が聞こえた。
それは空から聞こえる声だった。
白き槍を構えた銀髪の少女と、白い剣を持つ赤髪の少女が空を駆けていた。
2人の背に翼はなかったが、その姿は戦乙女のように凜々しく、美しかった。
「────俺のことは気にするな! それよりも2人だけでも先に!」
そんな2人の声を聞き、何とか倒れることなく踏ん張った少年は空を見上げ、2人に先に行くようにと声を上げたが……。
「そうは言っても……!」
「こちらも中々……!」
2人は大量の翼竜のようなモンスターを相手に苦戦しており、彼女たちもまた先に進めていなかった。
「……」
……2人とも技の精彩を欠いている。やっぱり、普段の半分も力が出せていないか。
だが、それも仕方ないのだ。連戦に次ぐ連戦で全員が疲弊している。こうやって生きて戦っていられること自体が奇跡に等しいのだ。
……だけど……!
その奇跡を越えるような奇跡を起こさなければ、この先に進めない。誰も救えない。そう思って少年が行く手を阻む2体の巨大な怪物を睨んだ、その時。
遙か遠くで、何かが、小さく光った。
「……! 第二射が来る……!」
その何かがどういうモノなのかを知っている少年が声の限りに叫んだ。
そして、その少年の叫びを聞いた2人の少女は即座にモンスターとの戦闘を切り上げ、それぞれの武器を掲げた。
「────雷よ、切り裂け。地上の綺羅星を守るために……!」
槍の少女が望みを唄い。
「────白き光よ、我がもとに。数多の願いを奇跡で照らす、そのために……!」
剣の少女が祈りを謳った。
「……っ……!」
……間に合うか……!?
そして、少年が白く輝く刀を大地に深々と突き刺した。
その瞬間。
世界が光に包まれた。
これは、異界の地で1人目覚めるその者が辿り着く、1つの可能性。
彼がこの未来に辿り着くのか、別の未来に向かって進んで行くのか、それはまだ誰にもわからない。




