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その頃、松岡家は静まり返っていた。徳次郎とハルは信じていた。浩一はまた帰ってくると。だが、日に日に本当に帰ってくるのかと疑問に思い始めてきた。近所の人の中にはもう死んだんじゃないか、あきらめようと思っている人もいるそうだ。それでも2人は信じていた。
突然、電話が鳴った。ハルは驚いた。誰からだろう。もしかして、浩一が見つかったという知らせだろうか?
「もしもし」
その声は重三だ。現在、浩一は重三の家で保護している。何日も食べていないせいか、とても痩せていて、衰弱している。妻に頼んで色々食べさせているが、まだまだ回復しないという。
「えっ、浩ちゃんらしき子が見つかったん?」
それを聞いて、2人は驚いた。浩一が生きていたからだ。だが、複雑な気持ちだ。雅と千尋が逮捕されたからだ。それを知ったら、浩一はどういう反応をするだろう。自分のために、こんな事をするなんてと思うだろう。
「うん。どうか見てほしいって。かなり衰弱しとるよ」
「わかりました」
電話が切れた。ハルは受話器を置いた。徳次郎はすぐに立ち上がった。これから浩一が保護されている場所に向かおう。ただ、ハルは孫たちの面倒を見なければならないので、行く事ができない。徳次郎だけで向かう。
徳次郎は路面電車に乗り、そこを目指した。だが、その場所へは最寄りの駅から1時間以上歩いた所にあり、とても大変だ。だけど、浩一に会うためにも行かないと。徳次郎はそこへ向かっている間、浩一の事を考えていた。浩一は小学校に入学した時からいじめられていた。とてもつらい日々を送ってきたんだな。だけど自分も、戦争でつらい日々を送ってきた。お互い様じゃないか。共に乗り越えていこう。
徳次郎は路面電車などを乗り継いで、最寄りの駅にやって来た。だが、そこから浩一を保護している家までは、1時間以上歩かなければならない。そう思うと、徳次郎は肩を落とした。ここからが大変な道のりだ。浩一はここまで来たのか。すごい脚力だな。部活で身についたんだろうか?
1時間ぐらい歩いていると、農村が見えてきた。ここに保護されていると聞く。もうすぐ浩一と再会できる。そう思うと、気持ちが高ぶってくる。だが、雅と千尋が逮捕されたと聞いて、どんな反応をするんだろうか? それとも、もう知ったんだろうか?
しばらく歩いていると、宮本家に着いた。かやぶき屋根の古めかしい家だ。浩一らしき青年はここで保護しているそうだ。本当に浩一だろうか? 自分の目で確かめなければ。
徳次郎は家に入った。入ると、重三とその妻がお辞儀をした。徳次郎はドキドキしている。もうすぐ会えるかもしれないからだ。
徳次郎はリビングに入った。そこには、浩一がいる。やはり浩一だ。浩一の顔を見て、徳次郎はほっとした。浩一が死んでいなかったからだ。
「この子や」
徳次郎はすぐに家の受話器を取り、ハルに電話をかけた。今頃、千沙も理沙も帰っているはずだ。みんなにも、生きていた事を伝えないと。
その頃、ハルは祈りを込めていた。どうか見つかった子供が、浩一でありますように。もしそうなら、自分の両手で抱きしめたい。そしてまた、一緒に食事がしたい。
突然、電話が鳴った。おそらく、徳次郎からだろう。ハルは緊張した。そして、受話器を取った。
「ま、間違いない! 坂井浩一くんや!」
それを聞いて、ハルはほっとした。どうやら本当に浩一だったようだ。千沙と理沙はハルの表情を見て、浩一が見つかったんだとわかった。
ハルは受話器を置き、すぐにその現場に向かった。早く浩一の元に行かないと。
ハルも山本家にやって来た。もうすぐ浩一と再会できる。そう思うと、ハルの気持ちは高ぶった。だが、不安もある。雅と千尋が逮捕された事だ。
ハルがリビングにやって来ると、そこには浩一がいる。衰弱しているけれど、しっかりと生きている。
「理沙ちゃん、ちーちゃん・・・」
ハルは浩一を撫でた。浩一はじっと見ている。
「浩ちゃん! 生きとってよかった!」
千沙と理沙も喜んでいる。だが、両親が逮捕されたので少し複雑だ。
「浩ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫。迷惑かけてねごめんね」
浩一は弱々しい声だ。衰弱しているようだ。だが、しっかり食べれば、また元気になるだろう。回復したら、また一緒に登校しよう。
「ええんやよ」
「おじちゃんとおばちゃん、いじめた奴らとその家族を殺して逮捕されたんやて」
それを知って、浩一は驚いた。そんな事をしなくてもいいのに。反省しないから腹が立ったんだろうけど、ここまでするかな? それはやりすぎじゃないか。
「そんな・・・」
「本当の事や」
徳次郎は真剣な表情になった。放火殺人を繰り返した雅と千尋が許せないようだ。
「そんな事せんでええのに・・・」
「ワテもそう思うわ」
浩一もそう思っている。悪い事はやっちゃダメなんだな。
「これからおばあちゃんが家事をやるけど、早く家事ができるようにならんとね」
「うん」
その1週間後、浩一は再び松岡家に帰ってきたという。まだまだ衰弱していて、大変だけど、あと1週間すれば元に戻るだろう。その時は一緒に登校しよう。




