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解散直後のお笑い芸人が異世界転生、悪役令嬢を真正悪女にプロデュース  作者: たぬきち25番


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第6話 【Lesson3】あいさつをする

 


 アレクシアと渡り廊下を歩いていると他の学年が授業が終わったようで、女子生徒が教室から出て来た。

 俺たちの学年は午後は全てこの研究授業だが、他の学年は違う。

 女子生徒が俺を見て離れた場所で声を上げていた。


「キャー! テオドール様よ! どうしてここにいらっしゃるのかしら?」

「ほら、3学年は共同研究よ。それにしても素敵~~」


 悪いが俺はかなり耳がいいので全て聞こえている。

 何度も言うが、テオドールは顔よし、家柄よし、さらに王子の友人。かなりモテる。


(あ~~転生してよかった~~)


 俺はご機嫌で歩いていると下級生の女の子たちが近づいてきてあいさつをしてくれた。


「テオドール様、アレクシア様、こんにちは」

「テオドール様、アレクシア様、こんにちは」


 アレクシアは通り過ぎたが、俺はもちろんそんなもったいないことはしない。


「こんにちは、俺の名前知っててくれてありがとう。でも、ごめんな。君たちの名前知らないんだよね。教えてくれる?」


 俺が話しかけると二人は嬉しそうに答えてくれた。


「え? 名前? あ、私はサリーです!!」


「わ、わ、私はエミリーです」


 俺は照れる二人に笑顔で言った。


「サリー嬢とエミリー嬢か、あらためてこんにちは」


「こ、こんにちは……」


「こんにちは……テオドール様に……名前を……」


「じゃあ、残りの授業もお互い頑張ろうな」


「はい!!」


「頑張ります!!」


 俺は二人に手を振ると、また歩き始めた。

 そして3学年が共同研究をしている棟に入ると、アレクシアが不機嫌そうに言った。


「何をしていますの? 女子生徒に囲まれて鼻の下を伸ばして、情けない!!」


 そう言って、アレクシア早足で教室に入った。

 俺は、ゆっくりと教室に入ると眉間にシワを寄せたアレクシアの机に手を置きながら言った。


「ルーカスの心を取り戻す【Lesson3】あいさつをする」


「は?」


 アレクシアが意味がわからないと言った様子で声を上げた。

 

「あのさ、俺からしたらさっきのアレクシアの態度の方が『情けない』って感じなんだけど!?」


 アレクシアは本気で""わからない"と言った表情をしていた。


「あのさ、アレクシアはなんのためにこの学校に通ってるわけ??」


「それは……知識を付けるためと、社交ですが……」


「そう、知識と社交だよね? じゃあどうしてあいさつしないの??」


「あいさつ?? それに何の意味があるのですか? 決まった言葉を交わすだけで意味がありませんわ。有益な情報が得られるわけでもありませんので、時間の無駄です」


 俺は思わず盛大に溜息をついた。


「はぁ~~人との関係にそんな効率とかわけのわかんないこと言ってるから、ルーカスとの仲も悪くなるんだろう? アレクシアは、ルーカスにもあいさつなしで、言いたいこと言ってるけど……いきなり本題に入っても全く相手に内容なんて伝わってないからな? 伝わらないどころか拒否反応されてる始末ですよ」


「え……拒否反応?」


 俺は、アレクシアの机についていた手離して、自分の机に座った。


「まぁ、『あいさつ』をするっていう習慣がなかったってことだろ? これから、これから、大丈夫、大丈夫。じゃあ、早速テーマ決めよう」


 俺がそう言うとアレクシアが眉を寄せた。


「そんな簡単に……」


「簡単だよ。別に難しい数式を記憶しろって言ってるわけじゃないじゃん。習慣にしちゃえば解決じゃん。大丈夫、忘れてたら教えてあげるよ」


 アレクシアの表情から力が抜けて、俺を見ながら呆れたように言った。


「そう……やってみますわ……」


 そして、アレクシアが俺を見ながら言った。


「ところで……どうしていきなりLesson2から始まったのですの? 今のはLesson3でしょう? 普通はLesson1からではありませんこと?」


 俺はニヤリと笑って答えた。


「Lesson1はすでに終わった。コンプリート!! おめでとう!!」


「え? 終わった??」


「そう、終わった」


「Lesson1は何だったのですの?」


「Lesson1は【決めること】」


「……それだけですの?」


「うん。それだけ、でもさ、よく考えて? これまで全く自分に問題ないと思っていた人が変わろうって決めるだけでもかなりの大きな事件でしょう?」


 アレクシアは目を大きく開いた。


「そんなことが大きな事件ですの?」


 俺は印象付けるために大袈裟に言った。


「そう、本人にとっては大事件、まさに革命だね」


「ふふふ、言い過ぎだと思いますけど」


 いつも不機嫌そうに眉間にシワを寄せていた姿しか見ていなかったので、笑った顔はやっぱり新鮮だ。そして笑顔のアレクシアはさすが王妃候補に選ばれるだけあるというほど可愛い。

