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そしてまた夜がやって来た。今日は井川孝之の家だ。こいつは野球部の先輩で、親のいない浩一にひどい事を言いまくっていたと聞く。こいつも死んで地獄に行かなければならないだろう。どんな事になってでも、自分たちが死刑になって地獄に行ってでも、浩一の無念を晴らすんだ。それが浩一への最後のプレゼントなんだ。
「よし、今日も行くで!」
「ああ」
雅と千尋はまた家を出発した。その時、ハルはじっと窓から見ていた。どうして毎晩、外に出るんだろう。浩一を失ったつらさを紛らわすためだと言っているけれど、もっと別の理由があるんじゃないかな? もしあるとしたら、あの放火犯が2人かもしれないと思えてくる。もし放火犯なら、知らせなければならない。
雅と千尋は狭い路地を進んでいく。とても暗くて、静かだ。それ以上に、誰かが歩いていないか、警察が追いかけてこないか気を付けないと。もし捕まったら、浩一の無念を晴らせないままになるだろう。何が何でも捕まりたくない。
問題の家にやって来た。ここも松岡家に似ている。この家も2階に寝室がある。階段付近に火をつけて、逃げよう。そして、早く逃げよう。ここはそこそこ距離があるけれど、放火の後ですぐに帰ってくると、かえって怪しまれるだろう。今回も朝に帰ってくる事にしよう。
井川家の玄関も開いていた。みんな寝ているのだろう。暗くて静かだ。今回は放火殺人にしよう。2人は2階に向かった。
2階には家族全員が寝る寝室があって、そこに家族3人全員が寝ている。井川家は今週、浩一の事で大騒ぎになっていた。父はクビになりそうになるし、母は嫌な噂を言われ続けていた。孝之は怒られてばかりで、つらい日々を送っているという。だが、もっとつらい事にさせてやろう。それは、家族全員が放火殺人に遭う事だ。
「誰や!」
孝之の父が飛び起きた瞬間、雅は包丁を振り下ろした。孝之の父は頭を刺されて即死だ。
「何するんや!」
孝之の母も起きた。だが、千尋に腹を刺された。孝之の母は大量出血している。
「よくも浩ちゃんを!」
母と一緒に飛び起きた孝之だが、雅と千尋に囲まれた。どうしよう。絶体絶命だ。
「すまん、すまん! やからやめて!」
だが、雅はとても怖い表情だ。許さないと言っているようだ。
「死んで償ってもらおやないか!」
雅は包丁で孝之の頭を刺した。
「うっ・・・」
孝之はすぐに意識を失い、死んだ。
「よし、放火して逃げるで!」
千尋は丸めた新聞紙をいくつも並べた。そして、雅はマッチで火をつけた。瞬く間に火は燃え広がる。それを見て、雅と千尋は歩きだした。もし走り出したら、怪しまれるだろう。普通に歩いているように見せれば、2人がやったとわからないだろう。
そして2人はいつものように夜の大阪を歩いていた。夜の大阪はすっかり静まり返っていて、夜の騒然とした雰囲気がまるで嘘のようだ。浩一はそんな夜景を見れないまま、死んでしまっただろう。無念だ。その無念を晴らすために、いじめた奴らの家を焼いている。
それからしばらく経って、消防隊がやって来た。だが手遅れで、井川家は全焼し、周囲の民家にも燃え移っている。近所の人々は驚き、また放火かいなと驚いた。ここ最近、放火や放火殺人が相次いでいるけど、まさかここでも起きるとは。誰がやっているんだろうか? 早く捕まってほしいな。どうしてこんなに放火や殺人を繰り返すんだろうか? 焼かれた家の共通点って、何だろう。一部の人々は、そう思い始めていた。
朝、いつものようにハルはラジオを聴いていた。今日もまた放火殺人の事だ。もはや、朝のニュースのトップは放火殺人がトップになりつつある。この事件がどれだけ衝撃的なのかがわかる。
「昨夜、市内の住宅で、またまた放火殺人事件がありました」
と、後ろには理沙がいる。どうしたんだろうか? その事件で何か言いたい事があるんだろうか?
「理沙、どないしたん?」
「浩ちゃんをいじめていた子達の家や」
それを聞いて、ハルは驚いた。それは本当なのか? もしそうなら、事件の重要な手掛かりになるかもしれないぞ。
「な、何だって?」
「じゃあ、放火殺人を犯したのは、雅と千尋?」
徳次郎も驚いた。もしそうなら、警察に通報しないと。
「そんなわけないと言いたいけど、否定できへんな」
だが、理沙は両親はやっていないと思っていた。両親はそんな事をする人じゃない。とても優しい。
と、そこに雅と千尋が帰ってきた。
「ただいま」
「お父さん、お母さん」
帰ってきた瞬間、理沙が抱きついた。どうしたんだろう。何かあったんだろうか?
「どないしたん? 心配そうな顔して」
「何をしとったん?」
2人は戸惑った。いつものように散歩していたと言えばいいけど、本当に信じてくれるんだろうか? こんな答えばかりで、本当にいいんだろうか?
「何をしとったって、散歩やよ。浩ちゃんがいなくなった寂しさを紛らわすためや」
「ふーん」
いつものように答えたが、理沙は受け入れた。千尋はほっとした。
「大丈夫。私たち、とっても優しいさかい」
そう言って、雅は理沙の頭を撫でた。撫でられて、理沙は嬉しくなった。その表情を見て思った。雅と千尋は放火とか殺人なんてしていないだろう。




