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あなたと生きて  作者: 口羽龍
第3章 小学校(下)
58/72

19

 夜がいつものようにやって来た。今頃、子供たちは修学旅行から帰ってきただろう。そして、みんな笑みを浮かべているだろう。そして、この2日間を一生の思い出にするだろう。だが、浩一には何の思い出も残らない。修学旅行に行けなかったからだ。トイレに閉じ込められ、行く事ができなかった。どうしてそんな目にあわなければならないのか? 神様、教えてください。だが、神様には会えないし、聞く事もできない。修学旅行に行けないままだ。


「ただいまー」


 千沙の声だ。千沙が修学旅行から帰ってきたようだ。元気のいい声だ。おそらく、修学旅行を楽しんだような感じだ。


「おかえりー」

「浩ちゃん、大丈夫?」


 千沙は浩一を心配していた。修学旅行に行けなかったからだ。トイレに閉じ込められたというのは、昨夜先生から聞かされた。まさかそんな事をやられて行けなかったとは。一生に一度の修学旅行なのに、あまりにもひどすぎる。誰がそんな事をやったのかも知っている。このクラスの大村茂はもちろん、遥も関わっていたような気がする。話しかけて、千沙の注意をそらすためなんだろうと思った。


「うん。2階の部屋におるわ。で、行けなかったことなんやけど、3人の中学生にトイレに閉じ込められて、行けなかったんやて」

「先生から聞いたんやけど、そんな事があったんやな。またいじめられたのか」


 千沙は拳を握り締めた。あまりにもひどいな。何とかしないといけないな。


「そうみたいやね。誰がやったかすでにわかっとって、今夜にやった中学生たちが謝りに来るって」

「ほんま?」


 それを聞いて、千沙は驚いた。まさか今夜、謝りに来るとは。


「うん。もうすぐ来るらしいで」

「そうなんだ」


 千沙は2階に向かった。浩一は2階でじっとしていると聞く。今もじっとしているんだろうか? 悔しく思っているんだろうか? 京都や奈良に行きたいと思っているんだろうか?


 その頃、浩一は昨日と同じく、夜空を見ていた。千沙が帰ってきたらしい。きっと楽しかっただろうな。でも、僕がいたらもっと楽しかっただろうな。できれば僕も行きたかったよ。


「浩ちゃん、大丈夫?」


 浩一は振り向いた。そこには千沙がいる。千沙は嬉しそうだ。


「楽しかった?」

「うん」


 それを聞いて、浩一は下を向いた。そして、泣きそうになった。その表情を見て、千沙は気の毒に思っている。自分は修学旅行を楽しんできたのに、浩一は修学旅行に行けなかった。つらかっただろうな。


「行きたかったよ・・・。行きたかったよ・・・」

「そうやね・・・。つらいよね・・・。今夜、浩ちゃんを閉じ込めた子が謝りに来るそうやけど」


 千沙は浩一の気持ちがわかる。みんなと一緒に修学旅行を楽しみたかっただろうな。金閣寺、銀閣寺に行きたかっただろうな。あまりにもひどいよな。


 謝りに来ると聞いたが、浩一の表情は晴れない。どんなに謝っても無駄なように見える。修学旅行は終わってしまった。取り返しのつかない事なんだ。


「本当?」

「うん。もうすぐ来るから、来たら1階に来てね」

「うん・・・」


 と、インターホンが鳴った。どうやら、彼らの両親が来たようだ。音を聞いて、千尋は玄関に向かった。


 千尋は扉を開けた。そこには彼らの両親がいる。


「お邪魔しまーす」

「はーい」


 両親は申し訳ない表情をしている。自分たちの子供のせいで、浩一は修学旅行に行けなかったからだ。


「わたくしたち、坂井浩一くんを閉じ込めた木山と神山と上田の両親です」

「あら、こんばんは」


 千尋は振り向いた。浩一を呼ばないと。


「浩ちゃーん、神山くんと上田くんの両親が来たでー」

「はーい」


 だが、浩一は元気がないような声だ。その声を聞いて、彼らの両親は息子がとんでもない事をしたんだなと改めて感じた。


 すぐに、浩一がやって来たが、歩き方からして元気がない。


「昨日はうちの息子がとんでもない事をしまして、誠に申し訳ございませんでした」


 彼らの両親は頭を下げた。だが、浩一は落ち込んだままだ。


「それで浩ちゃん、すっごく落ち込んでて・・・」

「そうなんですか?」

「はい。修学旅行に行けなかったって事で」


 やっぱりそうだったのか。本当に申し訳ない事をしたな。どうすれば立ち直ってくれるんだろう。彼らの両親も不安そうだ。この子のために何とかしてやりたいな。


「そうなんですか・・・。かわいそうすぎる・・・。本当にごめんなさい!」

「ごめんなさい!」


 突然、浩一は顔を上げた。どうしたんだろう。そして、浩一は泣いている。


「もういいから帰って!」


 浩一の大声に、辺りにいる人々は驚いた。急に何だろう。かなり怒っているんだろうか? 今さっきの落ち込んでいる表情がまるで嘘のようだ。


「浩ちゃん、許したって・・・」


 だが、浩一は無視して、2階に戻っていった。あまりにもショックなようだ。彼らは浩一の後ろ姿をじっと見ている。どうすれば元の浩一に戻るんだろうか?


「浩ちゃん・・・」


 千尋は下を向いた。浩一のために、何かをしないと。また元の浩一に戻すには、京都や奈良に自分たちで行くしかないんだろうか?


「まだ落ち込んどるわ・・・」

「うん・・・」


 雅も不安そうだ。やはり、自分たちで京都や奈良に行くしか方法がないんだろうか?

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