表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたと生きて  作者: 口羽龍
第4章 中学校(上)
82/110

11

 その頃、松岡家は静まり返っていた。徳次郎とハルは信じていた。浩一はまた帰ってくると。だが、日に日に本当に帰ってくるのかと疑問に思い始めてきた。近所の人の中にはもう死んだんじゃないか、あきらめようと思っている人もいるそうだ。それでも2人は信じていた。


 突然、電話が鳴った。ハルは驚いた。誰からだろう。もしかして、浩一が見つかったという知らせだろうか?


「もしもし」


 その声は重三だ。現在、浩一は重三の家で保護している。何日も食べていないせいか、とても痩せていて、衰弱している。妻に頼んで色々食べさせているが、まだまだ回復しないという。


「えっ、浩ちゃんらしき子が見つかったん?」


 それを聞いて、2人は驚いた。浩一が生きていたからだ。だが、複雑な気持ちだ。雅と千尋が逮捕されたからだ。それを知ったら、浩一はどういう反応をするだろう。自分のために、こんな事をするなんてと思うだろう。


「うん。どうか見てほしいって。かなり衰弱しとるよ」

「わかりました」


 電話が切れた。ハルは受話器を置いた。徳次郎はすぐに立ち上がった。これから浩一が保護されている場所に向かおう。ただ、ハルは孫たちの面倒を見なければならないので、行く事ができない。徳次郎だけで向かう。


 徳次郎は路面電車に乗り、そこを目指した。だが、その場所へは最寄りの駅から1時間以上歩いた所にあり、とても大変だ。だけど、浩一に会うためにも行かないと。徳次郎はそこへ向かっている間、浩一の事を考えていた。浩一は小学校に入学した時からいじめられていた。とてもつらい日々を送ってきたんだな。だけど自分も、戦争でつらい日々を送ってきた。お互い様じゃないか。共に乗り越えていこう。


 徳次郎は路面電車などを乗り継いで、最寄りの駅にやって来た。だが、そこから浩一を保護している家までは、1時間以上歩かなければならない。そう思うと、徳次郎は肩を落とした。ここからが大変な道のりだ。浩一はここまで来たのか。すごい脚力だな。部活で身についたんだろうか?


 1時間ぐらい歩いていると、農村が見えてきた。ここに保護されていると聞く。もうすぐ浩一と再会できる。そう思うと、気持ちが高ぶってくる。だが、雅と千尋が逮捕されたと聞いて、どんな反応をするんだろうか? それとも、もう知ったんだろうか?


 しばらく歩いていると、宮本家に着いた。かやぶき屋根の古めかしい家だ。浩一らしき青年はここで保護しているそうだ。本当に浩一だろうか? 自分の目で確かめなければ。


 徳次郎は家に入った。入ると、重三とその妻がお辞儀をした。徳次郎はドキドキしている。もうすぐ会えるかもしれないからだ。


 徳次郎はリビングに入った。そこには、浩一がいる。やはり浩一だ。浩一の顔を見て、徳次郎はほっとした。浩一が死んでいなかったからだ。


「この子や」


 徳次郎はすぐに家の受話器を取り、ハルに電話をかけた。今頃、千沙も理沙も帰っているはずだ。みんなにも、生きていた事を伝えないと。


 その頃、ハルは祈りを込めていた。どうか見つかった子供が、浩一でありますように。もしそうなら、自分の両手で抱きしめたい。そしてまた、一緒に食事がしたい。


 突然、電話が鳴った。おそらく、徳次郎からだろう。ハルは緊張した。そして、受話器を取った。


「ま、間違いない! 坂井浩一くんや!」


 それを聞いて、ハルはほっとした。どうやら本当に浩一だったようだ。千沙と理沙はハルの表情を見て、浩一が見つかったんだとわかった。


 ハルは受話器を置き、すぐにその現場に向かった。早く浩一の元に行かないと。


 ハルも山本家にやって来た。もうすぐ浩一と再会できる。そう思うと、ハルの気持ちは高ぶった。だが、不安もある。雅と千尋が逮捕された事だ。


 ハルがリビングにやって来ると、そこには浩一がいる。衰弱しているけれど、しっかりと生きている。


「理沙ちゃん、ちーちゃん・・・」


 ハルは浩一を撫でた。浩一はじっと見ている。


「浩ちゃん! 生きとってよかった!」


 千沙と理沙も喜んでいる。だが、両親が逮捕されたので少し複雑だ。


「浩ちゃん、大丈夫?」

「大丈夫。迷惑かけてねごめんね」


 浩一は弱々しい声だ。衰弱しているようだ。だが、しっかり食べれば、また元気になるだろう。回復したら、また一緒に登校しよう。


「ええんやよ」

「おじちゃんとおばちゃん、いじめた奴らとその家族を殺して逮捕されたんやて」


 それを知って、浩一は驚いた。そんな事をしなくてもいいのに。反省しないから腹が立ったんだろうけど、ここまでするかな? それはやりすぎじゃないか。


「そんな・・・」

「本当の事や」


 徳次郎は真剣な表情になった。放火殺人を繰り返した雅と千尋が許せないようだ。


「そんな事せんでええのに・・・」

「ワテもそう思うわ」


 浩一もそう思っている。悪い事はやっちゃダメなんだな。


「これからおばあちゃんが家事をやるけど、早く家事ができるようにならんとね」

「うん」


 その1週間後、浩一は再び松岡家に帰ってきたという。まだまだ衰弱していて、大変だけど、あと1週間すれば元に戻るだろう。その時は一緒に登校しよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