24
年が明けて1950年になった。浩一は今年、10歳を迎える。大人になるまであと半分だ。果たして浩一はどんな未来を送るんだろう。どんな大人になるんだろう。全くわからないけれど、いい未来を迎えてほしい。雅と千尋はそう願っていた。
浩一はいつものように千沙、紗耶香と帰宅していた。この時間が一番、浩一にとっては楽しい。いつも暮らしている千沙が、一番自分の事をわかってくれるし、かわいがってくれる。血はつながっていないが、やっぱり松岡家は浩一の家族なんだと改めて感じる。紗耶香も浩一と仲が良い。いつもいじめられている浩一をかわいそうだと思ってくれる。この子となら将来、結婚したいなと思えてくる。
「浩ちゃん、じゃあね」
「じゃあね」
途中で紗耶香は別れた。ここから浩一は千沙と一緒に帰る。2人はとても楽しそうだ。いつまでも一緒にいたい。だけど、いつかは離れ離れになり、独り立ちしなければならない。それはいつになるのかわからないけれど、その時までに、強くならなければならない。
2人は実家までの道のりを歩いていた。2人は楽しそうだ。そんな楽しい日々がいつまでも続けばいいのにと、近所の人々は思っていた。
と、千沙は家の前で立ち止まった。どうしたんだろう。浩一は振り向いた。
「ど、どないしたん?」
「捨て子や」
千沙は指をさした。そこには捨て子がある。捨て子は生まれて間もないようだ。捨て子は元気よく泣いているが、どこか寂しそうだ。泣くのを見て、浩一は思った。親がいないから泣いているんだろうか?
「な、何やて?」
「なんでこんなとこに。かわいそやな」
浩一は捨て子を見て、かわいそうだと思った。両親はどこに行ったんだろうか? わが子を捨てるなんて、あまりにもひどいな。産んだからには、しっかりと育てなければならないのに、どうして捨てるんだろうか? 子供が気に入らないんだろうか? 全くその理由がわからないな。
「誰がこんな所に捨てたんかな?」
浩一は拳を握り締めた。赤ん坊を捨てる親が許せないようだ。昔、満州で離ればなれになったという母。そんな母は浩一に対して愛情を注いでいたという。だが、そんな母は行方不明になってしまった。そんな母とは正反対のように見える。
「何とかせんと」
「そやね」
2人はその赤ん坊を拾う事にした。自分の家族なら、その赤ん坊を受け入れてくれるだろう。だって、浩一も受け入れたんだから。
2人は実家の前にやって来た。実家からはいいにおいがする。晩ごはんを作っているのだろう。今日の晩御飯は何だろう。全く聞いていないが、おいしいにおいがする。とても楽しみだな。
「ただいまー」
その声とともに、千尋がやって来た。千尋はエプロンを付けている。
「おかえりー」
「お母さーん、赤ちゃんが捨てられてんねん」
千沙が抱いている赤ん坊を見て、千尋は驚いた。まさか、この付近で捨て子が見つかったとは。どこだろうか? 買い物に行く時は、捨て子を見ていないし、そんな情報が飛び交っていない。
「ほんま?」
「うん。この子」
千沙は赤ん坊を千尋に見せた。本当に捨て子だ。
「そんな・・・」
千沙は少し考えた。この子をどうしよう。もし、親がやってきたら、怒られるだろう。だが、このままにしておいたら、死んでしまうだろう。迷うな。でも、放っておけないな。
「とりあえず、ここで預かろや」
「うん」
千尋は、この赤ん坊を授かる事にした。千尋は思った。赤ん坊を捨てたのは、誰だろう。あまりにも自分勝手だな。育てる義務があるのに。
千沙と浩一は思っていた。両親はどんな目的で赤ん坊を捨てたんだろうか? 一度、会ってみたいな。
その夜、仕事から帰ってきた雅は、その赤ん坊を抱っこしていた。とてもかわいい。まるで千沙と理沙のようだ。捨てられていたけど、捨てたくないぐらいかわいいな。こんな子を捨てる人の心理がわからないな。
「おー、よしよし、ええ子やな」
赤ん坊を抱っこする様子を見て、千尋は嬉しそうだ。この子は愛情を注げば、きっといい子に育つのに。どうしてこの子を捨てるんだろう。
「かわええな」
雅が抱く姿を見て、浩一は何かを考えている。何を考えているんだろうか? まだ見ぬ家族だろうか? そういえば、浩一の家族はどこにいるんだろうか? 噂によると、戦死したと聞いている。家族みんなは気になった。
「浩ちゃん、どないしたん?」
「どうして子供を捨てるんかと思って」
それを聞いて、理沙は思った。浩一は虐待を受けてるし、いじめを受けている。この子はとても思いやりのある子だな。きっといいお父さんになるぞ。
「そやね。かわいそやね」
理沙もかわいそうだと思っている。もし、親が見つからなかったら、この子もここで世話をしよう。もし、親だと名乗り出る人がいたら、その人に渡そう。
雅と千尋は思っていた。親はどこに行ったんだろうか? また、捨てられていた場所に戻ってくるんだろうか? もし戻ってきたら、渡したいな。
「この子のお父さんやお母さんはどこに行ったんやろか?」
「気になるわ」
徳次郎も気になった。わが子を捨てる両親が許せないと思った。