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あなたと生きて  作者: 口羽龍
第3章 小学校(下)
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7

 年が明けて1951年になった。もうすぐ小学校生活も3分の2が終わろうとしている。いろんな事があったけれど、これからもっと勉強が厳しくなるだろう。だけど、それはまだまだ通過点だ、これから中学校、高校、大学へと進んでいくだろう。それに、修学旅行も待っている。まだ来年の話だが、一番楽しみにしているのは修学旅行だ。どんな所に行くんだろう。とても楽しみだな。


 浩一はいつものように帰り道を歩いていた。千沙は今日は居残り勉強だ。残念だけど、今日は1人で帰ろう。茂に何かされないように気を付けないと。


「はぁ・・・、今日も疲れたな・・・」


 浩一は肩を落としていた。勉強する量、授業の量は多くなってきた。だが、中学校や高校はもっと厳しいだろう。そう思うと、まだまだ頑張らなければと思えてくる。


 突然、浩一は誰かに落とされた。


「うわっ・・・」


 気が付くと、浩一は側溝に落ちていた。浩一は振り向いた。そこには茂がいる。また茂の仕業なのか。茂は全く反省しないな。


「イヒヒ・・・」


 茂は去っていった。浩一はじっとその様子を見ている。


「こいつ・・・」

「浩ちゃん、大丈夫?」


 浩一はまた振り向いた。そこには千沙がいる。居残り勉強を終えて、下校している途中のようだ。


「大丈夫やないよ」

「帰ろう」


 千沙は手を差し伸べた。とても暖かいな。


「うん」


 千沙と浩一は一緒に帰る事にした。一緒に帰れば、安心できる。やっぱり2人がいれば怖くないな。


 2人は実家に戻ってきた。実家を見ると、いつもほっとする。それはどうしてだろう。やっぱり、みんながいて、心が安らぐ場所だろうか? その理由はわからない。


「ただいまー」


 2人は玄関から家に入った。その声を聞いて、千尋がやって来る。


「おかえり、って、どうしたの?」


 ズボンが泥だらけになった浩一を見て、千尋は驚いた。また茂に何かをされたんだろうか?


「側溝に落とされたんやて」


 それを聞いて、千尋は思った。またあのいじめグループの仕業だな。とても許せないな。


「またあのいじめグループやね」

「うん」


 千沙もわかっていた。またあのグループだ。本当に懲りないな。何度注意されたら、懲りるんだろうか?


「全く懲りへん奴らやね。何とかせんと」

「こんな僕でごめんね」


 浩一は申し訳ない気持ちでいっぱいだ。両親がいなくて、育ての両親からも虐待された。そして、ここに居候している。小学校ではいじめられる。こんなひどい居候で申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


「ええんやよ」


 と、千尋はため息をついた。いじめグループにあきれているんだろうか?


「あの子たち、懲りへんね」

「何とかせんと、またやられるわ」


 千沙もあきれていた。どうしようもないな。反省しないな。もうやらないためには、どうすればいいんだろうか?


「何度も何度もごめんね」

「ええんやよ」


 ズボンと靴下を履き替えて、浩一は2階に向かった。千尋は、そんな浩一の後ろ姿を見ていた。どうすれば平和な日々を送れるようになるんだろう。何にも悪い事をしていないのに。




 翌日、千沙は浩一と一緒に小学校に向かっていた。2人は真剣な表情だ。昨日、茂にされた事を、三宅に言わなければならない。また叱ってもらわないと。だけど、それで反省するんだろうか? 疑問に思うな。


 2人は職員室に入った。職員室には何人かの教員や教頭がいる。教頭は怖い表情だ。


 と、2人は三宅を見つけた。三宅は真剣な表情だ。もうすぐ授業が始まるからだろう。


「先生!」


 その声を聞いて、三宅は横を向いた。そこには千沙と浩一がいる。どうしたんだろうか? またいじめだろうか?


「どうした?」

「また、あいつらが浩一くんをいじめてるんやで」


 やっぱりそうだったのか。全く、あいつらはまったく懲りないな。なども何度も注意されたという報告がある。これで何回目だろうか? 数えられないぐらいだ。


「またやっとんか」

「うん」


 三宅はため息をついた。茂はどうすれば反省するんだろうか?


「懲りへん奴やなー」

「何とかせんと」


 突然、三宅は浩一の肩を叩いた。浩一は驚いた。三宅はとっても優しいな。


「わかった、先生が何とかする!」

「ありがとうございます!」


 三宅は相談に乗ってくれることにした。これで一件落着になればいいけど。




 放課後、茂は三宅に呼ばれた。今日の朝の会で、放課後に来るように言われた。茂には何の事か見当がついている。きっと浩一の事でだろう。またいじめられたのを言われるんだろうか?


 茂は職員室の三宅の机の前にやって来た。


「おい!」

「何ですか?」


 三宅の声を聞いて、茂は凍り付いた。とても怖いからだ。


「お前、坂井を側溝に落としただろ?」

「えっ、やってないっすよ」


 だが、茂は否定する。だが、三宅は嘘だとわかっていた。千沙が証言していたからだ。千沙は嘘をつかない子だ。千沙が言っている事は本当の事ばかりだ。


「見てた人がいるんだぞ! 正直に言え!」


 その表情を見て、もう嘘はつけないと思った。どうしよう。茂は重い口を開いた。


「や、やりました・・・」


 その瞬間、三宅は茂を平手打ちした。嘘をついて罪を逃れようとしたからだ。あまりにもひどい。


「何で嘘を言った?」

「家族が大変になるから」


 もし、いじめを起こしたら、家族も迷惑をかける事になる。家族の評判が悪くなり、職場での評判も悪くなる。それを避けるためにも、隠さなければならないと思っている。


「だからと言ってたら坂井の方が大変になるだろ?」

「はい・・・。ごめんなさい・・・」


 確かにそうだ。もし隠していじめを続けたら、浩一が迷惑をかけるだろう。


「何度坂井をいじめたら気が済むんだ、いい加減にしろよ!」

「本当にごめんなさい・・・」


 茂は頭を下げた。その様子を見て、三宅は許す事にした。


「反省しろよ!」

「はい・・・」


 茂は職員室を去っていった。三宅はその後ろ姿を見ていた。


 茂は下を向いたまま、廊下を歩いていた。その後ろで、千沙と浩一が茂を見ていた。


「反省しとるみたいやね」

「今度こそもうやめるんやろか?」


 2人とも願っていた。これで茂がいじめをやめる事を。


「温かく見守ってやろや」

「そやね」


 2人は笑みを浮かべた。いつまでも、この笑顔が続きますように。

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