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あなたと生きて  作者: 口羽龍
第3章 小学校(下)
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30

 12月25日、クリスマスを迎えた。そして新年まであと1週間になった。年の瀬が迫り、周りはあわただしくなっている。中には、大掃除をする家や職場もある。松岡家も今日からそれをやろうとしている。大変だけど、きれいに新年を迎えようという気持ちがある。


 大志田家はいつもより早く起きた。まだ日の出前で暗い。その理由は、早朝に松岡家にクリスマスプレゼントを渡すぐらいだ。浩一のクリスマスプレゼントだ。これで許してくれればいいんだけど、本当に許してくれるんだろうか? 不安だけど、やってみなければ何も始まらない。


 2人は玄関の前にやって来た。多鶴子はプレゼントの入った袋を持っている。中身はリュックだ。これで喜んでほしいな。そして、謝っている事に気付いてほしいな。


「行ってくるね」

「行ってらっしゃい」


 2人は鍵を閉めて、は松岡家に向かった。多鶴子は周りを気にしていた。その途中に、松岡家や浩一に会って、止められないだろうか? もし見つかったら、止められるだろうな。


 しばらく歩くと、松岡家が見えてきた。これがそうなのか。あの時の事を考えると、ゾクッとなった。本当にうまくいくんだろうか? このプレゼントで満足してもらえるんだろうか? とても不安だな。


「よし、玄関に置くで!」

「うん!」


 2人はプレゼントの入った袋を玄関の前に置こうとした。入口の門は閉まっている。本当にこれでいいんだろうか? 疑問だらけだけど、やってみないと始まらないだろう。


「静かに開けて、入り口に置くで!」


 多鶴子はゆっくり門を開けて、中に入った。大きな物音がして、見つかったら大変だ。また追い出されるだろう。慎重に動いていた。


 2人は玄関の前にやって来た。すぐに多鶴子はプレゼントを玄関の前に置いた。道か、浩一に反省の気持ちが伝わりますように。


「何とか成功したわね」

「うん」


 2人は松岡家を出ていった。これで本当にできるかどうか不安だ。だけど、やらなければ始まらないだろう。


 それから1時間後、雅は玄関の前にやって来た。今日も仕事だ。もうすぐ仕事納めだ。気合を入れて頑張らないと。千尋は笑顔で見送っている。冬休みに入った子供たちはまだ寝ている。


「行ってくるね」


 雅は玄関に出た。そこには見慣れない袋がある。誰の袋だろうか? まさか、今日はクリスマスだから、クリスマスプレゼントだろうか? でも、雅は不思議に思った。子供たちには昨日の夜、クリスマスプレゼントを渡したはずなのに、誰が置いたんだろうか? まさか、本物のサンタからの贈り物だろうか? いや、そんなわけはない。特別な事をしたわけじゃないのに。明らかにおかしいな。


「あれ、何やろ?」


 そこに、千尋がやって来た。誰からのかわからないけれど、クリスマスプレゼントが置いてある。一体誰からだろうか?千尋は袋の中身を出し、中を見た。青いリュックサックだ。男の子のリュックサックっぽいので、浩一へのクリスマスプレゼントのようだ。


「リュックサック・・・。浩ちゃんのクリスマスプレゼントかしら?」


 雅は首をかしげた。どうして浩一にクリスマスプレゼントが届いたんだろう。全くわからないな。


「誰からやろ」


 と、千尋は大志田夫妻の事を考えた。まさか、大志田夫妻が浩一にクリスマスプレゼントを贈ったんだろうか? ならば嬉しいけれど、もう会いたくないな。見るだけでも追い出したくなる。


「どないしたん?」

「なんか、リュックサックが置いてあるん」


 それを聞いて、雅も驚いた。そして、雅も思った。まさか、大志田夫妻が浩一に向けたクリスマスプレゼントだろうか?


「へぇ」


 と、千尋はある紙切れを見つけた。そこには『浩一くんへ』と書かれている。それを見て、千尋はわかった。このクリスマスプレゼントは、浩一に贈ったものだと。


「ん? 浩一くんへ・・・」


 雅も首をかしげた。大志田夫妻と思われるけれど、いったい誰だろう。


「誰のプレゼントやろ」

「わからない」


 だが、せっかくもらったのだから、使わないと。


「だけど、もらっとこ」

「そやね」


 朝、浩一は喜んでいた。誰からかわからないけれど、リュックをもらった。デザインが男の子好みでとても素晴らしい。これはとても思い出になりそうだ。でも、浩一は思った。どうして千尋や雅、徳次郎やハルの他に、別のクリスマスプレゼントをもらったんだろうか? 誰が渡したんだろうか? 何はともあれ、とても嬉しい。


「わーい!」

「よかったね!」


 千尋は喜んだ。と、紙切れの裏に、何かが書いてあるのに気が付いた。紙切れの裏を見ると、そこには大志田夫妻の名前が書かれている。それを見て、千尋はわかった。これは大志田夫妻からのクリスマスプレゼントなんだと。まさか、大志田夫妻からクリスマスプレゼントをもらうとは。ちょっと複雑だけど、もらっておこう。


「ん? 大志田茂人、多鶴子?」

「あの夫婦、だよね?」


 理沙はゾクッとなった。まさか、浩一を虐待していた夫妻からのクリスマスプレゼントだとは。理沙は複雑な気持ちになった。だけど、それほど反省しているんだなと思った。


「よかったじゃないの」

「浩ちゃん、そのリュックだけど、前のお父さんとお母さんのクリスマスプレゼントやて」


 それを聞いて、浩一の顔が少し変わった。大志田夫妻からのクリスマスプレゼントだからだ。


「ふーん」


 その表情を見て、千尋は思った。今でもあの夫婦は許せないと思っているんだろうか? もう会いたくないと思って言うんだろうか?


「今でもあのお父さんとお母さん、許せない?」

「許せない。もう会いたくない」


 やはりそうか。もう会いたくないと思っているんだな。自分たちももう会いたくないと思っているんだけどな。


「そう」


 だが、浩一はこのリュックを気に入っているようで、喜んでいる。その様子を見て、千尋は笑みを浮かべた。


「だけど、このリュック、好き!」

「よかったね」


 その後、大志田夫妻を見た人はいないと言う。噂によると、九州の山間部に引っ越したそうだが、それ以後の事は全くわからない。

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