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あなたと生きて  作者: 口羽龍
第2章 小学校(上)
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22

 翌日の帰り道、高俊は下を向いて歩いていた。とても元気がなさそうだ。おとといも昨日も虐待を受けた。これからどうすればいいんだろうか? 心配されているのに、通報する勇気がない。もし通報したら、両親に怒られるだろう。そして、よりひどい虐待を受けるだろう。高俊はとても悩んでいた。


「高俊くん、大丈夫?」


 高俊は振り向いた。そこには雅がいる。雅はとても優しそうだ。まるで自分の両親とは正反対だ。この人は千沙と理沙の父親で、浩一の世話もしている。


「うん」


 雅は高俊の傷跡を触った。とても温もりを感じる。どうしてだろう。


「本当に? 傷だらけやで」

「うーん・・・」


 だが、高俊は言う事ができない。もし行ったら、どうなるかわからない。高俊はおびえている。その様子は、雅にもわかった。何かにおびえているようだ。もしかして、両親だろうか? だったら、警察に通報しないとな。


「何かあったら、おじちゃんに聞いてええんやよ」

「・・・、わかった・・・」


 高俊は下を向いて去っていった。雅は後ろ姿をじっと見ている。この子は大丈夫だろうか? 生きていけるんだろうか? とても不安だな。


「どう?」


 雅は振り向いた。そこには千尋がいる。千尋も心配そうに見ている。自分同様、千尋も高俊が気になるようだ。


「結局、わからへんかった。でも、少し戸惑っていたんや」


 それを聞いて、千尋は下を向いた。まだわからないのか。なかなか言えないんだろうな。きっと、何かにおびえているんだろうな。何とかしないと。


「そっか」


 2人は思った。高俊の家の近くを歩いてみて、その原因を探ろうかな? そうすれば、原因がわかるかもしれない。


「明日、見てみよか?」

「うん」


 明日は仕事が休みだ。2人で高俊の家の周りを歩こう。そして、その原因を突き止めるんだ。




 翌日、2人は外出して、高俊の家に向かった。千沙と理沙、浩一は家で遊んだり、勉強をしている。家には徳次郎とハルがいるから、大丈夫だろう。


 2人は高俊の家に向かっていた。その家は、狭い路地の中にある。この辺りは民家が立ち並んでいる。これらは大阪大空襲で焼け野原になったものの、すっかり再建され、戦争なんてなかったかのような風景になった。2人はその風景を見て思った。この辺りは大阪大空襲で、どうなったんだろうか? 2人にはそれがわからなかった。でも、推測はできる。ここもきっと焼け野原になったんだろうな。そして、多くの犠牲者が出たんだろうな。まるで地獄絵図だっただろうな。その後に生まれた子供たちや、それを知らない子供たちは、どんな目でここを見ているんだろうか?


 しばらく歩いていると、高俊の家が見えてきた。2階建ての木造だ。とても静かな路地の中にある。家の前には自転車がある。おそらく、家族が使っているものだろう。


「ここ?」

「うん。ここが高俊くんの家や」


 2人は高俊の家をじっと見ていた。この中で、何が行われているんだろうか? あの傷がとても気になるな。ひょっとして、浩一のように虐待されているんじゃないかと思っている。


「そっか。どうなってるのか、気になるわ」

「うん」


 2人はしばらくこの家の周辺を歩いていた。もしじっと見ていたら、怪しまれるだろう。そう思われないためにも、周辺を歩いていよう。


 数十分ぐらいうろうろしていると、高俊の家から罵声が聞こえてきた。そして、悲鳴が聞こえてきた。悲鳴は高俊のようだが、罵声は中年の男性と若い女性の声だ。高俊の両親だろうか? 高俊は両親との3人暮らしだと聞く。だとすると、これらの声は両親だろう。


「何これ?」


 2人は立ち止まり、高俊の家をよく見た。やっぱり虐待のようだ。浩一が虐待されている時に聞こえた音とよく似ている。まさかここでも虐待があるとは。とてもひどいな。


「虐待?」

「きっとそやね」


 2人は真剣な表情で見ていた。これは早く通報しないと。


「通報せんと」

「そやね」


 2人はその場を去っていった。わかっただけでも十分だ。それを早く通報して、高俊を救わないと。


 2人はまず、八百屋にやって来た。まずは八百屋にも言わないと。八百屋も高俊の事を気にしていた。ようやくその原因がわかったので、報告せねば。


「どないしたん?」

「あっこの市川さん、子供さんを虐待しとるらしいで」


 千尋から事実を聞かされて、八百屋は驚いた。やはりそうだったのか。浩一と同じだな。これは何とかしないとな。


「やっぱそうなんやな。早く通報せんと」

「うん」


 2人は警察に向かった。早く逮捕しないと。八百屋はそんな2人の後ろ姿を見ていた。そして思った。どうして人間は虐待をするんだろう。愛し、愛され、協力しないといけないのに。

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