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あなたと生きて  作者: 口羽龍
第1巻 大阪編  第1章 一緒に住む
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5

 家が再建してから1週間ぐらいの事だ。徐々に新しい生活に慣れてきた。だが、食材がなかなか手に入らない。いつまでこんな日々が続くんだろう。もう戦後なのに。だが、もうじき安定した生活が送れるようになるだろう。それはいつになるんだろう。誰もがそれに期待していた。


 この頃、千尋は気になっている事があった。隣の大志田さん家だ。毎日、何かを叩くような音がするのだ。何か不安だ。ひょっとして、虐待だろうか? とても気になるな。


「何な変な音せぇへん?」

「ああ」


 雅も気になっている。夜になると変な音がする。何かを叩くような音だ。とても気になる。何を叩いているのか、気になる。物に八つ当たりしているんだろうか? それとも、夫婦げんかだろうか? 聞こえるたびに、不安になってくる。


「誰かが壁を叩く音かな?」

「そうかもしれんわ」


 雅は寒い中、ラジオに耳を傾けている。まだまだ寒い日々が続いている。いつになったら春らしい陽気になるんだろうか? 千尋も、春が来るのを楽しみにしていた。


「なんか気になるねん」

「虐待やったらどないしよう」


 2人は不安な表情になった。浩一が心配だ。もし、浩一のみに何かがあったらどうしよう。


「そやね」


 だが、それだけではまだまだ何なのかわからない。もう少し様子を見よう。それが続くようなら、自分たちで調べよう。


「まだ調べるまでやないけど、気にしておこうや」

「うん」


 その様子を、千沙と理沙は不安そうに見ている。どうして両親は不安な表情になっているんだろうか? 何か、とんでもない事が起こっているんだろうか?




 その頃、大志田家では、浩一が殴られていた。虐待だ。2人は毎日のように酒を飲み、日ごろの怒りを浩一にぶつけていた。本当の息子ではないという理由だ。一緒に暮らそうと言ったあの日は、言った何だったんだろう。浩一は不安になっていた。このまま、こんな日々が続くんだろうか? このままでは死にそうだよ。早く逃げだしたいよ。


「泣くな! あんたの子供じゃねぇんだよ!」


 だが、浩一は泣き止まない。どうすれば泣き止むんだろう。その答えは、全くわからない。ただ、暴力をやめればいいだけの事なのに、2人はそれができない。


「泣いてばかりでは強くなれへんぞ!」


 そして、茂人は浩一を殴った。そして、浩一はまた泣く。そして、また殴る。その繰り返しだ。浩一の顔はあざだらけだ。だが、誰も気にしてくれない。ずっと家にいるからだ。


「泣き止めや!」


 多鶴子も怒っている。本当の子供じゃないのに、甘えるな。1人でたくましく生きろ。


「あんたの子供やないんや! そこんとこ覚えとけや!」


 それでも浩一は泣き止まない。早く平和な生活にならないかな? もうこんなに殴られるのは嫌だよ。


「泣き止め!」


 2人はただただ、浩一を殴り続けるだけの日々だ。仕事が見つからない、生活が厳しい、その苦しさを浩一にぶつけるだけの日々だ。本当はやってはいけないのに。




 食事の時も、雅は気になっていた。大志田家が怪しい。どうして叩く音が聞こえるんだろう。


「どないしたん?」


 千尋の声で、雅は我に帰った。千尋は思った。また大志田家の事を考えているんだろうか?


「やっぱ気になるわ」

「そやね」


 やっぱり気になる。これは周辺の人にもそれを言おう。そして、みんなでその理由を突き止めよう。そうしなければ、浩一が心配だ。


 昼下がり、雅と千尋は外を歩いていた。まだまだ復興には程遠い様子だ。これから大阪は、どういう風に復興していくんだろう。全くわからないな。


 と、狭い路地を1人の老人が歩いている。その老人は、戦争で自分以外の家族をみんな亡くした。今は1人暮らしだ。寂しいけれど、力強く生きていこうと思っているようだ。


 千尋はその老人の肩を叩いた。どうしたんだろう。老人は横を向いた。


「どうしたの?」

「大志田さん家、気にならん? 夜中に怒鳴り声や何かを叩く音が聞こえんねん」


 大志田家、あの家の事か。その周辺を歩いた事はあまりない。何か気になる事があるんだろうか? でも、怒鳴り声や何かを叩く音が聞こえると聞くと、不安になる。家族に何かが起こっているようだ。このままでは浩一が気になる。どうしよう。


「そんな・・・」

「何も思わんの? 浩ちゃんがかわいそうやん!」


 千尋は浩一を気にしていた。このままでは浩一の身に何かがありそうだ。


「・・・、そやね・・・。万が一死んだら、大変やな」


 老人は考えた。これは放っておけない。浩一が心配だ。あの子が死んだら、どうしよう。何とかしないと。


「今は目につけとこ」

「そやね」


 と、そこに千沙がやって来た。まさか、その話を聞いていたんだろうか? 2人の秘密にしておこうと思っていたのに。


「ママ、どないしたん?」


 千沙は心配そうだ。何か重大な事があったんだろうか? 千沙はその理由が知りたかった。


「何でもないんやで」


 雅は千沙を抱っこした。家に戻っていてほしいようだ。千沙は何も抵抗しない。親がそう言うのなら、戻っていよう。とても気になるけど、それはきっと両親だけの秘密だろうな。


「ほら、家にいよう」

「はーい!」


 雅は千沙を抱えて家に戻っていった。2人はその様子を見ている。千沙には話したくないんだろうな。


「私たちはそんな事せんよな。どうしてそんな事をするん?」


 老人は気になっていた。自分だったら、こんな乱暴はしない。なのに、大志田家はどうしてそんな乱暴な事をするんだろうか?


「わからんわ」


 老人も浩一が気になった。この家にいる浩一は大丈夫だろうか? けがをしていないだろうか?


「浩ちゃんが心配やわ」

「うん」


 千尋は家に戻っていった。その様子を、多鶴子は見ている。だが、多鶴子は気づいていない。虐待が、周辺で話題になっている事を。この後、自分と茂人がとんでもない事になるのを。

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