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第5話 【Lesson2】人の話は最後まで聞く

「『食』と言いましても広義ですので、まずお二人で細かなテーマを決め……」


 教師の話が最後まで終わらないうちにアレクシアが口を開いた。


「ご安心を、もうテーマは決まっていますわ」


 教師は作り笑顔で「……さすがアレクシア様ですね、それでは終わりましたら一度私に提出して下さい」と言うと、教室を去って行った。

 俺は去り行く教師の背中を見て大きな溜息をついた。


「はぁ~~~まず、《《それ》》、直そう」


「え?」


 俺はアレクシアをじっと見ながら言った。


「先生、《《まず》》って言っただろ?? つまり他にも手順があったってことだろう? しかも俺たちテーマ、決まってねぇじゃん!! 何か決め方のコツとかアドバイス貰えたかもしれないだろ? なんでも自己完結したつもりになって、他人の学びの機会まで奪うなよ」


 芸人を目指していた俺は売れている芸人の先人たちをとにかく観察した。

 長く売れている方々はとにかく人の話をよく聞いている。そして、他の人がスルーするであろうことを拾い上げる。そして本人さえ気づいていなかった本当に伝えたかったことなどを取り出して、ツッコミながら磨いて、珠玉のエピソードとして世に送り出していた。

 俺はそれを見て何度も心が震えた。

 実際の生活でも人の話を最後まで聞かずに発言したりする人は多い、と気づいた。だが、アレクシアのそれは酷い部類だ。俺はそんなアレクシアをじっと見ながら言った。


「ルーカスの心を取り戻す【Lesson2】人の話を最後まで聞く」


 アレクシアは慌てて口を開いた。


「……人の話を最後まで聞く? ……私、聞いていますわ」


 俺はアレクシアを見ながら言った。


「まぁ、人ってマジで自分のことはわからないもんな……さっきの先生の話を遮ったのも気づいてねぇの?」


 アレクシアは「先ほどのは……先生もお忙しいですので無駄を省こうとは思いました」と答えた。


「いやいや、それ、余計なお世話だろ。そもそもここは学ぶ場所、そして彼は先生!! 俺たちは生徒!! 生徒が先生から学んでいた、それのどの辺りに無駄があるんだよ!?」


「ですが知っていることだったら、お互いの時間の無駄になりますわ」


 アレクシアは不機嫌そうに言った。


「うん、俺はね、超能力とはないから、人の話は最後まで聞かないと、知ってることかどうかわからない。現にテーマの話だったじゃん。テーマ、決まってないじゃん」


「テーマは決まっています。私はこの国の食料不足を解消するためにどのようなことができるのかを研究するつもりですわ!!」


 俺は、アレクシアをじっと見ながら言った。


「ふ~~ん、それは素晴らしいと思うけど、抽象度が高過ぎて行動まで落とし込めない。具体的にはどうしたいわけ??」


「それは……これから考えますわ」


「……あのね、アレクシア君。人はそれを決まっていない、と言うんだよ。しかもなんで、個人テーマなんだよ!? これグループ研究でしょう!? 二人で考えて決めないと意味ねぇだろ!!」


 するとアレクシアはぐっと息を呑んだ後に、少し考えて答えた。


「……では……私の決めたテーマにあなたが無条件で賛同すればいいのでは?」


「なんだよ、その旧時代の支配者脳は……アレクシア君。話し合いってご存知ですか? なんのための共同研究なんだよ!? この授業の趣旨は自分とは違う他の人の意見を聞いて刺激を受けて、世界を広げるっていう訓練だろ? だから男女が合同でやるんだろうが!! おい、マジでしっかりしろ!!」


 するとアレクシアがギロリと睨んだ。


「では、どうしろとおっしゃるのですか!!」


「だから【Lesson2】人の話を最後まで聞く、を実践しようぜって言ってんじゃん。先生の話を最後までよく聞いて、俺の話を最後までよく聞く。そして、自分の話も最後まで聞いてもらう。これでいいじゃん」


「……」


 アレクシアは沈黙した後に俯きながら言った。


「ですが……先生はもう行ってしまわれましたわ」


 俺は立ち上がって言った。


「ごめんなさい、って言ってもう一度聞けばいいだろう?」


「は? そんな恥ずかしいことできませんわ!!」


 アレクシアが座ったまま俺を見上げながら言った。


「聞かずに一生知らない方が恥じだわ!! いいか? 俺は学生、君も学生。俺たちは、間違えました。それを先生に報告に行って新しいことを学びます。むしろ自然な流れだろう?? ぐだぐだ言ってないで行くぞ。これじゃあ、何も進まねぇ」


 俺が教室を出ようとすると、アレクシアがようやく立ち上がった。


「私も行きます……私のせいですし……責任を取りますわ」


 そしてアレクシアが俺より先に早足で教室を出た。


「責任ね……その言葉が咄嗟に出るのはさすがだけどな……」


 俺の言葉はアレクシアに聞こえたようで、ピクリと肩を震わせた後に耳まで真っ赤になっていた。そして彼女は聞こえなかったフリをして準備室に向かった。

 俺もアレクシアの隣に並んで歩いた。

 そして俺たちが教師の元に行くと、初めは驚いていたが快くテーマの決め方や進め方の説明をしてくれた。

 説明が終わった後に、教師が笑顔で言った。


「お二人の研究はきっと素晴らしいものになるでしょうね」

 

(うわ……ハードル上げられた……)


 俺にとってその言葉はプレッシャーに感じたのだが……


「はい!! 先生のご期待に応えるべく、きっと素晴らしいものにしてみせますわ!!」


 隣のお嬢様は、目を輝かせて教師の期待を自分の動力に変えてしまった。


「こういうとこは、素直に尊敬するけど……」


 俺が呟くとアレクシアが俺の顔を見ながら言った。


「何か言いました?」


「い~や、何も。じゃあ、さっきの教室に戻ってテーマ決めますか」


「ええ」


 そして俺は、アレクシアと共に教室に戻ることにした。

 廊下を歩いていると、アレクシアがふと呟くように言った。


「先ほどの先生のお話……知らないことばかりでしたわ……お伺いしてよかったですわ」


 俺はニヤリと笑うと「だろ」と言った。

 するとアレクシアが照れたような顔で言った。


「その顔、なんとかなりませんの!? 不快ですわ!!」


「どうして笑ってるのに不快なんだよ、本当に失礼なヤツだな」


「ヤツ!? 女性に向かってなんて口の利き方!! 改めるべきですわ。私にはアレクシアという曾祖母から頂いた素晴らしい名前がありますのよ!!」


 俺は、アレクシアをじっと見ながら言った。


「じゃあ、アレクシア……でいいの?」


 アレクシアは、立ち止まり両腕を組んで、俺からお顔を逸らしながら言った。


「か、か、かまいませんわ」


「じゃあ……俺のことも、テオ君って呼ぶ?」


「テ。テ、テオ君ですって!? そんな、呼びませんわ!!」


「あっ、そっ。じゃあ、好きに呼んでいいよ」

 

 俺が頭で腕を組んで歩くと、アレクシアが俺を追い抜かしながら言った。


「早くテーマを決めなければ、さぁ、行きますわよ、テオドール!!」


 俺はなんだかおかしくなって小さく笑った。


「はは、そう呼ぶんだ(そっちの方がくすぐったいんだけどな……)」


 するとアレクシアが振り向いて言った。


「何かおっしゃいまして?」


「いや、なんでもない。さぁ、早く戻ってテーマ決めようぜ」


「ええ」


 こうして俺たちは笑いながら自分たちに割り当てられた教室に戻ったのだった。



 

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