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あなたと生きて  作者: 口羽龍
第1巻 大阪編  第1章 一緒に住む
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 8月19日、戦争が終わって5日目だ。穏やかな日々から、戦争が終わったと実感してきた。だが、まだがれきの山ばかりだ。元の生活に戻るには、どれぐらいかかるんだろう。どれぐらいかかるかわからないけれど、前に進んでいかないと。


 そんな中を、1人の男が歩いている。松岡雅まつおかまさし、千尋の夫だ。戦争に行っていたが、何とか帰ってきたようだ。負けはしたが、こうして再び祖国の地を踏み入れる事ができた。また姉妹と再会できる。そして、抱っこできる。そう思うと、気持ちが軽くなる。負けたつらさを忘れる事ができるだろう。


 千尋はがれきの山の中でじっとしていた。と、そこに1人の男がやって来た。雅だ。雅を見た瞬間、千尋は喜んだ。生きているかわからないから、どうなったんだろうと思っていたが、帰ってきたようだ。まさか、また会えるとは。


「あ、あんた!」


 千尋を見つけると、雅は元気よく敬礼をした。


「松岡雅、ただいま、帰還しました!」

「まぁ、あなた、帰ってきたんやね! よかった!」


 雅と千尋は抱き合い、喜んだ。だが、雅は浮かれない表情だ。何があったんだろうか?


「うん。よかったんやけどな」

「えっ・・・」


 その声を聞いて、千尋の表情が変わった。何かあったんだろうか? まさか、兄弟に戦死したのがいるんだろうか?


「弟2人が死んだんやわ」


 雅は泣きそうになった。だが、戦死した弟の分も頑張らなければならない。


「そうなんや・・・」

「崇は特攻隊で出撃した。そして勝は船を撃沈されたんや」


 こんな事があったのか。さぞかし、残念だっただろうな。一緒に日本に帰りたかっただろうな。また家族と再会したかっただろうな。


「わかってるわ。知らせが来たんや。でも、崇さんと勝さんの分も生きよ?」

「そ、そやね」


 と、千沙と理沙が雅に気付いて、やって来た。


「あっ、パパ、おかえり!」

「おー、千沙、ただいま!」


 雅は千沙を抱っこした。千沙は喜んでいる。また雅と再会できるとは。


「帰ってきてよかったわね」

「ああ」


 色々あったけれど、こうして家族で再会できた。そう思うと、戦争に負けた事なんて忘れる事ができる。これからは、平和で、豊かな日々を送っていこう。


「また家族みんなが揃ったんやな」

「よかったわね!」


 雅は空を見上げた。もう戦闘機が飛んでいない。青い空が広がっている。きっとこれからの世界は、この青い空のように明るいんだろうな。


「これから明るい日々が続くとええな」

「そやね」


 千沙を下ろし、今度は理沙を持ち上げた。


「あー、高い高い」


 理沙は喜んでいる。家族でいるのがこんなに嬉しいとは。帰ってきてよかったな。


「嬉しそうだね」

「これからまた幸せに過ごそうや」

「ああ」


 こうして、6人が再びそろった。これからどんな日々があるんだろう。どんな事があっても、平和であってほしいな。




 その夜、6人はそろって晩ごはんを食べた。まだまだ戦争が終わった直後だ。そんなに食べられるものはない。だけど、みんながいると、こんなにおいしい。どうしてだろう。やはり、一緒に食べるからおいしいんだろうか?


「こうして久々に食事ができるって、本当に幸せやな」

「質素やけど、本当にごめんな」


 千尋は申し訳ない様子だ。せっかく、帰還してきたのに、国のために頑張っていたのに、お祝いの何かをできない。


「ええよええよ! 帰ってこれただけで、本当に嬉しいねん」

「ありがとう」


 雅は笑みを浮かべている。やっぱり一緒にいられるのが嬉しいな。


「これからもよろしくね」


 6人は一緒に暮らせる日々が再び来た事に感謝していた。




 8月30日、戦争が終わって2週間余りが経った。まだまだ厳しい生活は続いている。だが、人々は少しずつ元の生活に向かって歩き始めている。


 雅はラジオにくぎ付けになっている。何か重要なニュースが入っているようだ。千尋も足を止めて、そのラジオを聞いている。


「マッカーサーが日本に来はったんか?」

「そうらしいな」


 千尋は首をかしげた。マッカーサーって誰だろう。アメリカの人だろうか?


「戦争の後始末に来たらしいんやけど、憎たらしいわ」

「なんで?」

「この人がアメリカ軍を指揮してたんやろ?」


 雅は嫌に思っている。太平洋戦争はアメリカとしたんだから、その男は敵だ。どうして敵がここに来るんだ。雅は拳を握り締めながらラジオを聞いている。


「せやけど」


 千尋は雅の気持ちがよくわかった。戦争で多くの人を死に追いやったアメリカは許せない。だけど、そんな事言ってられない。人を憎まずに生きよう。これから明るい未来が待っているのだから。


 と、何かに気付き、雅は振り向いた。そこには千沙がいる。かまってほしいんだろうか? それとも、何かを感じたんだろうか?


「あら、千沙」

「どないした?」


 千尋は千沙の頭を撫でた。千沙は嬉しそうだ。


「千沙は何も気にせんでもええんやで」

「何なん?」


 千沙はそのラジオを聞いている。まさか、わかって聞いているんだろうか?


「何も考えんくてええんやよ。明るく生きてや」


 千尋は笑みを浮かべた。戦争の事は全く考えずに、平和に生きていく事ができればそれでいい。これからは平和の時代が始まるのだから。


 と、そこに理沙もやって来た。理沙もそのラジオを聞いていたんだろうか?


「あらあら、理沙も来たんやね」

「パパ、何を怒ってるん?」


 よく見ると、雅が怒っているかのようだ。いまだにマッカーサーが許せないようだ。


「何でもないんやで。気にしなくてええんやで」


 千尋は理沙を抱っこして、高い高いをした。理沙は嬉しそうだ。まるで戦争を知らないかのようだ。だが、この辺りはがれきの山だらけだ。戦争があった事を証明している。だが、それらもやがてなくなり、新しい時代になっていくだろう。そして、戦争の記憶は徐々に薄れていく。だが、戦争があった事は、語り継いでいかなければならない。


「千沙も理沙も楽しく生きていればそれでええんやで」

「何も気にせんと頑張って生きような」

「うん!」


 ふと、雅は空を見上げた。これからは、この青い空のような平和な日々を送るだろう。千沙、理沙はこれからどんな日々を送っていくんだろう。全くわからないな。


「これからどんどん平和な世界に向かっていくんやろな」


 千尋も空を見上げた。もう空を飛ぶ戦闘機はない。世界が平和になった証拠だ。


「そして千沙と理沙がそんな世界を生きていくんやな」

「2人の未来に期待しようや」


 これからは、どんな日々があるんだろう。全くわからないけれど、戦争のない日々がいいな。

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