18
ある日の放課後、畑山は廊下を歩いていた。畑山は気になっている事がある。先日、どうして浩一はびしょぬれになっていたのかだ。普通、こんな事にならないはずなのに、何があったんだろうか? 理由を言う前に廊下に立たせた事を反省しつつ、考えていた。廊下には手洗い場がある。もしここでびしょぬれになったのなら、誰かがそれを発見して、通報するだろう。ならば、絶対にわかるはずだ。ならば、トイレの水だろうか?
畑山は試しに男子トイレに入った。と、そこには茂がいる。茂はバケツに水を入れていた。昼下がりに掃除はしたのに、どうして入れているんだろう。明らかにおかしい。何かを企んでいそうな表情だ。もしかして、浩一がびしょぬれになったのは、茂が水をぶっかけたからじゃないかな?
「大村、何しとんのや」
畑山の声を聞いて、茂は振り向いた。まさか、畑山がここに来るとは。
「な、何もしてないです」
「なんで水をくんどるんや」
畑山は少し怒っている。水をくんで、何をしようとしているのか? まさか、浩一を狙っているんだろうか? 男子トイレの入り口には、浩一の上履きがあった。小便器にはいないので、個室に入っているようだ。
「な、何でもないです」
「大村、ちょっと職員室に来い!」
畑山は怒っている。お前がやったんだろう。
「は、はい・・・」
畑山と茂は職員室に向かった。2人の声を聞いて、浩一は個室から出てきた。今日は水をぶっかけられなかった。よかったな。
浩一は上履きを吐き、下駄箱に向かった。下校しようというのだ。
一方、畑山と茂は職員室にやって来た。職員室には畑山と茂ぐらいしかいない。みんな家に帰ったようだ。
「こないだ、坂井がびしょぬれやったの、知っとるか?」
「えっ!?」
畑山に聞かれて、茂は首をかしげた。何も知らない表情だ。だが、畑山の表情は変わらない。絶対にお前がやったんだろう。いつもお前は浩一をいじめている。お前が一番怪しい。
「知らんのか? 坂井がトイレの個室におったら、誰かに水をかけられたって言ったんや」
「そ、そんな・・・」
それでも茂は知らないといった表情だ。本当は自分がしたのに。
「心当たりあらへんか?」
「はい・・・」
だが、畑山には怪しいと思っている事がある。どうしてこの時間にバケツに水をくんでいたのか。昼下がりの掃除の時ぐらいしかそんな事はしないだろう。
「じゃあ、どうして水をくんどったんや?」
「本当に何でもないんや」
茂は何でもないと否定している。だが、畑山は聞く耳を持たない。バケツに水をくんでいるだけで、明らかにおかしいと思う。普通そんな事はこの時間にしないだろう。
「掃除じゃないとそんな事をせぇへんやろ」
「うん・・・」
問い詰められて、茂は下を向いた。どう言い訳しようか。あまりにもでたらめな言い訳だったら、怒られるだろう。
「じゃあ、どうしたそんな事をやっとんや」
「それは・・・」
戸惑っている茂を見て、畑山はより一層怖い表情になった。それを見て、茂はますますおびえた。
「まさか、お前が坂井に水をぶっかけたんやないか?」
「そ、そうじゃないです・・・」
茂はやはり否定している。それを聞いて、畑山は怒りが浸透した。
「嘘だったらぶん殴ってもええか?」
「あ、ああ・・・」
「・・・、もう帰ってええぞ!」
何も言われなかった。茂はほっとした。茂は下を向いて帰っていった。よほど怖かったんだろう。
それから数日後の午前中の休み時間、畑山は偶然、男子トイレに入った。するとそこには、茂がいる。茂はバケツを持っている。そのバケツの中には、水が入っている。何をしようというんだろうか? 全くわからないな。
と、大村は個室の壁の上から水をかけようと、背を伸ばしている。それを見て、畑山は反応した。
「おい大村! 何をやっとんや!」
畑山の声を聞いて、茂は背筋が立った。見つかってしまった。どうしよう。
「あっ、ご・・・、ごめんなさい・・・」
数日前の話は嘘だったようだ。騙された気持ちになり、畑山は腹が立った。
「お前、嘘言ったな・・・」
「ご、ごめんなさい・・・」
畑山はバケツを奪い取り、茂に水をぶっかけた。茂は驚いた。
「な、何するんや?」
「お前がされたら、嫌やろ?」
畑山に問い詰められ、茂は下を向いた。自分がされたらいやだと思っているようだ。
「うん・・・」
「人がされたら嫌な事は、相手も嫌なんや。わかるか?」
「は、はい・・・」
茂は泣きそうになった。また浩一をいじめている場面を見られてしまった。また両親に迷惑をかけてしまった。
「もうやらへんな?」
「はい・・・」
茂は畑山に連れられて、教室に向かった。それを聞いて、浩一は出てきた。どうやら大丈夫だったようだ。
浩一は男子トイレから出てきた。と、そこに千沙がやって来た。
「よかったね、浩ちゃん」
「いつも迷惑かけて、ごめんね」
浩一は申し訳ない気持ちでいっぱいだ。いつもいつも千沙の世話になっている。たまには千沙のために何かをしたいと思っているのに、何もできていない。
「ええんやで。家族やないけど、友達やから」
「おおきに」
2人は教室に向かった。やっといじめが解決したようだ。