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5月になり、ゴールデンウィークが終わった。結局、浩一や千沙、理沙はどこにも行かなかった。野球部を見学しに来た子の中には、入らなかった子もいたが、入った人の方が多かった。徐々に厳しい練習に慣れてきて、主将や顧問の先生も喜ばしく思っている。
浩一と中村は1年生を見ている。どんな子が入ったのかジロジロ見ている。どの子もかわいいな。彼らは将来、どんな子になるんだろう。思いやりのある子であってほしいな。
「この子たちが新しく入った子なん?」
「そうみたいやね」
浩一は笑みを浮かべた。みんな頑張っていてほほえましい。野球の楽しさをみんな知ってほしいな。そしてこの中から、全国大会に出場する高校球児や、プロ野球選手が生まれてほしいな。そんな子が出たら、その子のファンになりたいな。
「これから頑張ってほしいね」
「うん」
と、浩一はある子が気になった。柴田博美だ。博美は理沙の同級生で、理沙とはとても仲が良い。
「どないしたん?」
浩一は横を向いた。声をかけたのは中村だ。中村は思っていた。どうして浩一は博美が気になっているんだろうか? この子が好きなんだろうか?
「なんかこの子気になるわ」
「どないしたん?」
どうして浩一は、博美が気になっているんだろうか? かわいいからだろうか?
「顔に傷があるさかい」
中村は博美の顔を見た。確かにそうだ。傷がある。どうしてこんなに傷があるんだろう。ケガでもしているんだろうか? わざとやったとは思えない。あちこちにある。
「そういえば。やけど、なんで?」
浩一は思っていた。顔中に傷があるって、自分が幼少期に受けた虐待のようだ。浩一は嫌な予感がした。ひょっとして、博美は虐待を受けているんじゃないかな?
「いや、嫌な予感がしたねん」
「何だよ、言ってみてや」
中村は気になった。何か嫌な予感とは、何なのか。正直に行ってみてよ。部活の仲間じゃないか。
「まさか、虐待されとるって事、ないよね」
その可能性はあるが、まだまだわからない。でも、どうしてそう思ったんだろうか? もしかして、浩一は虐待を受けた事があるから、そう思っているんだろうか?
「そんなわけないやろ? でも、そうじゃないと言い切れんな」
中村は考え込んでいた。確かに気になる。この子がどんな事をやられているのか、とても気になるな。この子の家族を少し調べたいな。
「まぁ、そう思っただけや」
「そっか。浩ちゃんはそんな経験をしたもんな」
中村は納得している。きっと被害者だから、浩一はその気持ちがわかるんだろうな。
「うん」
浩一は博美に近寄った。浩一が近づいているのを、博美は知らない。黙々と練習していた。
「ねぇ」
浩一の声で、博美は横を向いた。まさか、浩一から話しかけられると思わなかった。
「坂井先輩、どないしたんですか?」
博美は呆然としている。突然話しかけられて、びっくりしているようだ。
「その傷、気になって」
博美は顔の傷を気にした。だが、博美は何ともないかのような態度だ。明らかにおかしい。何かを隠しているようだ。だが、浩一にはその理由がわからない。
「大丈夫やて。気にせんといて」
「そっか」
浩一は去っていった。やはりその理由がわからなかった。浩一は下を向いている。
「どやった?」
浩一は前を向いた。聞いてきたのは中村だ。何か手掛かりになる事はわかったかな?
「全くわからんかったわ」
「そっか。でも怪しいわ」
中村はため息をついた。結局わからなかったのか。知りたかったのにな。その原因を知りたいな。そして、博美の悩みを解決したいな。
「うん」
それに、浩一はある事が気になった。いつもいつも、何かにおびえているような気がする。一体、博美は何におびえているのか。その理由を教えてほしいな。
「あの子、何かにおびえとるみたいやわ」
「ああ」
中村も納得していた。言われてみればそうだ。何かにおびえているような表情だ。これは何か悩み事があるというサインだ。何とかして、その悩みを解決したいな。
「どないしたんやろ。心配せずに話したらええのに」
中村は笑みを浮かべた。浩一は困っている人がいると。放っておけない性格だ。1人1人を大切にして、悩んでいる人がいれば、何とかしてやりたいと思っている。その気持ちは、先生からも評価されていて、ほめられている。
「そうやよね。本当に浩ちゃんは困った人を放っておけない性格やよなー」
「うん」
浩一は笑みを浮かべた。中村に褒められて、嬉しいようだ。じゃあ、もっと誰かのために頑張っちゃおうかな?
「まぁ、今日はもう何も言わんようにしとこ。やけど、目に留めておこうや」
「そやね」
気になる事はいっぱいあるけど、また明日、博美を観察してみよう。何かわかるかもしれないから。




