夜9時からのお耳の恋人〜声と文字から始まる物語〜
唐突に思い付いて執筆!
ストーリー的に会話が多いので見にくかったらごめんなさい。
文芸ジャンル初挑戦です。
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「声」
その人の印象を決める一つ。
しかし人を忘れる時、一番最初に忘れるのもまた声だと言われている。
そんな儚い声から始まる物語。
良かったら最後までお付き合い下さい。
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昨今、世の中は配信で溢れている。
様々動画配信サービスで実況や雑談がある中、普段素顔を隠して配信しているにも関わらず、何かのキッカケで素顔を公開。
想像通りかそれ以上のイケメン・美女でリスナー爆増。
もしくは一昔前に流行った「ぶっさwコミュ抜けるわw」の迷言よろしくリスナーが離れたりする。
結局、皆声よりもビジュアルを重要視しているんだと思う。
まぁこんな事を言っている俺自身もまた、声が可愛いと配信を視聴していた女性配信者のビジュアルを見て何回も落胆した人間の1人だ。
そんな事を繰り返す自分に嫌気が差し、動画配信サイトを見なくなったある日、ふと目に付いたSNSの広告。
『EarRing〜お耳で繋がる友情のの輪〜』
そのURLから飛んでみると、そのアプリの紹介にはこう書かれていた。
『顔出し一切無し、声だけの配信アプリ。雑談・実況・歌何でも配信OK!アナタも気軽に始めてみてね♪』
第一印象は『胡散臭い』だった。
しかし、『声だけの配信』との謳い文句に惹かれてしまった俺は直ぐ様アプリをインストール。
どんなアプリにもよくあるプロフィール設定を行う。
ニックネームはいつも使っている本名の佐藤響から連想した『リンリン』だ。
響だからリンリンって安直打とは分かっているが、色んなゲームやアプリでずっとこれを使い続けているのでもうこれ以外思い付かない。
さてさて、このアプリはどんな感じなのかな―――
取り敢えず配信を聴く前に色々見てみた感じ、他の配信アプリと変わらないみたいだ。
投げ銭に初回は無料、追加は課金するいいねのシステム……あ、このアプリは音符マークなのか。
さて、そろそろ何処の枠に入るか探してみるか。
ん〜……先ず男性配信者は論外だな。
仲良くなったとかなら話は別だけど、趣味の世界でわざわざリアルでも話せる男の声を聞く必要は無い。
後は明らかにアイコンや背景に自撮り写真だったり、微エロ写真を使ってる女性配信者も駄目。
折角声だけの配信なのにわざわざそこを観る必要ない。
リスナーの数とかは断然多いけど、俺は惹かれない。
逆にリアルタイムのリスナーが少ない配信者を検索して…………お、この現在リスナーが1人のこの人なんか良さそうだ。
犬の頭に木が生えてる微妙に下手くそな絵のアイコンと背景。
これは手書きなのかな?
なにはともあれ、この枠に参加してみよう。
『ん〜?あっ!あっ!初めまして!ん?初めましてかな?私『いぬきち』って言うんだ!よろしくね!』
うん、なんか凄く元気な声だ。
〈初めまして。アプリを入れたばかりで何も分からないですがよろしくお願いします〉
『そうなの!?じゃあ私が初めてなのかな?嬉しいなぁ〜。あ、そうそう!分からない事があれば何でも聞いてね!』
〈ありがとうございます。いぬきちさんはEarRing初めて長いんですか?〉
『私?私も初めてまだ1週間の初心者だよ。SNSの広告に出てたから気になってインストールしてみたんだ』
〈でも俺より先輩ですね。てか入れた理由、俺も一緒です。何か気になってつい〉
『そうなんだ〜!お揃いだね、ふふっ♪』
うぉっ!?笑い方もの凄く可愛い。
それに『お揃い』なんて言い方、彼女は天然の人誑しだな?
