5
浩一は山間の方に向かっていた。人の少ない場所なら、飢え死にできるだろう。できる限り楽に死にたい。首を吊るんじゃなくて、飛び降りるんじゃない。楽に死ぬなら、飢え死にだろう。浩一は自転車で走っていた。それは死の逃避行だ。誰にも内緒だ。見つかったら、確実に誰かに追われるだろう。そして、できる限り早くどこか遠くへ行かなければ。早く行かないと、通報されてまた家に戻される。家に戻ったら、中学校に戻ったら、何をされるかわからない。きっとひどい事だろうな。
浩一は都会を抜け、田園地帯を走っていた。とてものどかな場所だ。人は比較的少ない。人々は農作業をしていて、とても忙しそうだ。自分は都会に暮らしていて、それとは無縁だ。作っている彼らのおかげで、こうして食事ができるというのを感謝しなければならない。
しばらく走っていると、山間部に入り、急な坂に差し掛かった。その先には大きな山がそびえ立っている。その山奥なら大丈夫だろうな。そこを目指そう。
何も知らないまま、6人は過ごしていた。浩一は今頃、練習試合の集合場所に着いたんだろうな。今日は相手の中学校での試合なので、近くの駐車場に集合らしい。もしそうなら、もう着いただろう。そろそろ集合時間になるからだ。それまでに浩一が着いていてもおかしくないだろう。
6人が朝食を食べようとしたその時、突然、家の電話が鳴った。こんな朝早くに、誰だろう。急用だろうか?
「もしもし」
受話器を取ったのは千尋だ。だが、聞くうちに顔が深刻になっていく。その様子を見ていた雅は徐々に不安になってきた。自分の家族に何か大変な事があったのでは?
受話器を置いた千尋は、不安そうな表情だ。その表情を見て、徳次郎とハルは不安になった。浩一のみに何があったのでは? ひょっとして、集合場所に来ないからだろうか?
「どないしたん?」
雅は椅子から立ち上がった。何事だろうか? とても不安だ。浩一の身に何があったんだろうか?
「浩ちゃんが集合場所に来うへんのやて」
徳次郎とハルは驚いた。どうしてこんな事が起こるんだろう。まさか、何らかの事故に巻き込まれていないだろうか?
「そんな・・・」
雅は呆然となった。朝、元気に家を出たのに、何かあったんだろうか? 信じられない。
「交通事故に遭ってへん?」
徳次郎とハルは不安になった。もし交通事故に遭って、入院したり、死んだらどうしよう。みんなとても悲しむだろうな。
「そんな事聞いとらへんよ」
2人は焦っている。浩一に何があったんだろうか?
「おかしいわ・・・」
6人は朝食を食べるのをやめ、不安そうな表情になった。千尋はアワアワしている。何か変な事でもなかっただろうか? ここ最近、浩一が元気がない所だけだ。
次に、千尋は2階に向かった。浩一の部屋に、何かその手掛かりがあるのではと思った。ここ最近の浩一の表情から見て、何かあったような雰囲気だ。
千尋は浩一の部屋に入った。浩一の部屋はいろんなものが散乱している。その状況から、千尋は浩一がとんでもない事になっていると直感で思った。何か悩み事があると、こんなにあれるものだ。何か、精神的につらい事があったのでは? 家族には言えない、何かがあったのでは? 千尋は一気に不安になった。そして、浩一は自殺をしようとしているんじゃないかと思った。
と、千尋は机の上に1冊のノートが置いてあるのが目に入った。普通は閉まっているのに、どうしてここにあるんだろう。そのノートには題名がない。ただ、『坂井浩一』と書かれているぐらいだ。いったいこれは何だろう。全くわからないな。
千尋はノートを開いた。そこには、今までされたいじめの内容が詳細に書かれている。誰にも言えないから、ここに書いていたと思われる。それを読んでいるうちに、千尋は拳を握り締めた。彼らが許せない。反省してもまたやっている。どうしたら反省するんだろう。
「キャー!」
その時、2階で声が聞こえた。千尋の声だ。その声を聞いて、ハルは2階に急いでやって来た。何を発見したんだろう。嫌な予感がしてしょうがない。
ハルが浩一の部屋にやって来た。千尋は震えている。何があったんだろう。早く教えてほしいな。
「千尋さん、どないした?」
「これ、これ!」
千尋はハルに浩一の遺書を出した。題名がないノートだ。一体何だろう。ハルは呆然としている。
「な、何だ?」
ハルはノートを開き、読んだ。それを読んで、ハルは驚いた。浩一はこんな事をされているのか。そう思って、ハルは怒りに満ちた表情になった。
「こ、これは?」
千尋はすぐに電話で中学校に知らせた。早く通報しないと。自殺する前に言わないと、浩一の命が危ない。
何も知らない中学校は、いつも通りの休日の朝を迎えていた。今日はいくつかの部活が練習試合で、多くの部活が朝から練習している。これがいつもの日常だ。
突然、電話が鳴った。誰からだろう。教員は電話を取った。
「もしもし」
「もしもし、松岡千尋ですけど、坂井浩一くんの机の上から遺書が見つかりまして」
千尋の声だ。まさか、この中学校でこんな事が起こるとは。教員は呆然となった。
「そ、そんな・・・」
電話が切れた。教員は呆然となっている。
「えっ!? 誰の遺書やて?」
教員は横を向いた。そこには、教頭がいる。
「そんな・・・」
と、そこに浩一の担任の岡崎がやって来た。こんな時間に電話とは。何があったんだろうか?
「おはよう。朝から騒がしいけど、どないしたん?」
「浩ちゃんが遺書残して自殺しようとしたんや!」
それを聞いて、岡崎は呆然となった。まさか、こんな事が起こるとは。浩一はいつも、何かに悩んでいるようだが、まさか自殺に至るとは。
「自殺?」
「うん。でも、まだ遺体が見つかってないさかい、死んだかどうかわからん」
だが、遺書が見つかっただけだ。まだ自殺したかわからない。奇跡を信じよう。
「またいじめられとったんかいな?」
「他の人には言えへんだけど、そうらしいで」
「あいつめ」
岡崎は拳を握り締めた。また茂だろう。懲りないやつだな。徹底的に叱らないと。
その頃、千尋は拳を握り締めていた。そして、厳しい表情だ。何かを考えているようだ。
「どうしたのお母さん?」
理沙の声に、千尋は横を向いた。だが、急に優しそうな表情になった。
「な、何もないよ」
「ふーん」
理沙は明らかにおかしいと思った。何かを計画しているような感じだ。




