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3月10日の夜、浩一は空を見ていた。いつもはそんな事ないのに。今日も大阪の夜は静かだ。繁華街はいつものようににぎわっている。戦前に活気が徐々に戻ってきて嬉しいようだ。そういえば今日は東京大空襲から10年だ。その後、戦後を迎えて、東京はどうなったんだろうか? 復興しているんだろうか? この目で確かめたいな。
「どないしたん?」
理沙は振り向いた。浩一は驚いた。理沙が来ると思っていなかった。
「3月10日に、東京は大空襲に遭ったんやね」
「ああ」
理沙も知っている。夏休みの登校日の平和学習で知った。戦前に生まれたが、戦争の事はあまり知らない。東京大空襲も、大阪大空襲も知らない。
「絵本とかで見たんやけど、相当悲惨だったんやね」
「うん。もう戦争なんてこりごりやわ」
2人とも、図書室や図書館、書店で戦争関連の絵本を読んだ事がある。あまりにも衝撃的だったな。どうして人々は戦争をするんだろうとつくづく思う。
「そやね。日本って、これから復興していくんかな?」
「きっとそやで」
2人は願っていた。これから日本は戦争のない、平和な日々になっていくだろう。そして、復興していくだろう。その為には、戦争を起こさない事が大切だな。
「どんな日本になっていくんやろな」
「それはわからん。それを決めるのは、これからを生きる子供たちなのさ」
理沙は笑みを浮かべている。確かにそうだ。未来を決めるのは僕たちだ。そして、それだけではない。平和な日々を送っている世界中の人々なのだ。
「そうだね」
「もう戦争なんて起こしてはならない。戦争による破壊はもうこりごりや」
2人ともわかっていた。戦争なんて破壊や死しか想像しないものだと思っている。絶対に起こしてはならないと思っている。その願いは、世界中の人々に届くんだろうか?
「僕もそう思っとる!」
「おおきに」
浩一は思っている。東京はこれから、どんな風に発展していくんだろう。もうすぐ修学旅行で東京に行く。その様子をその目で確かめてくる。
「東京は、どうなっていくん?」
「わからんわ」
理沙も気になっている。そして、浩一同様、東京に住みたいと思っている。
「東京の移り変わりか、東京に住んでみてみたいわ」
「そやな」
浩一は東京の姿を思い浮かべた。東京って、どんな場所なんだろう。きっと、夢であふれているんだろうな。
「修学旅行で東京に行って、それを確かめてこよか」
「感想を待ってるで!」
理沙は笑みを浮かべている。きっと、素晴らしい感想を伝えてくれるだろうな。
「ああ。待っててや!」
ふと、浩一は思った。大阪大空襲は、どんな光景だったんだろう。絵本などででしか見た事がない。実際に体験した事がない。きっともっと大変だっただろうな。
「どないしたん?」
「大阪空襲の頃は、どんな感じやったんやろ」
理沙は思い浮かべた。だが、思い浮かばない。
「あの時も悲惨やったんだよ。日本が早く降伏すれば、こんな事にならなかったんかな?」
「そうかもしれんね。負けるとわかったら、降参すればええのに」
2人は思っていた。日本が早く降伏すればこんな事にならなかったのでは? 多くの犠牲者が出て、悲しむ人が少なくなってよかったのでは?
「やから、広島や長崎に原爆が落とされたんかな?」
「うーん・・・」
言われてみればそうだ。あの後、広島と長崎に原子爆弾を落とされた。もっと早く降伏していれば、こんな恐ろしい爆弾を落とされることはなかったのでは?
「なんで戦争でこんなに多くの人が死ななあかんだん?」
「そやね」
次に、浩一は特攻隊の事を思い浮かべた。これも平和学習で知った。片道分の燃料と大型爆弾を積んで、飛行機ごと体当たりをする部隊だ。そのほとんどが若者で、出撃して死んでいった若者がかわいそうでしょうがない。もっと生きたかっただろうな。また家族と会いたかっただろうな。
「特攻隊の人々がかわいそうでかわいそうで」
「その気持ち、よくわかるわ」
突然、理沙は浩一の肩を叩いた。理沙は浩一の想いがわかっているようだ。
「戦争は起きてほしないわ」
「うん」
こんな暗い話をして、申し訳ない気持ちだな。これから修学旅行で東京に行く予定なのに。
「暗い話をして、すまんね」
「いいよ。東京の移り変わりを、その目で見てきてちょうだい」
「わかった。見てくるよ」
理沙は浩一に期待していた。自分の目で、東京の移り変わりを見てくるよ。
「浩ちゃん・・・」
2人は振り向いた。そこにはハルがいる。どうしたんだろうか? 夜遅くまで起きていて、おかしいと思ったんだろうか?
「おばあちゃん、どないしたん?」
どうやら、ハルは戦争の事を話していたので、反応したようだ。だが、戦争の事はもう口に出さないようにしよう。負の歴史なのだから。
「いや、何もないて」
「そっか」
と、ハルは笑みを浮かべた。暗い話をしたので、明るい話をしようと思っているようだ。
「修学旅行、楽しんできてや」
「うん」
もうこんな時間だ。早く寝ないと。
「じゃあね、おやすみ」
「おやすみ」
ハルは部屋を後にして、ドアを閉めた。2人はその様子をじっと見ている。