〈お揃いなんて言い方すると惚れちゃいますよw〉
『お〜?私に惚れるだと〜?ばっちこいだぜ!』
〈恋だけに?〉
『え?あっ!違う違う!そんな親父ギャグみたいなこと言ったつもり無かったんだよ〜』
〈w〉
『草だけ生やされると馬鹿にされてる気がする〜!』
〈そんなw事はww無いですよwww〉
『絶対馬鹿にしてる!もうそれ草原じゃん!』
〈バレたか……ってあれ?もう1人の方、いなくなってますね〉
『あ、ほんとだ〜。でもさっきよ人、入ってすぐに〈何歳?何処住み?〉って聞いてきたから教えないって言ったらそれ以降話し掛けても全然反応無かったんだよね〜』
〈それってただの出会い厨じゃないですか〉
『そうなの?割とそういう人多いからあんまり気にしてなかったよ〜』
〈そういう人は直ぐに枠からbanしたら良いですよ〉
『え〜……でも折角私の配信に来てくれたから申し訳なくて……』
〈そんな事考えてたら大変な事になりますよ?〉
『そうなの!?どんな風に!?教えて教えて!』
〈良いですよ〉
〈でもこれじゃあどちらが先輩か分からないですねw〉
『あ、本当だねぇ〜。じゃあよろしくお願いします、先輩っ♪』
はい、それは駄目です、俺の性癖クリーンヒットです。
俺はこの娘を推す事に決めました。
取り敢えず無料いいねを投げて―――
『あ、音符ありがとう!るんるんだよっ♪』
〈はい?〉
『あ、あれ?EarRingだと音符投げてもらったら台詞を言わなきゃいけないらしくて、それを言ったんだけど……』
〈そうなんですか?他の人の枠知らないから初めて聞きました〉
『あ、そうだったよね!また君の初めて貰っちゃったね!そうそう、君、男の子……だよね?自分の事俺って言ってたし。なんて呼んだら良いかな?リンリンさん?リンリン君?それとも……リンちゃんとか?私の事も好きに呼んでね!』
〈ちゃんは勘弁してください〉
『じゃあリン君にしよう!改めてよろしくね、リン君♪』
〈何回よろしくするんですかw〉
〈でもよろしくお願いします、いぬきちさん〉
『か、堅いな〜リン君は。まぁ良いや、それよりもさっきの教えてよ〜』
〈はいはい、分かりましたよ。例えばですけど―――〉
こんな感じでEarRing初日はいぬきちさんの枠の限度時間一杯まで2人でひたすらに話し続けた。
俺は文字だけで―――
彼女は声だけで―――
そんな日から早2週間。
彼女は毎日決まって21時から枠を始めるので、メンバー登録をした俺は初日・2日目は開始の通知が来たと同時に枠に入った。
その時に3日目からは開始時間を聞き、20時59分にはEarRingを開いて待機、更新をしまくって枠が見えたと同時に入る様になった。
そしてまた今日も―――
『よし、始ま―――って相変わらずリン君は早いね〜。今日も一番乗りだよ〜』
〈そりゃ配信1時間前から正座して全裸待機してるからね〉
『そこは服着といてほしいかな?風邪引いちゃうよ?』
〈ほら、馬鹿は風邪を引かないって言うじゃん?〉
『あ、それもそうだね』
〈そこは否定してほしかったなぁ〜……〉
『ふふっ、自分で言っておいて何それ〜?』
彼女は何と俺と同い年の17歳らしく、聞かれても教えないと言っていた筈なのに、先週の枠で俺1人しかいない時に自分から教えてくれた。
またしても意外な共通点が見つかり、そこから急速に仲良くなって部活や趣味など、お互い身バレの無い範囲でお互いの事を話している。
『でもあれだよね。リン君って訛りとか無いから案外近くに住んでたりして?』
〈おっと、そこはお互いの身バレ防止の為に聞かない約束だろ?〉
『あ、そうだったね。つい友達と話してる感覚め話し掛けちゃったよ、ごめんね』
〈俺が狼男になったらどうするですか?〉
『え〜と、確か心臓に杭を打ち込めば倒せるんじゃなかったっけ?』
〈それドラキュラな〉
『あぁ〜そうだったかぁ〜。でも1つ思った事言って良い?』
〈ん?〉
『心臓に杭を打ち込まれて死なない生き物っていなくない?』
〈それな〉
こんなくだらない、他愛のない会話を枠いっぱいまでここ最近毎日続けている。
そして、会話が一段落したところで気になっていた事を聞いてみた。
〈ところで俺からも1つ質問良い?〉
『勿論!お姉さんにドンと任せなさい!』
