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それから数日後、相変わらず大志田家では何かを叩く音が聞こえる。その音は徐々に大きくなっていく。一体何が起こっているんだろう。とても気になる。もしかして、浩一を虐待しているんじゃないかと思えてくる。
2人とも不安になっている。もし、虐待ならば、警察に言わなければならない。そうしたら、浩一はどうなるんだろうと思ったが、それは自分たちが育てればいいと思っている。
千尋は近くの八百屋にやって来た。八百屋は空襲で焼け野原になって、再建まではまだまだだ。だが、みんなが待っているから、少しずつではあるが営業していかないとと思っているようだ。
「あら、いらっしゃい」
八百屋の主人がやって来た。八百屋の主人の家族はみんな無事だったが、家が焼けてしまった。残念だけど、家族がみんな生きていただけでも嬉しい。これから頑張っていこうという気持ちになれる。
千尋はいくつかの野菜を手に取った。野菜もなかなか手に入らない状況だ。だが、買わなければ。
「これとこれ、お願いします」
「おう、わかった」
店主は計算をした。千尋は主人の様子をじっと見ている。
「887円です」
千尋は1000円札を出した。
「113円のおつりです。まいどおおきに!」
店主は113円を渡した。店主は笑みを浮かべている。買ってもらえるだけでも嬉しいようだ。
「ありがとうございました」
「ねーねー、鈴木さん」
店主は驚いた。今度は何だろう。これで帰ると思っていたが、まだ用事があるんだろうか? 何か聞きたい事があるんだろうか?
「どうしたの?」
「浩一くん、変だと思わん?」
坂井浩一の事だろうか? 大志田さん家が引き取ったあの子がどうしたんだろうか? 浩一の事で、何か気になる事があるんだろうか?
「うーん・・・」
だが、店主は何も思い浮かばない。浩一はよく見る子なのに、どうしたんだろう。
「顔にアザができてると思わん?」
「そ、そうね」
そういわれて、店主はハッとなった。そういえば、ここ最近、浩一の顔のアザが気になるな。何かがあったようだが、いったい何があったのか、わからない。誰かに殴られているようだ。いかにも怪しい。誰かに殴られているのなら、早く通報しないと。
「最近、大志田さんのお宅がおかしいねん。何かを叩く音が聞こえるんや」
店主はこれにも反応した。確かに、最近大志田家の様子がおかしい。変な音がするからだ。
「うーん、そやねー」
「怪しいと思わん?」
千尋は近づいた。何としても、その原因を突き止めたい。そして、虐待だったら何とかしたい。
「思うわ」
そう言われてみると、怪しいと思う。そして、浩一を救いたいと思えてきた。これは重大な事だ。何とかしないと。
「わからん?」
「うん」
そろそろ帰らないと、家族が待っている。千尋は夕陽を見て、焦っていた。
「何かあったら知らせてね」
「え、ええけど」
店主も、大志田家をマークする事にした。いかにも怪しい。何とかしないと。
その夜、やっぱりあの音が聞こえる。そのたびに、雅と千尋は不安になった。浩一の身に何かがあったらどうしよう。不安でたまらない。早く何とかしたい。
「今日も音が聞こえると思わん?」
「そやね」
雅も不安そうに見ている。だが、自分たちには何もできない。茂人も多鶴子もけっこう強い。私たちではかなわないだろう。警察の力で何とかしないと。
「何かが怪しいわ。聞いてみよや」
翌日、2人は警察に聞いてみる事にした。浩一を守るために。
翌朝、千尋は朝の空気を吸い込んだ。今日は冬晴れの青空だ。肌寒いけど、今日も頑張ろう。
と、家の前を浩一が歩いていく。浩一は元気がなさそうだ。そして、浩一の顔を見て、千尋は驚いた。顔の所々にアザができている。けがだろうか? だとすると、いつどこで何が原因でけがをしたんだろうか?
「浩ちゃん、このアザ、どないしたん?」
と、雅もやって来た。すがすがしい朝なので外に出たのだろう。浩一の顔を見て、雅も気になった。
「浩ちゃん、大丈夫?」
だが、浩一はなかなか言わない。言えない事情のようだ。
「だ、大丈夫・・・」
浩一の唇は震えている。何かに怯えているようだ。とても気になる。その理由を知りたい。知らなければ、浩一の命が危ないかもしれない。
「本当やろか?」
浩一は去っていった。千尋は首をかしげた。昨日の音といい、浩一のアザといい、大志田家には何かがあるのでは?
朝食を食べながら、雅と千尋は話をしている。大志田家の事だ。浩一は大丈夫だろうか? もし、何かあったら、こっちで保護したいな。
「大志田さんち、怪しいと思わん?」
「ああ」
同じちゃぶ台では千沙と理沙が朝食を食べている。彼らは何も気にしていないようだ。
「虐待されてるんちゃうと思ってんねん」
浩一のあのアザは大志田夫妻による虐待によるものじゃないか? だったら、一刻も早く通報しないと。このままでは浩一の命が危ない。
「そ、そんな事ないやろ?」
雅は信じられなかった。せっかく拾った子なのに、死んだ子の生まれ変わりだと思って大切に育てているはずなのに。
「ちょっと、のぞいてみよか」
「うん」
今日は休日だ。茂人も多鶴子もいる。何としても秘密を探らないと。もし虐待なら、浩一の命が危ない。