第15話 休息
ルーカスにアレクシアの父の代役を譲った日。
俺は落ち着かない一日を過ごした。
そして――翌日。学院に行くと、笑顔のルーカスがいた。
「おはよう、テオ。聞いてくれ! 昨日はアリシアとまるで普通の婚約者同士のように過ごせた!!」
胸に黒いインクのようなモヤが広がるのを気付かないフリをして答えた。
「それはよかったな……」
上手く笑えている自信はないが、ルーカスが嬉しそうなのできっと上手く笑えているのだろう。
「ああ!! アレクシアもずっと笑っていたし、静かに私の言葉に耳を傾けてくれた。一時はアレクシアと結婚するのかと思うと酷くつらかったが、昨日のようなアレクシアなら大歓迎だ。卒業したらすぐにでも式を挙げようと思う」
数ヶ月前。
ルーカスはアレクシアを目に映すのさえ嫌がっていた。
それが、ここにきてかなりの好感度を上げた。
これを目指していたのだ。
喜ばしい限りだ。
それなのに……胸が苦しい……
息苦しくて、座っていられなくて思わず立ち上がった。
「ルーカス、悪い。俺、なんだか体調悪くて、次休むわ」
「ええ? 大丈夫か? 医務室まで付き合うか?」
ルーカスが心配そうに俺の顔を覗き込んで来たが、俺はすぐに顔を逸らした。
「いや、もうすぐ授業が始まるだろ? 先生に伝えてくれ」
「わかった」
俺はどしても、ルーカスの顔を見ていられなくて逃げるように教室を出た。
医務室に行っても本当に必要な人の迷惑になるので、いつもの図書館裏のベンチに座った。
(ああ……よかった……息が出来る)
大きく深呼吸をして、空を見上げた。
風が心地よくて目を閉じた。
(さっきの息苦しさ……なんだったんだ?)
呼吸を忘れて息が出来ない息苦しさを感じた。正直、怖かった。
「やっぱり、テオドール!? こんなところでどうしたの??」
「アレクシア!? そっちこそどうしたんだ? 授業中だろ?」
俺が声を上げると、アレクシアが俺の隣に座った。
「自習になったから図書館に来たのよ。なんとなくここを通たらあなたがいたから驚いたわ」
「あ、自習だったんだ……あ、そうだ。おうし座の超人どうだった?」
俺がアレクシアに感想を聞くと、アレクシアは困ったように言った。
「よく……覚えていないの」
「え? 寝てたのか?」
「違うわ!! ……考え事をしていて、気が付いたら……終わってた」
いつのも俺なら『いや、そんなことないだろ』と言っていたもしれない。
でも……
「俺も……昨日は、気が付いたら1日が終わっていた……」
気が付けば、自分でもどうしてそんなことを口にしたのかわからないと言った本音が飛び出した。
俺はアレクシアを見て言った。
「やっぱり行こうか、共同研究、お忍び市場調査。そして、帰りに……おうし座の超人見る?」
「見るわ!」
アレクシアは俺の提案に即答した。
本当は、もうお忍びで市場調査になど行く必要はない。
俺たちの研究発表はほとんど完成している。
この研究が表に出れば、この国でジャガイモの栽培が始まるだろうというところまで話を詰めている。
アレクシアが真剣な顔で言った。
「もちろん二人でよね? 他の誰でもないテオドールと行くのよね?」
「うん。二人で行こう。アレクシアは町娘に変装して。まぁ、俺も一般人になり切るから、一般席の予約しかできないだろうけどさ」
「それでもいいわ!! 行きましょう」
「行こうか……」
こうして、俺たちは今度はお忍びで市場調査に行くことになったのだった。
アレクシアと過ごす――最後の共同研究として……