 

(アレクシア、もっと笑ってくれたらいいのにな……)


 楽しそうに声を弾ませるアレクシアと一緒にいるのは悪くない。

 ふと時計を見ると、もう残り時間も少なくなっていた。


「ヤバい!! さすがにそろそろテーマ決めよう」


「ええ」


 そして、俺たちはようやくテーマを決めることになった。

 アレクシアは、俺の顔をじっと見ながら言った。


「テオドールはどうしてこのテーマを選んだの?」


(おお! 俺に話を振ってくれた!!)


 いつも自分の言いたいことだけを言っていたアレクシアが、話を振ってくれたというこだけでもかなりの変化だ。

 俺は嬉しくなったが、表情には出さずに答えた。


「俺はね……ポテトチップスが食べたくてこのテーマにしました!!」


 アレクシアは、しばらく無言になった後に言った。


「もう、終わりですの?」


「うん。終わり」


 アレクシアは、呆れながら言った。


「そんな特定の食べ物が食べたいという理由でこのテーマを選んだのですか?」


「俺にとっては、ポテチが食べられないのはゆゆしき事態なの!!」


 以前の俺は、土曜日の夜にビックサイズのポテチとビールを買って、それを堪能しながら家でだらだらするために、一週間頑張って労働していた。それがないのだ。かなり落ち込む。アルコールは無理にしてもポテチには年齢制限はないのでぜひ食したい。


「そんなくだらないことのために、共同研究をするだなんて……意味がわかりませんわ、そのような浅はかな考えをテーマにするなどありえませんわ」


「はいはい、すぐに人の意見を否定しな~い。あのね、アレクシアと俺は、違う人間なの。考え方や生き方が違うのは、あ・た・り・ま・え! それにアレクシアだって具体策はないんだろう?」


 アレクシアはぐっ、と口を閉じた後に言った。


「ありませんけど……」


「ジャガイモはこの国にはほとんどないだろう? 取り寄せて生産すれば、食料不足解消にも役立つと思うけど?」


「ジャガイモ?」


 アレクシアは首を傾けた後にノートに「じゃがいも」と書き込んだ。


(ジャガイモの存在を知らなかったのか……まぁ、こっちでは一般的ではないからな……)


 俺は一度だけ公爵家が外交をした時に貰ったというジャガイモを食べた。

 数も少なくてポトフとして食べたが、できればポテトチップスが食べたかった……


 そんな話をしているうちに授業の終わりを告げる鐘の音が鳴り響いた。


「そろそろ終わる……テーマ決まらなかったな……」


「ええ。次は明後日でしょう? それまでにこのジャガイモについて調べて参りますわ」


 まさか調べてくれると思わなくて驚きながら返事をした。


「え、あ、ああ」


 アレクシアは背筋を伸ばして立ち上がった。そして俺を見て小さく笑った。


「それでは、テオドール。ごきげんよう。今日は《《なかなか》》いい時間だったわ」


「俺も《《なかなか》》いい時間だった。また、明後日な」


 俺は教室を出て行くアレクシアを見送ると小さく笑った。


「はは、あいさつしてくれた……」


 俺も自分の持ち物をまとめると、自分の教室に戻ったのだった。

 教室に戻ると、すぐにルーカスに声をかけられた。


「テオ、聞いてくれ! 先日の茶会で話をしたキャロル、覚えているだろう? 彼女、同じ年で同じ『演劇』のテーマだったんだ」


 それは俺も見ていたので知っているが、知らないフリをして会話を続けた。


「へぇ~~。ちなみに『演劇』を選んだのは何人なのですか?」


「私を含め9人だ」


 俺は2人だったので、人数の多さに驚いた。


「そうですか……テーマは決まったのですか?」


「ああ。今、王立劇場で上演されている。"おうし座の超人"をテーマにした」


「は? おうし座の超人?? なんかどこかで似たタイトルを聞いたことがあるような……ま、それは置いておいて……それでは演劇を見にいかれるのですか?」


「ああ。来週9人で王立劇場に演劇を見に行くことになった。テオも行くか?」


「俺ですか? "おうし座の超人"どんな話かめちゃくちゃ気になりますが、止めておきます。だって、そっちは勉強でしょう? 俺、純粋に楽しみたいですし」


「なるほどな。そういう考え方もあるな」


 ルーカスは断ったにもかかわらず、イヤな顔一つしなかった。そんな話をしていると担任が入って来て、明日の連絡などを済ませて学校が終わった。


「テオ、またな」


「ええ。また」


 ようやく俺の長い一日が終わったのだった。



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