第11話 イメージとは?
次の日。空は晴れ渡り心地よい風が吹く爽やかな朝。
この国の王太子ルーカス君はテンション低めに言った。
「テオドール、今日も共同研究メンバーと昼食を摂る」
「わかった~~」
なんだか疲れた顔のルーカスから昼食は別に取ると告げられた。今日は別にアレクシアと約束もしていないので気が楽だ。
俺がいつも通り授業の用意をしていると、ルーカスが小声で言った。
「なぁ、人数が多いと中々意見がまとまらないことがあるだろう? そんな時、テオドールのところはどうしている?」
「ん~~今回の共同研究でってことだろう? 俺はアレクシアと二人だからな~~意見がどうしても擦り合わないってことはそうないかな~~」
するとルーカスが驚いた顔をした。
「え? テオのところは2人なのか?」
「あ、もしかしてそれも言ってなかった?」
そう言えばアレクシアと一緒だとは言ったが、アレクシアと二人だとは言っていなかった気がする。
元相方の蓮にも『涼は自分のことを話さな過ぎる』と言われたが、こっちでもその癖は治っていないようだ。
「ああ。聞いていない。だが……そうか、テオはアレクシアと二人で……そんなテオに泣き言など言えないな。皆、人の話は聞く者ばかりなので、アレクシアと一緒よりはマシだ」
ルーカスは、同情するような目を俺を見た。
なぜだか俺はムッとして言い返した。
「アレクシアは、人の話も聞く(ようになった)し、頭が切れるから研究がどんどん進む」
ルーカスはなぜか同情する瞳で見つめるばかりだ。
反論しようとしたが、教師が教室に入って来てしまった。
(んん~~一度出来てしまったイメージを覆すのは至難の業だな……どうしたものかな……)
俺は一度ついてしまったルーカスのアレクシアに対する負のイメージを払拭するにはどうしたらいいものかと頭を悩ませた。
◇
「テオ、行ってくる!!」
「いってらっしゃい」
俺はルーカスを見送ると、食堂でランチボックスを注文していつもの図書館裏の静かな場所で手早く食事を済ませて、ベンチで伸びをしていた。
「ふぁあ~~あ」
「大きな口」
「は?」
目の前にアレクシアの逆さから見た顔のアップ。
俺は慌てて伸ばしていた手を引いて、身体を起こしてアレクシアを見た。
「どうしたの?」
「私もここでお昼ご飯を食べようと思って」
「へ?」
どうしてと聞く間もなく、アレクシアはすっと俺の隣に座って「いただきます」と言って食事を始めてしまった。
俺はわけがわからずにアレクシアを見ているとアレクシアが口を開いた。
「テオドール、ジャガイモは昨日届いたから明日にはリンハール公爵家に届けるわ」
「あ、そうなんだ。ありがとう」
どうやらジャガイモについての報告をしてくれたようだった。
(わざわざいいのに、義理堅いな~~)
ようやくアレクシアがここに来た理由がわかってほっとした。
「あ、そうだ。例のブルーベリー好きに先生の授業、今日だったんだろ? 繋がりあった?
アレクシアが楽しそうに言った。
「ふふふ、あれね。やっぱり関係なかったみたい。しかも驚いたのが、あんなに熱く語っていらっしゃったのに、先生はブルーベリーよりストロベリーの方がお好きらしいの! びっくりしたわ」
「あはは、何そのオチ。それを聞いた時のアレクシアの驚愕する顔が見たかった」
「うっかり皆の前で笑ってしまいそうになったのだから!!」
相変わらずくだらない話をしながらアレクシアとのんびりとした時間を過ごしていると、少し疲れたルーカスがやってきた。
「テオ!! 聞いてくれ!! ……ア、ア、アレクシア!?」
「あ、ルーカス。話し合いは終わったのか?」
俺が声をかけると、硬い表情のルーカスを見てアレクシアが立ち上がった。
「ごきげんよう、ルーカス様」
「あ、ああ……アレクシアも元気そうでなによりだ」
ルーカスは、俺の隣のベンチに座った。
アレクシアと俺が同じベンチに座り、その隣にルーカスが座るという順番になった。
「……」
「……」
しかも、アレクシアもルーカスも何も言葉を発しなくなった。
俺はルーカスを見ながら尋ねた。
「ルーカス、どうかしたのか?」
ルーカスは「いや、なんでもない」と言った。
絶対なんでもないという顔ではないのに、かなり硬い表情だ。
(何なんだ??)
