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昼下がり、雅は大志田家の周辺を歩いていた。目的はただ1つ、大志田家で何が起こっているのか、浩一に対する虐待だったら警察に言わなければならない。あのアザはいかにも虐待が原因だ。浩一を何としても救いたい。そんな思いが雅を突き動かしていた。
そしてもう1人、探っている人がいた。それはこの近所に住む山本だ。山本も浩一が気になっていた。浩一は大丈夫だろうか? 不安でしょうがない。山本の気持ちも一緒だ。
雅は家に戻ってきた。まだどういう事が起きているのか、わからない。今度は家の中から見よう。塀の中からでは見えない何かがわかるかもしれない。
10分ぐらい見ていた頃、雅はある光景を見た。それは、茂人や多鶴子が浩一を殴っていた事だ。ようやくその原因がわかった。早く山本に言わないと。そして、警察に言わないと。
「どやった?」
雅は振り向いた。そこには千尋がいる。千尋も家の様子が気になっていた。
「殴られてたわ」
それを聞いて、千尋は驚いた。やっぱり浩一は、茂人と多鶴子に虐待されていたのか。これで、浩一のアザの原因がわかった。早く何とかしないと。
「やっぱり虐待されてんのやな」
雅は下を向いた。どうして茂人と多鶴子はそんな事をするんだろう。同じ人間なのに。協力して生きていかなければならないのに。平和に生きていかなければならないのに。
「早く通報せんと」
千尋は思った。これは早く通報しないと、浩一の命が危ない。
「ああ」
と、浩一が家から出てきた。浩一は元気がなさそうだ。それを見て、雅は2階から1階に降りた。浩一を励まさないと。
浩一は下を向いていた。自分は同じ人間なのに、本当の子供じゃないという理由で殴られている。もうこんな生活、嫌だ。早く逃げだしたい。心の中でそう思っていた。だが、やろうと思う気が出ない。殴られているからだ。
松岡家の入り口の前を通りかかった時、雅がやって来た。だが、浩一はそれに気づいていない。下を向いていて、気づく気力もないようだ。
「浩ちゃん、本当に大丈夫なん?」
突然、誰かが声をかけた。その声に気付いて、浩一は頭を上げた。雅だ。心配してくれる人がいるとは。この人は優しいな。この人の家族なら、一緒にいたいな。でも、そんなのかなわないもんね。
浩一は元気なく、向こうの公園に歩いて行った。その後姿を、雅は不安そうに見ている。この子を何とかしないと。早く警察に言わないと。
翌日、茂人と多鶴子は周辺の騒がしさで目を覚ました。何が起きたんだろう。全くわからない。2人は辺りを見渡した。だが、誰もいない。外だろうか? 多鶴子はカーテンを開けた。そこには大量の野次がいて、警察の姿がある。何があったんだろうか? まさか、自分たちが虐待していたことがばれたんだろうか? 彼らを見て、2人は慌てた。どうしよう。戸惑っていた。
ほどなくして、警察が入ってきた。もう逃げられない。どうしよう。2人はうずくまった。だが、浩一は騒然とした雰囲気を気にせず、寝ていた。今日はいい1日になるようにと願いながら。
警察は2階にいた茂人と多鶴子を見つけ、逮捕した。見ていた野次の中には、周辺の住民が多くいた。その中には、雅や千尋もいた。
数分後、警察が家から出てきた。2人は手錠をかけられている。これから警察に連行されるようだ。雅と千尋は2人を細い目で見ている。あまりにもひどい事をやっていたからだ。
「逮捕されたって、本当?」
雅は横を向いた。そこには山本がいる。山本は今さっきまで寝ていて、パジャマを着ていた。騒然とした朝で起きて、現場にやって来た。
「うん」
山本は思った。浩一はこれから誰に世話をしてもらうんだろうか? ひょっとして、松岡家だろうか? それとも、また別の家族だろうか?
「浩一くん、今日から私たちが世話をするね」
どうやら、浩一は松岡家の世話になるようだ。浩一はどうなるのか不安になっていたけれど、これで一安心だ。これからは松岡家で幸せに暮らす事を願いたいな。
「本当?」
「うん」
警察がいなくなり、大志田家は静かになった。浩一は今頃、どうしているんだろう。気になった雅は、家に入った。大志田家には入った事がない。どこに浩一がいるのかわからない。
雅は2階にやって来た。ここに浩一はいるんだろうか? いくつかの部屋に入り、浩一を探していた。だが、なかなか浩一は見つからない。浩一はどこに行ったんだろうか?
一番奥の部屋に入った。そこには小さなベッドがある。そのベッドで、浩一は寝ている。幸せそうな表情だ。2人はどこに行ったんだろうか? わからないけれど、もう2人はいないんだろうか? だったらいいな。
「浩ちゃん、これからよろしくね」
雅の一言で、浩一は目を覚ました。だが、そこには茂人と多鶴子ではなく、雅がいる。
「うん!」
「もう怖がるものはないからな」
雅は浩一の頭を撫でた。浩一は喜んだ。どうやら、もう殴られる事はないようだ。
「よかったね」
と、そこに千沙と理沙がやって来た。浩一が心配になってここにやって来たようだ。
「私、松岡理沙。よろしくね」
「私、松岡千沙。よろしくね」
彼らを見て、浩一は喜んだ。そして、2人はもういないと確信した。これで安心して生活できる。これから隣の家で一緒になるのなら、とても嬉しいな。
「これから仲良くしようや」
「うん」
そしてこの日から、浩一は松岡家でお世話になる事になった。