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それから、浩一は幸せに暮らしていた。徐々に浩一の表情に笑顔が戻ってきて、虐待のつらさを忘れてきているように見える。だが、毎晩うなされていて、まだまだあの日々の思い出から抜け出せないようだ。だが、徐々に慣れてくるだろう。そして、幸せな日々を送るだろう。
千尋はいつものように家事をしていた。ようやく普通の生活が送れるようになってきた。だが、辺りにはまだまだ戦争の爪痕が残っている。だが、それも直になくなるだろう。きっと平和な日々が待っているだろう。その日が来るまで頑張ろう。そして、平和な日々を過ごそう。
「千尋さん、これ読んで!」
千尋は振り向いた。そこには浩一がいる。浩一は絵本を持っている。雅と祖父の徳次郎は仕事に出かけている。ハルは街を歩いていて、帰ってこない。千尋しか読んでくれる人はいなかった。
「浩ちゃん、お母さんでええのよ」
だが、千尋は母と呼んでいいと言っている。本当の母じゃないのはわかっている。浩一は母と呼ぶことに戸惑っていた。だが、千尋は母と呼んでほしいようだ。ここで住んでいるのだから、私が育てているのだから、母でいいじゃないか。
「ありがとう」
と、そこに理沙もやって来た。理沙も絵本を持っている。これを読んでほしいようだ。
「お母さん、これ読んで!」
「ええよ」
千尋は浩一から先に読む事にした。先に頼んできた浩一が先だ。理沙は少し待つ事にしたが、浩一と一緒に本を読んでもらう事にした。それでも楽しい。だって、一緒の方が楽しいんだから。
千尋は優しい表情で朗読している。それを聞いていると、だんだん眠くなってくる。いつの間にか、2人とも寝てしまった。寝ているのを見て、千尋は嬉しそうだ。寝る子は育つと思っているからだ。だが、朗読しているときに寝てほしくないな。
読み終えた頃、2人は目を覚ました。どうやら朗読は終わったようだ。最後まで聞きたかったのにな。
「楽しかった?」
「うん」
だが、2人は楽しいと答えた。千尋の朗読を聞くだけでも、嬉しくなれる。そして、また聞きたいと思えてくる。どうしてだろう。母だからだろうか?
「もうこれからは何も怖がることはないで。楽しく過ごそ?」
「うん!」
浩一は安心した。もうこれで大丈夫だ。みんなと仲良く、幸せに過ごそう。
7月6日の事だ。この日、雅はラジオに耳を傾けていた。何事だろうか? 千尋は不思議に思っている。
「今日から日本国かいな」
雅によると、今日からこの国が大日本帝国から日本国になったという。こうなると、憲法も変わって来るんだろうか? どんな憲法になるんだろうか? みんなが平和になれるような憲法で合ったらいいな。もう戦争なんてこりごりだから。
「やけど、この国は日本だって事に変わりはあらへん」
「そやね!」
だが、日本という事に変わりはない。みんな、この国を日本と言っているのだから。
「これから平和な国になってく証拠や!」
「きっとそうであってほしいわね!」
2人は、これからの日本に期待していた。どんな日本になるのだろう。全くわからないけれど、平和な日々だったらいいな。
と、そこに浩一がやって来た。だが、2人は気づいていない。
「ママー!」
千尋はその声に気付いた。まさか、浩一がやって来るとは。浩一は絵本を持っている。また読んでほしいんだろうか?
「どうしたの、浩ちゃん」
「これ、読んで」
浩一は絵本を出した。また読んでほしいとは。この子は読書好きだな。まるで子供の頃の自分みたいだ。
「はいはい、わかったで」
その様子を見て、雅は笑みを浮かべた。読書が好きなのはいい事だ。いろんなのに興味を持って、目標ができるだろう。
「この子は絵本が好きな子やね」
「きっと賢い子に育つわ」
2人とも、浩一に未来に期待していた。親がいなかったり、虐待で大変な日々だったけど、これから平和な日々を送るだろう。
「そうであってほしいね」
「愛情をもって育てようや」
「うん」
と、そこに千沙がやって来た。絵本を読んでほしいという浩一の声に反応したと思われる。一緒に読みたいのだろう。
「私にも聞かせて!」
「ええよー」
千沙の後を追うように、理沙もやって来た。この子も読んでほしいようだ。
「私にも!」
「あらあら、結局みんなで読むのね」
結局みんなで読むようだ。どうして絵本は子供たちを引き付けるんだろう。全くわからないな。
千尋は絵本を朗読し始めた。その声を聞いて、徳次郎がやって来た。また朗読しているとは。あの3人の子供は本当に絵本が好きだな。
「みんなで読んどるわ」
ほどなくして、ハルもやって来た。結局、みんな集まって来たようだ。とても幸せそうな時間だ。
「みんなで絵本を読んでいるみたいやね」
雅はその様子を見て、笑みを浮かべていた。みんなきっと、いい大人になるだろうな。どんな大人になるだろう。全くわからないけれど、いい道を歩んでほしいな。そして、国の平和のためになるようなことをしてほしいな。
「みんないい大人になるやろね」
「そやったらええね」
ハルも嬉しそうだ。あと何年生きられるかわからないけれど、きっといい未来が待っているだろうな。