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だが、その頃から徳次郎の様子がおかしくなってきた。周りの視線が気になるという。徳次郎は全く悪くないのに、雅や千尋がとんでもない事をしたせいで、自分が大変な事になっている。それに、浩一が死んでしまわないか不安だという。徳次郎は何も悪くないのに、どうしてだろう。もう両親はこの家にいないのに、浩一はもういじめられていないのに。
「あなた、どうしたの?」
「もう外に出たないわ」
ハルは徳次郎を心配していた。まさかこんな事になるとは。
最近その様子を知った浩一は2階で考えていた。自分がいじめられなければ、こんな事にならなかったのに。どうして自分はこんな人生になってしまったんだろう。どんなに考えても後悔ばかりだ。そう思うと、本当に生きていていいのかと思ってしまう。
「どうしたの?」
「だって、みんなの視線が怖いねん」
徳次郎はおびえて、部屋から出ようとしない。千沙も理沙も心配している。本当に徳次郎は大丈夫だろうか? このまま家から出ずに人生を終えるんだろうか? そんな人生になってほしくない。もっと社交的に生きてほしい。あの頃の徳次郎に戻ってよ。
「その気持ち、僕もわかるよ」
千沙と理沙に気付き、浩一は振り向いた。まさか浩一も1階にやって来たとは。それほど徳次郎が気になるんだな。
「浩ちゃん・・・」
「苦しかったやろ?」
理沙は浩一の頭を撫でた。とても優しい。本当の家族ではないのに、まるで家族のようだ。一緒に暮らしているからだろう。
「うん」
浩一は思っている。いじめだけでどうして殺されなければならないんだろうか? 殺さなくても、解決する方法って、あるんじゃないかな?
「どうして殺そうとするんかな?」
「そやね」
理沙にもその気持ちがわかった。だけど、答えが見つからない。彼らは全く反省せずに浩一をいじめていた。何度注意してもやめないのなら、どうすればいいのかわからない。
「犠牲を生まずにいじめを解決する方法って、ないんかな?」
「あるはずやろ! 反省しない人々がダメなんやと思う。本当に大切なのは思いやりやと思う」
浩一は強い口調だ。まるで本物の教員のようだ。その様子に、千沙と理沙は心打たれた。浩一はいじめられている子供たちを何とかしたいという気持ちでいっぱいなんだな。
「そやそや!」
「とはいえ、よかったやないか。もういじめる子はおらんのやよ」
ハルの言葉に、浩一は戸惑っている。本当にそれでよかったんだろうか? 犠牲にならなければいけなかったんだろうか?
「そやけど、何かを犠牲にしたん辛いわ」
「そやね」
3人はとても徳次郎を心配していた。この先、徳次郎はどうやって生きるんだろう。このまま、家の中に困ったまま一生を終えるんじゃないかな? 4人とも不安になっていた。
その夜の事だ。浩一は夜空を見ていた。浩一は自分を救ってくれた重三の事が気がかりだ。重三は今頃、何を考えているんだろう。家族の事だろうか? それとも、先日救った浩一の事だろうか? もし、浩一を考えていたら、とても嬉しいな。僕がどんな日々を送っているのか、どれだけ離れていても、見守っていてほしいな。
「どないしたん?」
浩一は振り向いた。そこには理沙がいる。
「ただ、星空を見とるだけや」
「ふーん・・・」
理沙は浩一の横に立って、浩一と一緒に星空を見始めた。重三が忘れられないんだな。命の恩人だと思っているんだろうな。ふと、理沙は思った。また会いたいと思っているんだろうか? もう一度感謝したいと思っているんだろうか?
「あのおじいちゃんに感謝しとるん?」
「もちろんや!」
やっぱり浩一は、重三に感謝しているようだ。重三は浩一の命の恩人だもんね。もし、山奥で助けてくれなければ、浩一は死んでいたかもしれないのに。命をつないでくれた重三には感謝だ。
「そっか・・・。あのおじいちゃん、元気にしとんのかな?」
「どやろ」
そして、浩一は思った。また重三に会いたいな。そして、あの時自殺しようとしたことを謝罪したいな。そして、1日だけでもいいから一緒に暮らしたいな。これまでの事、これからの事を語り合い、お互い楽しい一夜を過ごしたいな。
「また会ってみたいわ」
「そやね」
浩一は街の夜景を見た。だが、重三の家は見えない。ここから遠く離れた所にあるからだ。重三は普段、どんな生活を送っているんだろう。僕を見つけた時、どんな気持ちだったんだろう。もっと生きてほしいと思っているんだろうか?
「今頃、どないしとるんやろ。僕の事、思い出しとんのかな?」
「きっと思い出してるやろな」
理沙は思っている。きっと浩一の事を思い出していると思うな。拾った時、あんなに衰弱していた浩一が、こんなに元気になった。その姿を見たら、重三は喜ぶだろうな。早く浩一と再会させたいな。
「だったらええね」
そろそろ寝る時間だ。明日からまた浩一は中学校に登校する。十分からだかが威服してきたからだ。だが、浩一は少し不安だ。またいじめられないかな? 遺書を残していなくなったけれど、死ねずに帰ってきたからだ。
「そろそろ寝よか。おやすみ」
「おやすみ」
2人は窓を閉め、理沙は自分の部屋に向かった。浩一は電気を消し、寝入った。明日からまた中学校だ。不安だけど、一生懸命頑張らないと。




