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第8話 優秀過ぎる生徒


 今日は教師はこの教室に来ない。俺たちがテーマが決まるまでは先に進めないからだ。


「さぁ、今日こそテーマを決めよう」


「そうね。決めましょう」


 アレクシアはそう言うと、鞄から数冊の本とびっしりと何かが書かれている紙を取り出した。


「ジャガイモについて調べてみたわ」


「おお~~仕事早いな。で、どうだった?」


 俺が尋ねるとアレクシアが目を輝かせながら言った。


「ジャガイモは素晴らしいわ!! 我が国の気候にも合っているし、何より長期保存も可能。国によっては主食になっているところもあるのね!! テーマは"ジャガイモ"いいと思うわ!!」


 正直に言うとこんなにも前のめりで賛同してもらえるとは思ってなかったので、若干驚いたもののポテチが食べたい俺は全力で乗っかることにした。


「そうだろう!? ジャガイモいいだろう!?」


「ええ、素晴らしい食材だわ! まさに無限の可能性に溢れているわ!!」


 アレクシアと手と手を取り合って、ようやく俺たちの発表テーマが決まった。

 

「さてと……じゃあ、まずはジャガイモを取り寄せて食べようか」


「え? まずは食べるの?」


 俺は大きくうなずいた。


「だって、俺は食べたことあるけど、アレクシアは食べたことないだろう? 食べてしっかりと舌の上で味わって、美味しいと感動しなきゃ布教活動なんてできないだろう? まず体験して自分で感じようぜ、知識だけじゃ推し活はできない!!」


 アレクシアは眉を寄せた後に声を上げた。

 

「ちょうど、父と母が明日から国外に向かいますの。訪問地にジャガイモがあったら、ジャガイモだけ先にこちらに届けてもらうように頼みますわ」


「あ~それは助かるな~~リンハール公爵は今、自分の領地のことで忙しくてさ~~外国に行きそうもない」


 テオドールの父のリンハール公爵は領地が今とても忙しいらしく王都を離れている。一月後の社交シーズンまでは戻らないと言っていた。


「それはそうですわ。リンハール公爵家は王国を代表する農地を管理されていますの。今は一番忙しいですわよね」


「そう、だから助かる。じゃあ、材料が揃ったら、俺の家でクッキングだな!!」


 何気なく言った言葉に、アレクシアは俺の想像以上にくいついた。


「まさか……テオドールが作ると言い出すんじゃ……」


「そのまさかだけど」


「え!? まさか、料理の御経験が?」


 そんなに驚く……ことだ。この世界の貴族はまず料理なんてしない。

 専門の料理人がいる。

 俺は、話を切り上げることにした。


「あるけど。まぁ、とにかく、ここまでをまとめて先生に報告しよう」


「そうですわね」


 俺たちはここまで決まったことを教師に見せるため1枚の紙にまとめた。


「出来たな。じゃあ、行こう」


「ええ」


 俺は、アレクシアと並んで教師の元に向かった。すると前から同じ学年の男性だけの共同グループの学生が大きな定規を持って歩いて来た。


「テオドール様、アレクシア嬢。こんにちは」


 3人がそれぞれあいさつをしてくれたので、俺も「こんにちは、どう進んでる?」と尋ねると皆苦笑いで「いや、まったく」と言って笑った。会話が終わると、アレクシアが男子生徒の一団に向かって微笑みながら言った。

 

「皆様、こんにちは。私の名前知っていて下さってありがとうございます。ですが、申し訳ございません。皆様たちのお名前を存じ上げません。教えいただけますでしょうか?」


 男子生徒全員が顔を赤くしてゴクリと息を呑んだ後に一斉に口を開いた。


「私は、ダニエル・レーターです!!」

「私は、ヘンリー・ライドです。お声がけ頂き光栄です」

「俺は、レビン・ガームです。アレクシア嬢、お噂以上に美しい方ですね」


(あれ……なんか、デジャブかな?)


 俺が首を傾けていると、アレクシアがまたしても美しく微笑んだ。


「ダニエル様に、ヘンリー様、レビン様ですね。あらためまして、こんにちは。お互い研究は大変ですけれど、頑張りましょうね。皆様の研究楽しみにしておりますわ」


 男子生徒全員が顔を真っ赤にした……落ちた、そう思った。


「はい」

「頑張ります」

「楽しみに!?」


 みんな魅力魔法にかかったようにアレクシアに夢中になっていた。もちろんここは魔法の世界ではない。残念だが……


(ん? ん? なんか……魔性の女っぽくない?? アレクシア……)


 俺が若干不安に思いながらアレクシアを見ていると、アレクシア「それでは皆様、ごきげんよう」と言って歩き出した。


「ごきげんよう」

「アレクシア嬢……」

「可憐だ…」


 佇む男子生徒を残して俺はアレクシアの後を追った。

 そして彼らと離れるとアレクシアの顔を覗き込んだ。するとアレクシアがにこっりと笑った。


「なるほど、こんな効果があるのですね。あなたの真似ですわよ?」


「あ……うん。やっぱりそうか……呑み込みが早いことで」


「ふふ、呑み込みが早いというのは私の取柄ですの」


 俺はどうやら、とんでもない人物に手を貸してしまったようだった。

 そして教師の元に着いて報告書を見せた。


「いいですね。ですが、念のため、そのアレクシア様のお調べになった内容を見たいのですが」


 教師の言葉に俺が声を上げた。


「俺が持って来ます。アレクシアはここで待ってて」


「はい」


 俺は教師のいた部屋を出ると急いで俺たちに割り当てられた教室に戻るために近道をした。


(あ、ルーカスたちだ)


 中央広場を通ると、少し離れた場所でルーカスたちのグループが歩いているのが見えた。

 するとさっきの男子生徒たちが生垣の前のベンチに座って何かを計りながら話をしていた。


「いや、アレクシア嬢。かなり可愛いな~~妖精か?」

「ああ、話したことなかったけど、さすがはルーカス殿下の御婚約者様だな~~羨ましいぜ~~殿下ぁ~~」

「本当にあんな綺麗でお優しい方が婚約者だなんて、ルーカス殿下が羨まし過ぎる!!」

「それな、絶対にいい研究にしようぜ」

「ああ。楽しみにしてるって言われたからな~~」


(あ、今の……位置的にルーカスに聞こえたかもな……)


 ルーカスの表情を見ていると、ルーカスはちょうど生垣の反対側の男子生徒が話をしている場所に立ち止まり、唖然としていた。


「ルーカス様、どうされたのですか?」


 キャロルに声をかけられて、ルーカスは「あ、悪い」と言って再び歩きだした。

 

 ――風吹けば、桶屋が儲かるというが、本当に何がどこでどうなるのかわからない。


「あ、俺ものんびりしている場合じゃないな」


 俺は急いで教室に戻ると、アレクシアが調べたという紙を手に取った。

 綺麗な字でびっしりと書かれた"ジャガイモ"のこと。

 真面目で誠実な人柄が現われていた。


「幸せになってほしいよな……」


 そう呟くと、俺は急いでアレクシアたちの待つ場所に向かったのだった。


 





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