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あなたと生きて  作者: 口羽龍
第1巻 大阪編  第1章 一緒に住む
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8

 それから、浩一は幸せに暮らしていた。徐々に浩一の表情に笑顔が戻ってきて、虐待のつらさを忘れてきているように見える。だが、毎晩うなされていて、まだまだあの日々の思い出から抜け出せないようだ。だが、徐々に慣れてくるだろう。そして、幸せな日々を送るだろう。


 千尋はいつものように家事をしていた。ようやく普通の生活が送れるようになってきた。だが、辺りにはまだまだ戦争の爪痕が残っている。だが、それも直になくなるだろう。きっと平和な日々が待っているだろう。その日が来るまで頑張ろう。そして、平和な日々を過ごそう。


「千尋さん、これ読んで!」


 千尋は振り向いた。そこには浩一がいる。浩一は絵本を持っている。雅と祖父の徳次郎とくじろうは仕事に出かけている。ハルは街を歩いていて、帰ってこない。千尋しか読んでくれる人はいなかった。


「浩ちゃん、お母さんでええのよ」


 だが、千尋は母と呼んでいいと言っている。本当の母じゃないのはわかっている。浩一は母と呼ぶことに戸惑っていた。だが、千尋は母と呼んでほしいようだ。ここで住んでいるのだから、私が育てているのだから、母でいいじゃないか。


「ありがとう」


 と、そこに理沙もやって来た。理沙も絵本を持っている。これを読んでほしいようだ。


「お母さん、これ読んで!」

「ええよ」


 千尋は浩一から先に読む事にした。先に頼んできた浩一が先だ。理沙は少し待つ事にしたが、浩一と一緒に本を読んでもらう事にした。それでも楽しい。だって、一緒の方が楽しいんだから。


 千尋は優しい表情で朗読している。それを聞いていると、だんだん眠くなってくる。いつの間にか、2人とも寝てしまった。寝ているのを見て、千尋は嬉しそうだ。寝る子は育つと思っているからだ。だが、朗読しているときに寝てほしくないな。


 読み終えた頃、2人は目を覚ました。どうやら朗読は終わったようだ。最後まで聞きたかったのにな。


「楽しかった?」

「うん」


 だが、2人は楽しいと答えた。千尋の朗読を聞くだけでも、嬉しくなれる。そして、また聞きたいと思えてくる。どうしてだろう。母だからだろうか?


「もうこれからは何も怖がることはないで。楽しく過ごそ?」

「うん!」


 浩一は安心した。もうこれで大丈夫だ。みんなと仲良く、幸せに過ごそう。




 7月6日の事だ。この日、雅はラジオに耳を傾けていた。何事だろうか? 千尋は不思議に思っている。


「今日から日本国かいな」


 雅によると、今日からこの国が大日本帝国から日本国になったという。こうなると、憲法も変わって来るんだろうか? どんな憲法になるんだろうか? みんなが平和になれるような憲法で合ったらいいな。もう戦争なんてこりごりだから。


「やけど、この国は日本だって事に変わりはあらへん」

「そやね!」


 だが、日本という事に変わりはない。みんな、この国を日本と言っているのだから。


「これから平和な国になってく証拠や!」

「きっとそうであってほしいわね!」


 2人は、これからの日本に期待していた。どんな日本になるのだろう。全くわからないけれど、平和な日々だったらいいな。


 と、そこに浩一がやって来た。だが、2人は気づいていない。


「ママー!」


 千尋はその声に気付いた。まさか、浩一がやって来るとは。浩一は絵本を持っている。また読んでほしいんだろうか?


「どうしたの、浩ちゃん」

「これ、読んで」


 浩一は絵本を出した。また読んでほしいとは。この子は読書好きだな。まるで子供の頃の自分みたいだ。


「はいはい、わかったで」


 その様子を見て、雅は笑みを浮かべた。読書が好きなのはいい事だ。いろんなのに興味を持って、目標ができるだろう。


「この子は絵本が好きな子やね」

「きっと賢い子に育つわ」


 2人とも、浩一に未来に期待していた。親がいなかったり、虐待で大変な日々だったけど、これから平和な日々を送るだろう。


「そうであってほしいね」

「愛情をもって育てようや」

「うん」


 と、そこに千沙がやって来た。絵本を読んでほしいという浩一の声に反応したと思われる。一緒に読みたいのだろう。


「私にも聞かせて!」

「ええよー」


 千沙の後を追うように、理沙もやって来た。この子も読んでほしいようだ。


「私にも!」

「あらあら、結局みんなで読むのね」


 結局みんなで読むようだ。どうして絵本は子供たちを引き付けるんだろう。全くわからないな。


 千尋は絵本を朗読し始めた。その声を聞いて、徳次郎がやって来た。また朗読しているとは。あの3人の子供は本当に絵本が好きだな。


「みんなで読んどるわ」


 ほどなくして、ハルもやって来た。結局、みんな集まって来たようだ。とても幸せそうな時間だ。


「みんなで絵本を読んでいるみたいやね」


 雅はその様子を見て、笑みを浮かべていた。みんなきっと、いい大人になるだろうな。どんな大人になるだろう。全くわからないけれど、いい道を歩んでほしいな。そして、国の平和のためになるようなことをしてほしいな。


「みんないい大人になるやろね」

「そやったらええね」


 ハルも嬉しそうだ。あと何年生きられるかわからないけれど、きっといい未来が待っているだろうな。

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