〈誕生日が1ヶ月早いだけで同級生だからね!?〉
〈そんな事より何で一昨日から枠に俺1人しか来てないの?〉
〈最初の頃は何人かリスナー来てたのに〉
『あぁ〜……それは……ね……』
〈ん?言い辛い事?〉
『言い辛い訳じゃ無いんだけどさ……』
〈別に無理しなくて良いよ?〉
『無理もしてないんだけど……その何て言うか……』
〈何ていうか……?〉
『リン君と話してるのが楽しくて……。それで……リン君以外入れない様にしてるんだ……』
〈へ?そうなの?〉
何それ?可愛過ぎやしないか、俺の推し。
『う、うん……』
〈何で言い淀んでたの?〉
『だ、だってだって!恥ずかしいじゃんか!それにもし……気持ち悪いって思われたら……嫌だなって…………』
気持ち悪い?そんな事思う訳が無い。
寧ろ嬉しくて嬉して―――
『え?ちょ!ちょっと待って!?これお金払って投げるやつだよね!?』
〈推しが尊過ぎてつい指が勝手に〉
『同じ高校生なんでしょ!?私なんかにお小遣い使ったら勿体ないよ!』
〈自分の好きな事に使って何が悪い?〉
『むぅ〜……。じゃあ今度お返ししたいから配信してよ!私も投げ銭するから!』
〈オレ、ツカイカタ、ワカラナイ〉
『なんでいきなりカタコトなの!?それに絶対分かってるよね!?』
〈うん、流石に分かる〉
『じゃあ配信してよ〜』
〈だが断る〉
『も〜意地悪〜!』
こうしてまた1日が終わっていくのだった。
それから更に2週間、彼女の配信に入り浸るようになって1ヶ月を過ぎた頃だった。
〈え?配信しない?〉
『そうそう。うちの高校、明日からテスト期間だからさ。流石に1週間前から全教科終わるまでは配信止めて勉強しなきゃかな〜って』
〈いぬきちなら勉強してもしなくても変わらないんじゃない?〉
『ヘイヘイお兄さん。それどういう意味だい?』
〈いや、とても頭の良いいぬきち様なら勉強などなさらずとも余裕なのではと〉
『うわ、嘘くさ〜!絶対私の事、馬鹿だと思ってるでしょ〜!』
〈ソソソ、ソンナコト、ナナナ、ナイヨ〉
『はいダウト。もうテスト期間終わっても配信してあげない!』
〈ごめんなさい〉
〈それは勘弁して下さい〉
〈ねぇ〉
〈お願い〉
〈ねぇ〉
〈何で返事してくれないの〉
〈ねぇ〉
〈ねぇ〉
『怖いよ!?何かメンヘラ気質の彼女みたいになってるじゃん!』
〈僕の男だよ?〉
『知ってるよ!?ものの例えじゃんか!』
〈w〉
『も〜また馬鹿にして〜』
〈まぁそれは置いといて〉
『なんか腑に落ちないけどまぁ良いや』
〈俺の学校も丁度同じタイミングでテスト期間だから丁度良いかも〉
『あ、そうなの?じゃあ本当に丁度良いね!』
〈何なら点数で勝負する?〉
『お、良いね!教科数とか違うかもしれないから共通の幾つかに絞ってやるのはどうかな?』
〈確かに〉
『英語は絶対あるよね?後は数Ⅱと……』
〈あ、理科は?〉
『うちは生物と地学だよ』
〈俺は物理と化学だから無し〉
『お、理系なんだね〜』
〈学校自体はそうでも無いけど、理系コースがあるんだよ〉
『うちも同じ感じだよ〜』
〈また話が逸れてる〉
『あ、そうだね、ごめんごめん。』
〈じゃあ後は―――〉
途中、何度も話が脱線しながらも何とか配信の終了時間の5分前には勝負する教科が決める事が出来た。
『あ、配信終了まで後5分だ〜』
〈いぬきちが直ぐに脱線するから〉
『リン君だって途中ノリノリだったじゃん!』
〈反省も後悔もしていない〉
『せめて反省はしようか?』
〈やだ〉
『急に語彙力が小学生になった!?』
〈それは否めない〉
『全くも〜。あ、ところでさ、折角勝負するなら何か賭けない?』
〈賭けるって何を?〉
〈勝った方に投げ銭するとか?〉
『それに関してはリンが配信しないから無理でしょ。それとも配信してくれる?』
〈却下〉
『じゃあ言わないでよ……』
〈逆に何か案ある?〉
『そう言われるとなぁ。ん〜……あるあるだけど、負けた方が勝った方の言う事聞くとか?』
〈配信しろ以外なら聞くけど?〉
『それ何でもじゃないよね?』
〈配信は断固拒否する〉
『じゃあ何の為にEarRing始めたの?』
〈秘密〉
『え〜気になるじゃん!そうだ!じゃあ負けた方がEarRing始めた理由を話そうよ!』
〈お互いに広告が目に入ったからじゃなかったっけ?〉
