23
翌朝、高俊の家の周りは騒然となっていた。だが、高俊の両親は気づいていない。この日、高俊の家の前には警察が来ている。そして、その周りに野次が来ているのだ。警察も野次も朝から騒がしい。
突然、ドアをノックする音が聞こえた。その声で、高俊の両親は目を覚ました。高俊は眠ったままだ。ノックの音に反応していないようだ。
2階で寝ていた2人は1階に向かった。こんな朝早くから何だろう。全くわからないな。まさか、虐待しているのがばれたんだろうか? いや、高俊には口封じをしていて、誰にも知られていないはずだ。
高俊の父はドアを開けた。そこには警察がいる。それを見て、高俊の父は感じた。虐待がばれたんだ。どうしよう。逮捕される。
「おはようございます。市川さんですか?」
「はい」
高俊の母は素直だ。ばれたのなら、真摯に受け止めなければならない。逃げてばっかりではだめだ。
「警察ですけど、ちょっとお聞きしたいことがあるんです」
「な、何でしょうか?」
高俊の父は何もやっていないかのような表情だ。だが、みんなにはわかっている。虐待しているんだ。正直答えろ。
「とりあえず、警察に来てください」
「はい。わかりました」
そして、警察は2人を逮捕し、警察に連れて行った。それでも高俊は寝ている。何事もなかったかのようだ。その後、高俊の家はしばらく静かになった。
それから1時間後、高俊はいつものように目を覚ました。だが、そこには両親がいない。どこに行ったんだろうか? もう出かけたんだろうか? いや、母は専業主婦だから常に家にいるはずだ。高俊は1階に向かった。だが、そこに母はいない。
「高俊くん、大丈夫?」
高俊は振り向いた。そこには千沙がいる。どうして千沙がやって来たんだろうか? まさか、両親は逮捕された? だったら嬉しいんだが。
「何とか」
高俊はほっとしているようで、少し笑みを浮かべている。どうやら安心しているようだ。
「もう大丈夫やで、お父さんとお母さん、捕まったんやよ」
それを聞いて、高俊は喜んだ。もう虐待されないですむ。まさか他人が通報してくれるとは。大変だったけど、みんなが救ってくれた。みんなには感謝しないと。
「どうして?」
「高俊くんを殴ったり蹴っとったから」
やっぱりそうだったのか。それと同時に、高俊は申し訳ない気持ちになった。虐待されているのをなかなか話さなかった。心配をかけて、本当に申し訳なかった。
「そう・・・。ごめんね、黙っていて」
と、千沙は高俊の頭を撫でた。どうしたんだろうか?
「いいんだよ」
ふと、千沙は思った。高俊はこれで1人暮らしだ。これからどうするんだろうか? 近くの家でお世話になるんだろうか? それとも、親戚の家に引っ越すんだろうか?
「これから、高俊くん、どうするん?」
それを聞いて、高俊は下を向いた。ひょっとして、引っ越すんだろうか? だとすると、今の小学校の仲間とは離ればなれになってしまう。どうしよう。
「まだわからない。この後、決める」
結局、まだ決まっていない。ひょっとしたら、島根にいる父方の祖父母が何とかしてくれるかもしれない。
「そうか」
千沙は不安になった。高俊と別れてしまうんだろうか? そうなったら嫌だな。せっかく救われたのに、別れてしまうなんて。
その年の暮れの事だった。クリスマスが終わり、年の瀬が近づき、新年に向けた準備が各地で行われていた。特に行われているのは大掃除だ。松岡家でも大掃除が行われていて、千尋は日々の大掃除に明け暮れていた。大みそかまでそれは続きそうだ。早く済ませて、みんなでくつろぎたいな。
突然、誰かがノックしてきた。誰だろう。全くわからないな。こんな年の瀬に、誰がやって来たんだろうか?
理沙は扉を開けた。そこには高俊がいる。高俊は悲しそうだ。何があったんだろうか? 虐待していた両親はもう逮捕されたのに。
「理沙ちゃん・・・」
「えっ、高俊くん? こんな年の瀬にどうしたん?」
理沙は驚いた。こんな年の瀬に、どうしたんだろうか? 何か大事な話だろうか?
「おじいちゃんの家に引っ越す事になったんだ」
高俊は大阪を離れ、島根の山間部にある父方の祖父母の家に引っ越す事になった。突然の出来事で残念だけど、報告しないと。
「どこに行くん?」
「島根」
それを聞いて、理沙は驚いた。祖父母の家はここにあるとは。遠い所だな。行けそうにないな。でも、また会いたいな。
「そんなとこ?」
「うん。急な事でごめんね。お別れ会もなしに帰ってしまってごめんね」
高俊は残念そうな表情だ。別れるのは残念だけど、それはこれからの生活のためだから、仕方がない。何とかしないと。
「ええよ。じゃあね」
「バイバイ」
高俊は去っていった。理沙は高俊の後ろ姿をじっと見ていた。今度会えるのはいつだろう。いつかわからないけれど、また会いたいな。その時には、これまでの日々を語り合いたいな。
「結局、島根に行くんか」
理沙は振り向いた。そこには雅と千尋がいる。2人はその話を後ろで聞いていたようだ。
「寂しいわ」
2人も残念そうだ。もっと一緒にいたかったのに、突然こんな事になるとは。でも、両親が家からいなくなったから、仕方がないんだろうな。
「もっと遊びたかったわ」
千尋は高俊との思い出を思い出していた。どれもいい思い出だ。もう会えないんだなと思うと、涙が出そうになる。
「また会いたいね」
「うん」
3人は思った。また高俊に会いたいな。