21
それから1か月後の事だ。三原の子供の話題も少しずつ忘れ去られてきた。今さっき、あれだけ騒いでいたのは、何だったんだろうと思うぐらいだ。
千沙は最近、もう1つ気になっている事があった。隣の席に座っている高俊の事だ。最近、どこか元気がないように見える。何かあったんだろうか? 様子を見れば、何かがあったように見える。大丈夫だろうか?
「どないしたん?」
千沙は振り向いた。そこには浩一がいる。浩一は、千沙の様子が怪しいと思っていた。何を考えているんだろう。話してほしいな。友達じゃないか?
「最近、高俊くんの様子が変やなと思って」
「ふーん」
浩一は高俊を見た。確かに怪しい。何か、考え事をしているみたいだ。浩一も気になると思った。
「傷だらけやし、元気がないし」
言われてみればそうだ。よく見たら、高俊の体に傷がある。これも気になる。浩一は虐待を受けていた自分の過去を思い出した。ひょっとして、虐待を受けているんだろうか?
「そういえば、そやね」
「浩ちゃんもそやったから、そんな気んねん」
千沙も、それは虐待ではないかと思っていた。千沙も浩一の虐待されていたころを思い出したし、小学校に入学してからはいじめを受けて、傷だらけだ。いじめもあるかもしれないな。でも、いじめられているという報告はないし、目撃情報もない。
「浩ちゃんも気になるやろ?」
「うん」
2人は高俊のもとに近づいた。だが、高俊は全く気付いていない。考え事をしているからだ。
「高俊くん、最近大丈夫?」
高俊は我に返り、横を向いた。そこには千沙と浩一がいる。どうしたんだろう。
「大丈夫だよ」
だが、高俊は大丈夫だと言う。明らかに大丈夫じゃないよう見えるのに。隠しているんだろうか? 隠し事はよくないのに。
突然、千沙は高俊の肩を叩いた。高俊は驚いた。
「そう。悩んでる事があったら、言ってもええんやよ」
「うん」
結局、高俊がどうしてこんな表情なのか、何に悩んでいるのか、聞く事ができなかった。早く突き止めないと、高俊が心配だ。どうすればその理由がわかるんだろうか?
その日の帰り道、千沙と浩一は一緒に歩いていた。2人の話題は、高俊の事でいっぱいだ。どうしてあんな表情なのか、とても気になるな。両親にも協力してもらって、調べてもらおう。
「高俊くん、大丈夫やと言ってるけど、絶対に何かあるやろな」
「うーん、そうかな?」
浩一は疑っている。本当は大丈夫じゃないんだろうか? ただ、自分だけの何かで悩んでいるだけじゃないだろうか?
と、千沙は浩一を見た。どうしたんだろう。浩一は千沙と向かい合った。
「浩ちゃん、あんたもそんな目に遭ったのに、わからんの?」
「あっ・・・」
浩一は虐待されていた時の事を思い出した。確かにあんな感じの暴力を受けていたし、こんな傷だったな。あの時と一緒だと思ったら、ますます怪しくなってくる。これは調べないと。
「そやろ。絶対に虐待やろ」
「そやね。調べてみよう」
「うん」
2人は調べる事にした。この子を救ってみせる。その気持ちが、彼らを動かしていた。
その夜の事だ。千沙と理沙、浩一はダイニングで食事をしていた。雅、千尋、徳次郎、ハルもいる。いつもの団欒の家族の風景。これがどんなに素晴らしいのか、浩一はその大切さを感じていた。
千尋は高俊の話を聞いた。やっぱり気になるな。何とかしないと。
「そう。明らかに怪しいわ。どうしたんだろう。私も気になるわ」
千尋は思った。高俊のためにも、その原因を調べないと。早くわからないと、取り返しのつかない事になってしまうかもしれない。
「でしょ? 浩ちゃんも気になるやろ?」
雅もその話を真剣に聞いていた。これは大変だな。何とかしないと。
千尋も思った。まるで虐待されていた頃の浩一のようだ。高俊も浩一同様、虐待を受けているのでは?
「うん。あの傷、浩ちゃんが虐待されていた時と一緒やね」
と、雅が机を叩いた。何かを思いついたんだろうか? 6人は雅の方を向いた。
「よし! 明日から調べよっか」
「お父さん、おおきに」
千沙は嬉しくなった。まさか、雅も調べてくれるとは。やっぱり雅は頼りになる父だな。浩一も頼もしいと思っていた。こんな家族に住めて、よかったと思った。
翌日、千尋は八百屋にやって来た。買い物に来たのだが、もう1つ狙いがある。高俊の事だ。高俊がどうして、悩んでいるのか、あの傷が何なのか調べるためだ。八百屋にも協力してもらわないと。浩一の時もそうだった。この人が頼りにしてくれた。
「八百屋さん、高俊くんの様子、おかしいと思わん?」
八百屋も感じていた。明らかに怪しい。何かあるんじゃないかな? これはもっと調べないとな。
「うーん、そういえば怪しいわ」
「浩ちゃんと同じ事、やられとるんちゃうかと思ってな」
そういえば、浩一の虐待もそうだったな。同じ事の可能性もある。もしそうだったら、警察に言わないとな。
「そやね。また気を付けておくわ」
「ありがとう」
千尋は去っていった。八百屋は千尋の後ろ姿を見ている。今度、高俊の母が来たら、その理由を聞かないとな。