『そうじゃなくて。何で色んな配信アプリあるのにここを使ってるのかって事!』
〈そんな大した理由無いから別に良いけど〉
『え〜そうなの〜?』
ここで配信終了1分前の表示が出た。
『あ〜!もう終わっちゃうじゃん!罰ゲーム決めてないのに!』
〈今決まったんじゃないの?〉
『なんかそれだけじゃつまらないじゃん!あ、じゃあその理由と後は高校名だけ言おう!』
〈身バレするよ?〉
『リン君だけだから良いの!高校分かってもそれ以外知らないから大丈夫だよ!』
〈部活とか知ってるよ?〉
『知らない知らな〜い!じゃあもう10秒前だから!お互い頑張ろ〜ね!テスト終わった日にまた9時から配し―――』
言い終わる前にタイムオーバーが来て強制終了。
さて、明日からいぬきちの配信は無いのかー。
いぬきちの枠が始まる前とか終わった後にちょちょこ別の枠に入って入るが、しっかりとこなくて5分もしない内に何かと理由を付けて落ちてるんだよなぁ。
…………しょうがない、勝負は勝負だし今回のテスト期間だけはちゃんと勉強してみるかな。
そうして俺にとっては長い長いテスト期間が始まった―――
テスト最終日。
全日程が終了し、部活に入ってる生徒は各々の練習場所へ。
帰宅部は早々に帰る生徒もいれば、教室に残ってテストの感触を確かめ合ったり、この後遊びに行く予定を立てている。
俺は勿論前者……と言いたいところだが、今日は少し寄り道をしたい気分。
なんとなく真っ直ぐ家に帰っても彼女の配信の時間までソワソワしてしまうだけなので、少しでも帰る時間を遅らせたいだけなんだけど……。
俺の家から学校までは電車で三駅。
自転車で登校するなんて事はしない俺は電車通学だ。
必然的に駅に向かうので、そこに併設しているカフェチェーン店に寄る事にした。
「……と思いながらも結局はここでもEarRing開いてる俺ですよ〜っと」
オーダーした商品を受け取って窓際のカウンター席に着いたと俺はスマホを取り出し、EarRingを開く。
何となく「彼女も開いてると良いな」とか考えながら。
お互いに顔も住んでる場所もましてやSNSも知らない、メッセージ機能も無いEarRingの枠の中だけの関係。
彼女は配信者で俺はリスナー。
ただそれだけ。
でも不思議と今まで聞いてきたどんな配信者よりも身近な、まるで仲の良いリアルの友達みたいだ。
いつもの場所でいつもの時間に待ち合わせをし、いつもの時間に解散する。
1ヶ月間毎日聴いていた声がたった少し空いただけで恋しくなる程に日常になっている。
『俺はきっと彼女に惹かれている』
そんな事はとっくに分かっていた。
でも、所詮は配信者とリスナー、所詮は顔も知らない他人同士。
こんな気持ちを抱いてはいけない関係。
あくまで彼女は推しであり、恋愛対象と見てはいけない。
ガチ恋なんて、リアコなんて、頭の悪い馬鹿がする事だ。
俺がそんな事する筈無い、有り得ない。
何て思っていた1ヶ月前の自分、俺はどうやら馬鹿だったらしい。
でも、どうせ馬鹿でもせめて行儀の良い馬鹿でいたいと思う。
この気持ちを伝える日は来ない。
伝えるつもりも無い。
この心地良い関係が壊れてしまうのが怖いから……。
だから俺は1人のリスナーとして彼女の枠に今日も入る。
また馬鹿な話をして画面越しに、お互い見えないけれども笑い合う。
声と文字で話し続ける。
頼んだ珈琲も空になった。
これから電車に揺られて家に帰れば丁度良い時間。
いつも通り先に風呂に入って夕飯を食べて、部屋に戻って課題を済ませれば配信の15分前。
少しソワソワしながら夜9時を待ってなったと同時に枠へと駆け込む。
『あ、今日も9時丁度だね〜!お互いにテストお疲れ様だよ〜!じゃあ早速、点数の発表をしようよ!』
こうして始まる夜9時からの―――
〈お疲れ〉
〈じゃあまず現国から―――〉
声と文字の物語。
「テスト終わった当日に点数が分かるのはおかしい!」とか野暮なツッコミは無しでお願いします。
正直、作者も書きながら思っていましたので……。
そしてこれ書きながら、何か主人公の口調とか書き込み見て作者の黒歴史が蘇って時折ベッドの上出のたう回りながら何とか最後まで書き切りました。
こんな青春、過ごしたかったなぁ…………(発狂)。




