25
翌々日、千沙と浩一は下校しようとしていた。いつも一緒に帰っている紗耶香は居残り勉強があって、帰りが遅くなるようだ。2人で下校するのは、何日ぶりだろう。少し寂しいな。帰るときの人数が1人でも少なかったら、こんなに寂しく漢字つものかな? そう思いつつ、2人は帰ろうとしていた。
「じゃあね、バイバーイ」
「バイバーイ!」
2人は教室を後にした。紗耶香しかいない教室はとても寂しい。今さっきの騒然とした風景がまるで嘘のようだ。だが、明日の朝になれば、また賑やかな1日が始まるだろう。明日はどんな1日になるんだろう。わからないけれど、いい日になるといいな。
2人は校門を出て、実家までの道のりを歩いていた。普段見慣れた、いつもの風景だ。それを見るだけで、安心できる。どうしてだろう。自分たちにはわからない。いつも見ている風景には、そんな力があるんだろうか?
しばらく歩いていると、捨て子があった場所に差し掛かった。おととい、ここに赤ん坊が捨てられていた。今は松岡家でお世話になっている。だが、このままでいいんだろうかと思う。本当の両親の元に戻さなければいけないと思っている。そう思うと、何日あの赤ん坊はわが家が世話をするだろう。いつになるかわからないけれど、本当の両親が見つかるまでここで育てよう。
その辺りを、1人の男がうろうろしている。なんだか怪しい。千沙もその様子を見ている。だが、浩一は何とも思っていない。普通だと思っているようだ。
一方、千沙はその男が気になっている。見ているうちに千沙は思った。その男が、赤ん坊の父親ではないだろうか? 男の様子を見ていて、徐々にそう思えてきた。
「どないしたん?」
「あの人、昨日の帰りの時間もうろうろしてたんやで」
そんなにあの男が気になるんだろうか? もしかして、あの赤ん坊の父親だと思っているんだろうか? だとすると、あの男に赤ん坊を返さなければならないんだろうか?
と、浩一はある事に気がついた。赤ん坊が捨てられていた場所じゃないか? じゃあ、その男は赤ん坊の父親じゃないか?
「えっ!? ここって、あの赤ん坊が捨てられていた所やないか? まさか、あの子のお父さん?」
「わからんけど、とりあえず聞いてみよや」
2人は男に近づいた。だが、男は2人に気がついていない。わかっていないようだ。
「すいません」
突然、誰かが話しかけてきた。一体誰だろう。男は首をかしげた。
「ここに捨てられていた赤ん坊で何か?」
それを聞いて男は驚いた。まさか、あの赤ん坊を知っているんだろうか? まさか、あの子をここで預かっているんだろうか? もし預かっているのなら、会わせてほしいな。
「はい、そうですけど、私はその赤ん坊の父です」
千沙の思った通り、この人はあの赤ん坊の父親のようだ。まさか、父親がやってくるとは。でも、母親はどこだろう。まさか、捨てたのは母親だろうか?
「えっ!? 今、私の家で保護してるんやけど」
それを聞いて、赤ん坊の父親はほっとした。どうやら生きているようだ。早く会わせてほしいな。
「そ、そうですか? 今すぐ会わせてください!」
「はい、わかりました」
男は2人についていく事にした。その赤ん坊は元気にしているんだろうか? 少し不安だ。だが、保護されていると知って、ほっとした。
しばらく歩いて、3人は松岡家にやって来た。ここで赤ん坊を預かっているんだ。早く会いたいな。赤ん坊の父親はワクワクしていた。
「ただいまー」
玄関を開けると、エプロンを付けた千尋がやって来た。と、千尋はある男が一緒にいるのが気になった。まさか、あの子の父親だろうか? この人が赤ん坊を捨てたんだろうか? でも、表情から見て、捨てていないように見える。それに、捨てていたらここに来ないだろう。
「おかえりー」
「お母さん、おととい拾った赤ん坊のお父さん」
それを聞いて、千尋はハッとなった。やはり、あの赤ん坊の父親だったのか。父親が見つかっただけでも、嬉しいと思わないと。でも、母親はどこに行ったんだろうか? まさか、母親が捨てたんだろうか?
「あら、どうしたんですか?」
「赤ん坊が心配で」
赤ん坊の父親は辺りを見渡した。赤ん坊を探しているようだ。早く会わせたいな。3人は思っていた。
千尋は赤ん坊のいる部屋に案内した。赤ん坊は2階にある千沙の部屋で世話になっている。
千尋は千沙の部屋に入った。そこにはゆりかごで寝ている赤ん坊がいる。それがあの赤ん坊だ。
「この子です」
それを知って、赤ん坊の父親は赤ん坊を抱きしめた。よほど会いたかったんだろう。赤ん坊の父親は笑顔になった。
「あー、よしよし」
千尋は思った。どうして赤ん坊を捨てたんだろうか? その理由を知りたかった。
「なんで捨てたんですか?」
「いや、私が捨てたんやない。妻や。妻は子供がいらんと言ったから捨てたんや。俺は欲しかったのに」
やはり、赤ん坊の母親が捨てたようだ。悪い母親だな。千鶴子よりもひどいんじゃないかな?
「そんな・・・」
千沙と浩一もその話をじっと聞いていた。そんな母親もいるんだな。とてもひどいな。そんな人とは別れた方がいいのに。そして、父親が1人で育てればいいのに。