「すまない、テオとアレクシアは共同研究の話し合いの最中だったのか」
「いえ、もう終わったので問題ありません。な、アレクシア」
「え、ええ」
俺がアレクシアに尋ねるとアレクシアもうなずいた。
「……そうか」
「……」
「……」
そして再び沈黙が訪れた。
この言いようのない微妙な空気。
(この重苦しい空気に耐えられない!!)
話を振ろうとした時だった。予鈴が鳴って、アレクシアが立ち上がった。
「予鈴ですわ。それではルーカス様、テオドール。ごきげんよう」
アレクシアは立ち上がると、俺の分のランチボックスも重ねていたトレーを持った。
「あ、俺たち通り道だし片付ける。アレクシアは遠回りになるだろう?」
アレクシアは「ありがとう」と言って頭を下げて去って行った。
するとルーカスがジト目で俺を見た。
「テオ~~ここは私の癒しの場所なのに……なぜアレクシアに教えたのだ……」
「あ、教えたらマズかったのか? 悪い」
俺としてはただこの場所が空いたのでここにいただけで特に執着してはいなかったので、ルーカスがまさか癒しの場所として認定していたとは思わなかった。
「テオ、次は自習だろう? 私の話を聞いてくれ」
「はいはい、どうしたんだよ」
ルーカスはこれまでアレクシアが座っていた場所に座り直しながら言った。
「私としてはキャロルの意見はとても斬新で好感が持てるのだが、他の者は反対するのだ。私がキャロルを擁護していたら、皆私の顔色を見て何も言わなくなってしまって……キャロルが自分の考えを皆に押し付け始めている。キャロルを止めようとしても誰も何を言わなくなってしまって、結局キャロルの意見が通りそうになる」
どうやらルーカスの存在が軋轢を生んでいるようだった。
権力を持つとどうしても周りは一歩引いた態度になる。
トップダウン方式の世界ならそれで上手くいく。だが、今回のように皆の力を合わせて一つの物を作ろうという場合は、権力者は自分の立ち位置がいかに危ういものかと知る。
権力者が、一方に肩入れしてしまうと、他の有益な意見は潰される。結果、一方の意見だけが反映された結果になる。だからこそどこか歪みが生まれて数年後に問題が起こり再び同じ議題を議論することになる。
「ルーカス、それは試練だと思うぞ?」
「え?」
「これからルーカスは王になる。そうなれば、同じような構造が何度も出現する。ルーカス。よく考えろ、本当にルーカスが支持したのはキャロルの意見だったのか? キャロルという人物だったではないか?」
「……そんなの……キャロルの意見だ……」
「本当にそうか? そもそもなぜ皆で演劇を見に行くことなった? なぜこんなにも毎日集まっているだ? これほどまでに集まる意味があるのか?」
ルーカスが考え込んでしまった。
「もうさ、それぞれの意見を紙にでも書いて、その意見が誰かと関係なく皆で冷静に組み合わせていけばいんじゃないか?」
そう言った途端、ルーカスに抱きつかれた。
「ありがとう、テオ!!」
それはルーカスの頭をぐしゃぐしゃにしながら言った。
「いえいえ、王子様も大変ですね~~」
「そうだ、大変だ~~あ~~特に王族の人間関係!! 全ての関係が面倒だし、ややこしい!!」
「俺との関係は? 俺はルーカスといるの面倒でもないし、ややこしいとも思いませんよ」
「それだけが良好だ~~!! あ~~私にテオがいてよかったぁ~~」
「よかったですね~~。一つでも良好な人間関係があって」
「本当にな!!」
そして俺はルーカスを顔を見合わせて笑ったのだった。
俺としては今日のことは些細なことだったが、このことがこの国の王太子を大きく成長せさることに繋がるとはこの時はまだ誰も気づいていなかった。




